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〜人を動かす物語、心に宿る物語〜

孔雀草(くじゃくそう):5月号

 プロジェクトを進める上では、いろいろなコミュニケーションが必要です。今回は、必要なことを相手に伝えるために、「物語」を作って語る、つまり事実だけでなく、背景やそのときの思いを織り交ぜて、ストーリー立てて話すことがとっても役立つということについて書いてみます。

  物語で語るということ

 人は、物事を伝えられるとき、客観的事実を淡々と述べられるよりも、状況や感情も交えたストーリーとして話してもらうほうが、体系的によく記憶するとのことです。最近、さまざまな業種でこの考え方が使われ始めています。例えば、コロンビア大学医学部では「物語医学」という考え方を学ぶそうです。なぜなら、診断上の重要な判断をするための材料が、「患者が語る物語」にあることが判明したからです。患者が診療を受けるに至った経緯と、それまでに自身が感じたことをストーリーとして話してもらうことで、医師が患者の症状以外の判断材料を得ることができるため、より効果的な治療ができるという考え方です。
 物語が役立つのは、数値などで状況を報告するのが難しい場合や、事実以上にその場の状況等が重要な場合などが挙げられます。物語は、事実を淡々と述べる以上に、重要な情報を関係者に伝え、さらに記憶に残してもらうことで、コミュニケーションを円滑化する働きがあります。例えばお客様に新しい提案をした報告を部下から受ける例を考えてみましょう。議題と決定事項を淡々と述べられた場合と、提案内容を聞いていたお客様の態度・表情とその変化まで合わせて述べてもらう場合とでは、後者のほうが、次の行動を考える上で相手の思いや状況まで想像することができるため、非常に役立ちます。

 物語の効果と人の心への働き

 この「物語」とは、人の心にどのような影響を及ぼすのでしょうか?  「物語」は、聞く人に伝えたい内容を擬似体験させ、喜怒哀楽の感情を引き起こす効果があります。同時に、どこかで聞いたことがあるという感覚(既視感といいます)をもたらします。つまり、単に事実を淡々と述べられるより、心が動き、共感しやすいということなのです。
 認知科学者マーク・ターナーによると、「物語は将来を見通し、予測し、計画をたてて説明するためにとても大切であり、私達の経験や知識、思考の大部分は物語という形で、形成されている」とのことです。
 また、「物語」を作り出すことは、物事の本質を理解することにも役立つとの説があります。例えば、イソップ物語やギリシャ神話、日本昔話等は、語り継がれているうちにさまざまな人の心に共感しやすいように変化してきたと考えられます。これらは物事の本質を理解するために自然と変化してきたというのです。つまり、人の物事の見方や感じ方、そして他者や環境と接する中で起しやすい行動パターンなどが、「物語」という形として残ったということです。

 心に宿る物語

 ところで、人の心には、生まれたときから、ある物語の類型があるそうです。たとえ時代が変わり、生活様式が変わっても、同じ類型の考え方や行動が随所で表れるそうです。  それは「英雄の旅」という物語。次の三つのシーンから成る物語です。
1)旅立ちと新たな世界に入る「イニシエーション」
2)英雄はお告げを聞くが、初めは拒絶し、その後、一線を越えて新しい世界へ踏み出す。
3)イニシエーションの間には、厳しい試練が課され、底知れぬ絶望を味わう。だが、その過程で新たな人格を持った人間へと生まれ変わる。それから、もとの世界に戻り、二つの世界の長となって、両方の世界の改善に全力を傾ける。
                                 ダニエル・ピンク著、大前健一訳、「ハイコンセプト」より

 世の中にある有名な物語、ブッダの物語、アーサー王伝説、ネイティブ・アメリカンに伝わる物語、そして映画「マトリックス」に至るまで、さまざまな物語がこんな構成になっているそうです。かの有名なロールプレイングゲームシリーズにも、当てはまります。  ある日、ふと今までの自分を振り返って、英雄の旅に似た行動パターンをとっていたということはありませんか?上記の著者自身も「英雄の旅」が著書の基盤になっていることに最近気づいたと言っています。

 物語を生かす

 もちろん、事実を客観的・論理的に語ることはとても重要です。しかし、語る内容は相手に受け入れてもらってはじめて価値が出ます。そう考えると、相手の共感を誘い効率的に情報を伝達できる手段として、ストーリー仕立てで話すということは、とても価値があるのではないでしょうか。
 4月から新天地でご活躍されている方々もいらっしゃると思います。周りとのコミュニケーションに「物語」を生かしながら、豊かな関係を築いて活躍されることを心より願っております。


 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「そういえば、私が昔ハマったRGPゲームも“英雄の旅”パターンだったなぁ。たしかに、パターンがあると、当てはめて次に何がくるか予想できるよね。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「そうそう、葵の印籠でおなじみのあのテレビ番組なんかもやね。コミュニケーションの本質ってそういうことなのかもしれへんね。」
は:「うん。それに、私は“先に結論知りたい派”だな。たとえば、友だちが彼氏とどうのこうのって話すのを聞いていても、“結局、カレシとどうなった”のかを先に知りたくなっちゃうもの。えんえんとケンカの経緯を聞かされているとイライラしてきちゃう。」
も:「あははー、はなみずきちゃん、“で、結局どうなったのよ?”って途中でキレることあるよね(笑)。」
は:「あ・・・・・(一瞬反省)、だね。これって、聞き手側のもつパターンを知ることも重要ってこと?」
も:「そうやねぇ。コミュニケーションは双方向だからね。話すほうも、聞くほうも、いくつかのパターンを持ち合うことが大事じゃないかな?」
は:「私たちは、いつも、もくちゃんが突っ込み役だよね(笑)」
も:「といいながら、冷静に突っ込むくせにぃ!」
は:「パターンを知るってことは、役割を固定しないで、臨機応変に対応できるってことにつながるのかもしれないね。」
も:「なるほどー、オチのパターンもバリエーションあった方がいいもんね。」
は:「結局そこなのぉ?これはパターンじゃなくって、キャラだね(笑)。」


 著者:孔雀草(くじゃくそう:ペンネーム)
PS研究会メンバー。企業の研究所勤務。現在はモバイル機器向けの動画・静止画処理システム及びハードウェアの研究開発に従事。新しいことを考えだすチームのマネジメントに興味があります。孔雀草の花言葉は「いつも愉快」。いつもそうありたいと思います。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在もソフトウェア開発のプロジェクトチームに参加しつつ、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。当コラムの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西出身のPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの編集メンバー。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
第6回目2007年2月号  〜私にとっての働きやすさとは〜(杉の木)
第7回目2007年3月号  〜笑顔の効力〜(銀杏)
第8回目2007年4月号  〜モティベーションをコントロールしよう〜(向日葵)
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