働きやすいプロジェクト環境のために
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〜リーダーとしての行動の原点〜

糸瓜(へちま:ペンネーム):12月号

 本コラムを読んでいらっしゃる方は、マネジメントは成果達成への働きかけだけでなく、人間性への働きかけも同様に重要であることを認識していると思います。今回はそんなマネジメントの軸足に着目します。

  マネジメントの2軸

 仕事において人間性への働きかけが重要であることは、最近、世間的にも注目されていることを実感します。筆者は過去に多くのマネジメント研修を受けましたが、先日受けたものは、「人間性への働きかけ」について、大きな部分を占めていました。これは過去にはなかった傾向です。仕事なのだから成果を追求するのが当たり前ですが、人間性が後回しになったために、崩壊してしまったプロジェクト、職場は多く見られます。従来は、成果さえ達成すればよかったのが、成果を達成するだけでは組織がうまく回らなくなってきたことが問題として広く認識されるようになってきたのではないかと思います。
 そこで、成果達成と人間性の両軸がマネジメントでは重要だ、となったわけです。しかし、この二つが重要だと分かっても、実際に両立するのは簡単なことではありません。

 メンバーへの働きかけの強弱

 リーダーとしてメンバーを引っ張り、プロジェクトを推進していくことは多大なエネルギーを要します。時にはメンバーに苦労・苦痛を強いてでも進めていかなければなりません。言いたくないことも言わなくてはいけないリーダーという立場は大変孤独なものです。それに、プロジェクトに対する熱意は、リーダーが思っているほどメンバーは持ち合わせていません。
 そんなときに、メンバーの人間性への働きかけも重要だという思いがあると、そこを逃げ道としてメンバーへの働きかけ、つまり成果を達成する方向が弱くなることはないでしょうか。メンバーが疲れきっている多忙なプロジェクトで、レビューが不十分と感じたときに、再度レビューを実施するようメンバーに求めることができるでしょうか。不十分なドキュメントを再度作り直すよう求めることができるでしょうか。
 ベテランのマネージャにとっては、成果達成に加えて人間性への働きかけを考慮すべきということは当たり前のことかもしれません。若手のマネージャにとっては、いきなり両方が大事と言われると混乱します。さらに自分自身が人間性への働きかけが不十分な環境でメンバーとして関わってきたことが多いために、むしろ人間性への働きかけの方を重視しすぎて成果達成の軸を見失ってしまうこともあります。

 成果を追求する意味

 筆者は、成果追及しなければ職場が働きやすくなるとは思いません。2002年、筆者の勤める会社は、創業来始めて赤字決算になりました。それも前年度の利益の20倍規模の赤字を出しました。このとき役職が高い人ほど緊張感が走ったように感じました。確かに役職が高い人の方が背負っている責任は重いですし、より深刻に受け止めるのも分かります。そして上司の緊張感が、部下に伝播していきました。かくして会社全体が重苦しい雰囲気につつまれていった結果、そこは決して働きやすい職場ではありませんでした。
 このとき筆者はPS研究会に参加し、自分なりにいろいろと職場の空気を変えようと試みましたが、自分一人の力ではこの重苦しい雰囲気はほとんど変わりませんでした。しかし翌年、会社は大きく黒字になった瞬間、会社の雰囲気は一変しました。かつてのように和気藹々としたものではありませんが、互いに責任をなすりつけ合うようなことはなくなりました。この経験から、筆者は成果にこだわることの重要性を知りました。
 プロジェクトにも似た面があるのではないでしょうか。いくら働きやすくても、納期が遅れ、品質が悪く、コストが超過していては元も子もありません。プロジェクトが成功してこそ、胸を張って“働きやすい”と言えると思います。もちろん、プロジェクトが成功したのにメンバーが疲弊しきってしまうことは避けなければなりません。しかしプロジェクトが失敗していながら、メンバーがハッピーな状態でいられるほど余裕のある会社は、現在はほとんど無いのではないでしょうか。

