働きやすいプロジェクト環境のために
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〜暗黙のルール〜

花水木(ペンネーム):7月号

 私達の身の周りには、実にたくさんのルールがあります。たとえば、信号は青になったら渡る、プロジェクトのドキュメントはこのテンプレートを使う、コピー機を使うときはここからカードを持っていって・・・などです。ルールと呼ぶには大げさすぎることも入っているかもしれません。しかし、もしプロジェクトに暗黙のルールがあって、それが通用しない人がプロジェクトメンバーにいたとしたら?
 今回は、私がこの春に体験したカルチャーギャップから、暗黙のルールとその遵守度合いについて考えてみたいと思います。

  ルールはどこに?

 先日、30数カ国から集まった100人以上の人と一緒に、ある研修を受けてきました。参加者は、専門技術分野を持った人たちでした。その研修は、技術分野を深堀するのではなく、ほとんどのセッションがチームワークを学ぶためのものでした。
 中でも強烈な印象だったのが、ゲームのようなディスカッションのセッションでした。各チーム10人位に分かれ、重要な決定をし(二択)、その決定に基づいて必要な物資の優先順位を、制限時間内に決めるというものです。最初の決定には正解があり、そこを間違うとチームは罰ゲームのようなことをします。また、物資の優先順位についてチームの結論が出ないときもタイムアウトになり、罰ゲームが待っています。読者の皆さんはこういうとき、どうしますか?
 まずは、与えられた状況の確認と最初の決定のために、多くの時間を使うでしょう。・・・と、いう時点で私自身が暗黙のルールを持っていることに気がつきました。私のチームでは、集まってすぐに物資の優先順位の議論をし始めたのです。まずこれに少し驚きました。
 その後で、ある人が進行役に立候補しました。そして最初の決定事項についてみんなの意見を聞き始めました。その結果、「ひとりひとり順番に意見を言って、その後で決定しよう」ということになったのです(明示的なルール)。
 「順番に」というルールが決まった瞬間、日本人なら(と言い切るのは申し訳ないのですが)、きちんと順番を守り、途中で自分と違う意見が出てきても「そうかな?」と思いながら一応、全員の話しを聞くのではないでしょうか。ところが、さて意見を話し始めると、メンバーの3分の1も話し終わらないうちに、後ろの順番の人が割り込んで優先順位の議論を始めたのです。さらにもう話し終わったはずの人も割り込んで、順番がぐちゃぐちゃに。円座に座っていたのに、立ち上がって席を移動している人もいるし、割り込まれた人もその議論に加わっている始末・・・。
 これには本当に驚きました〜!!まさにカルチャーショックの瞬間でした。「“順番に意見を言う”、“最初に重要事項を決定してから優先順位を検討する”っていうルールはどこへ行ったの???」「第一、まだ意見を言ってない人がたくさんいるじゃない??」「私だって順番がきたら言おうと思っていたのに」・・・すっかり混乱してしまいました。

 どのくらいルールをきちんと守るか

 「す、ストーーーップ!!」「ワンバイワンと決めたでしょ?!」あまりにフラストレーションが溜まった私は、気がつくと立ち上がって3・4人のメンバーを制止していました。白熱した議論をしていたメンバーは、悪びれることもなく、「あ、そうだ、そうだ」といった態度であっさりと自席に戻り、順番の続きが開始され、めでたく全員が意見を言えたのでした。
 ルールの内容を決めるだけでなく、ルールをどのくらい厳密に守るかということも、大きな意味のルールである、と気づきました。少なくとも私には、「この場でみんなで決めたルールはきちんと守るべき」というマイルールがあったのです。そして、そのようなルールを持たない人も存在するのだということを実感しました。
 私は同じゲームを、日本の皆さんと体験してみたくてたまりません(版権があるので容易にはいきませんが)。私が想像するのは、静かに与えられた状況を書き出して確認しつつ、順番に意見を言い、その後でちょっとディスカッションして決議、という穏やかなスタイルです。おそらく90%以上がこのパターンになるのではないでしょうか。
 皆さんは、他の人が話しているところをさえぎって自分の議論を始めますか?してもよいと思っていますか?私たちには、自然と身について共通になっているルールがありそうです。

 ルールが行動を決める

 よくよく見回してみると、私たちの周りには、本当に多くのルールがあります。先日も、ある地方から来ていただいた数人の協力会社のメンバーと、小さな交差点を歩いていたときのことです。信号は赤だったのですが、左右を見渡しても車の影すら見えなかったので、私は、当然のように歩き出しました。ふと後ろをみると、彼らは止まって待っています。え?と思って「車が来ないのに渡らないのはなぜ?」と尋ねてみたら、「だって赤ですから」と言います。「赤信号は止まる」というルール、そしてそれをどのくらいきちんと守るか、というルールが私と彼らとで違っていたのです。
 こんなわかりやすい話でさえルールの守り方が違うというのに、プロジェクトやオフィスでのルール、暗黙のルールがあったとしたらどうなるでしょう。
 自分にとっての当たり前(常識)は、他人の非常識(常識にあらず)。働きやすい職場環境、風通しのよいプロジェクト環境のためには、いったんルールを棚卸してみて、明文化すべきもの、きちんと守るべきものなどを整理することも重要かもしれませんね。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「ヤッホウ。帰ってきましたよーん(前号の編集者コーナーを参照)」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「おお、お帰りー。タフな研修だったみたいやね?チームセッションを仕切きるってすごいね?」
は:「みんなで順番制だって決めて、意見を言うチャンスを待ってたからね〜。ルールを破った人たちに対して妙に腹が立って、急に“仕切り屋の私”が出てきたよ〜。自分でもビックリ。ま、生きて帰ってこれてよかった〜。ところで、机の上がひどいことになってるねー」
も:「あ、ごめん。原稿を書いてる最中に、ペン立てひっくり返してそのままにしちゃってた。」(ごそごそ片付ける)
は:「ね、電話は左、ペンは右に置かないの?」
も:「ん?」
は:「その方が電話を取りながらメモを取りやすいってことよ。」
も:「そうなの?・・・あーー、わかった。それって、右利き用のルールだぁ!」
は:「お、そっか。左利きの人は反対のほうがメモを取りやすいかも。」
も:「ルールっていうか、自分のやり方を中心に考えてることって、意外と多いかもね。」
は:「そうだねー。“ルールを守ってない!”って腹を立てる前に、“なぜ、xxxするの?”って聞くのが大事かもしれないね。」
も:「確認して、分かり合うってことが大事なのかも。」
は:「そうだね、で、もくちゃん、お菓子を食べたあとのゴミをなぜ机の上におきっぱなしなの?笑」
も:「しまった・・・これはルールっていうより、だらしなさだな。てへへ、片付けまーす。やっぱ編集長がいたほうが、シャキッとするなぁ。ピシっと仕切ってくれるから気持ちいいよ。」
は:「守るべきルールは守って、でも、厳しすぎず、効率のよいルールにしようね!」


 筆者、編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けてください」と「華やかな恋」。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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