 リーダーの原点

 読者のあなたが若手の場合は、リーダーとして人間性への働きかけを重視するあまり、成果達成への働きかけが弱くなることに注意が必要です。読者のあなたがベテランの場合は、若いリーダーが人間性を重視しすぎてしまうことに注意が必要です。リーダーとして品質良く予算内に納期通りにプロジェクトを完了させるという原点を忘れないでほしいと思います。また、この原点をリーダー自身の強い気持ちで引っ張ることを忘れないでほしいと思います。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「あれ?もくちゃん、ニコニコしてどうしたの?」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ちょっとちょっと、今日はボーナス日だよ!」
は:「あー、そうだった!!今期は意外と業績よかったから、期待できるね。」
も:「ねー。予想以上に仕事が多くて、たいへんだったけど、成果が出ると報われた感があるよね。」
は:「ほんと、成果を実感するって大事だよね。」
も:「あとね、期間が長い仕事だと、途中で自分の貢献が実感できると嬉しいんよね。」
は:「ここまでこんな成果でてるよってフィードバックは大事だよね。ダメなときは、どうやったら成果につながるかもフィードバック欲しいし。」
も:「それから、残業続きのときの差し入れも嬉しいなー。この前も、深夜に上司がドーナツ買ってきてくれて、嬉しかったなぁ。」
は:「頑張っているのを分かってくれてるってのが嬉しいんだよね。それでちゃんと成果に結びついたら、ハッピーなプロジェクトの終わり方だよね。」
も:「ってことで、ボーナスも出ることだし、今年の締めくくりにぱーっと忘年会でもやりますか!」
は:「自分たちへのご褒美会だね。コラーゲン鍋とかどう?」
も:「お、行こう!行こう」
は:「ということで、読者のみなさま、今年もご声援ありがとうございました。来年もこのコーナーをよろしくお願いします!」


 筆者:糸瓜(へちま:ペンネーム)
PS研究会メンバー。本業はソフトウェア開発プロセスの改善で、特にソフトウェアテストやプロジェクトマネジメントを専門とする。最近、PS研究会の関西メンバーと共にPS-mosey(ぴーえす もーじー)というコミュニティを立ち上げ、関西にもPSを普及させる活動を始めた。ちなみに糸瓜にした理由ですが、花言葉が「ひょうきん」だったからです。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。業務では人材育成企画と並行してPMOを担当。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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 バックナンバー
第27回目2008年11月号  〜働きやすい環境を実現するためにPSができること〜(松ぼっくり)
第26回目2008年10月号  〜途中参入者が教えて欲しいこと〜(木犀草)
第25回目2008年9月号  〜働きやすいプロジェクト環境のためのDon't〜(花水木)
第24回目2008年8月号  〜フリーライダーにご用心〜(銀杏)
第23回目2008年7月号  〜暗黙のルール〜(花水木)
第22回目2008年6月号  〜ご機嫌ですか?〜(木犀草)
第21回目2008年5月号  〜「与えないこと」を「与える」〜(沈丁花)
第20回目2008年4月号  〜プロの仕事は“時は金なり”〜(釣鐘草)
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第17回目2008年1月号  〜「聞いてるつもり」の落とし穴〜(花水木)
第16回目2007年12月号  〜「言ったつもり」の落とし穴〜(木犀草)
第15回目2007年11月号  〜プロジェクトマネージャができること〜(松ぼっくり)
第14回目2007年10月号  〜リラクセーションを試してみませんか〜(百日紅)
第13回目2007年9月号  〜「へぇ〜!」から始めるチームづくり〜(ねこやなぎ)
第12回目2007年8月号  〜寝て見る夢、起きて見る夢〜(杉の木)
第11回目2007年7月号  〜ビジョンとメンバーの関係は?〜(楠木)
第10回目2007年6月号  〜デトックスしませんか〜(木犀草)
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第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
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