働きやすいプロジェクト環境のために
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〜私にとっての働きやすさとは?〜

杉の木:2月号

 5年目を迎えるPS研究会に私が参加することになったのは、一昨年の11月のことです。代表を務める松尾谷氏に誘われ、初めは軽い気持ちで参加したのですが、徐々に入り込んでいき、今では例会には必ず出席するようになりました。そんな私の「私にとっての働きやすさ」について、書いてみたいと思います。

 プロジェクトの“誓い”

「読者のみなさんは、プロジェクトの開始時、どのような誓いをたてますか?」

 いきなり問われて「誓いって何?」って思うかもしれません。実際には、何かを「誓う」という行為はしないかもしれませんね。でも、「プロジェクト憲章」のような、共通の考え方のようなものが必ずあるのではないでしょうか。 プロジェクトを構成するメンバーは、それぞれ経験やスキルが違い、いろいろな思いでプロジェクトに参画してくるでしょう。ある人は、自分の技術力向上を目標にするかもしれないし、ある人は、部下の育成をめざしているかもしれません。会社は、コスト削減を一つの方向性にするでしょう。それぞれが自分なりに“大事にしよう”と思うことがあるはずです。それが私の考える“誓い”です。
 “目標”ではなく“誓い”という言葉を使ったのは、目標のように、メンバーから遠い外側にあって目指すものというより、メンバーの心の中に留まるもの、つまり、メンバーと共にある状態をイメージして欲しいと思ったからです。

 全てはお客様のために

 私は、「“全てはお客様のために”という姿勢をもつ」を、プロジェクトメンバーが共通に誓うべきだと考えます。
 私の所属する組織では、プロジェクトを遂行する上で迷ったときは必ず、「全てはお客様のために」を原点に考えます。そしてそれが共有できれば、おのずから納期を遵守し、そのために他のメンバーと協力するだろうと考えられています。また、私もそのように行動するよう心がけています。つまり、「全てはお客様のために」が、私の所属する組織共通の誓いになっています。
 ところが、いくら組織として誓いをたてたとしても、プロジェクトも中盤に差し掛かると、いろいろな問題が生じて、メンバー同士の会話がかみ合わなくなることがあります。それと共に、私自身も自分の仕事への意欲が薄れていくように感じることがあります。
 以前、あるプロジェクトが佳境に入ったとき、メンバーのひとりが、お客様の愚痴をこぼしていました。最初は「大変だねー」と聞いていたのですが、だんだん、彼はダラダラと結論のない愚痴ばかり言うようになりました。毎日愚痴ばかり聞かされる私もいい気分はしません。でも、話がかみ合わないなぁ、と思いつつ、イヤイヤ愚痴に付き合っていたのです。すると、なんとなく毎日がいやな気分になり、仕事への意欲どころではなくなってきました。結果、彼の作業の進捗が遅れただけでなく、私までも遅れるようになってしまったのです。
 そんな時、私たちの上司が、プロジェクトの誓いを思い出させてくれました。すると、面白いように、作業がどんどん進むようになったのです。

 問題は我にあり

 もうひとつの私の誓いを紹介します。「問題は我にあり」、です。例え新人であれ、何事に対しても、”自分に責任があるんだ”という気持ちを持ち、課題に取り組みましょうということです。もし、今、何か困っていることがあるとしたら、「問題が自分にあるのではないか?」と自問自答してみるのです。他人のせいにするよりも、まず自分がどうなのかを考えることで、モノのみかたが変わります。そして、自分自身が変われば、周りにも変化が現れるはずです。
 仕事でも家庭でも同じです。私は自分の家庭の運営を、「杉の木プロジェクト」と命名しました。もし家庭でうまくいかない場面があったら、家族のせいにしないで自分自身に原因がないか、を考えるようにしています。まだまだ努力不足で、ついイライラして家族にあたることもありますが、「自分に欠けていることはないか?」、「今、自分にできることはなんだろう?」と自分に問いかけるように心がけています。まだ、問いかけの答えを模索する日々ですが、考えることが大事だと思っています。
 この家庭での訓練が功を奏し、職場でも同じように考える癖が身につきました。今まで、働きやすい環境ができないことをメンバーのせいにしていたのですが、自分から周りに働きかけることができるようになりました。そして、それをきっかけに、のびのびとお客様中心に考えることができるようになってきました。
 私は、このふたつの誓いを意識することによって、プロジェクトを引っ張っているという実感を得て、やりがいが生れました。

 私にとっての働きやすさとは?

 私にとっての“働きやすいプロジェクト環境”は2つあります。一つは先ほどの“誓い”をメンバー全員が共有していること。そしてもう一つは、共通の“誓い”の下、助け合いながらも切磋琢磨して力を発揮しあう仲間がいることです。
 ただ製品をつくるのと、お客さまに喜んでいただける製品をつくること、さらに、製品づくりを通して、成長し合う仲間がいるのとでは、毎日の仕事に対する意欲がぜんぜん違うと思うのです。私は、同じ仕事をするのだったら、“働きやすいプロジェクト環境”のほうを選びます。
 私は“働きやすい環境”で、のびのびと仕事にチャレンジしたいと思っています。お客様が満足してくださるためにはどうすればいいか、どうすればお客様が求めるシステムを実現できるのか、それを考え、実行しながら、プロジェクトメンバーと切磋琢磨し、お互いに持てる力を存分に発揮できたら嬉しいです。
 2つめの誓いのおかげで、“働きやすい環境”は、誰かに作ってもらうのではなく、自分から創っていくのだ、と考えるようになりました。そして、少しずつですが、誓いを軸にした、切磋琢磨する仲間の輪が広がっているように思います。

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「なるほど…。家庭運営もプロジェクトって面白いねぇ。すぐにヒトのせいにしちゃう私には耳がいたいなぁ。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「ヒトのせいにすると、自分は楽だけどね!」
は:「今回は、杉の木さんの真っ直ぐさとか、柔らかさを感じたんだけど。」
も:「“誓い”って発想、面白かったね。誓いといえば、みずきちゃん、何か誓いってある?」
は:「うーん、結婚式のときに『はい、誓います。』って言ったような気が…。気がするくらいよ(笑)。あ、これは“心にあるもの”じゃないね(笑)」
も:「メンバーの心にあるものねぇ・・・心がけているけど、目指していたりもするもの、かな。私たちの誓いって何だろ?」
は:「ちょっとでも情工哀史が減るようにPSを普及する!かな。例えば、PS研究会から情報発信する姿勢をもつ、とか。ほら、ここもそうだしね。」
も:「さすが、編集長!それは野心とも言う?」
は:「うーん、そうかも!?もくちゃんは?」
も:「みずきちゃんみたいにエレガントで知的になりたいっ!」
は:「それ、誓いなのぉ?」
も:「あと、原稿の〆切に遅れない・・・」
は:「それはしっかり守ってもらいますよ(笑)。ということで、読者のみなさま、次号もお楽しみに!」


 著者:杉の木(ペンネーム)
PS研究会メンバー。
小さい頃から、”杉の木”は空に向かって真っ直ぐにのびるんだよ!と言われ、空を見上げ、いつの日かそんな真っ直ぐに伸びる杉にあこがれるようになりました。「曲がったものは大嫌い!」とは言わず、「みんな違ってみんないい」と言える大人になりたいです。IT企業で約13年勤務。2000年からアウトソーシングの品質保証に携わり、2001年からソフトウェア開発の品質保証も行うようになりました。
 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在もソフトウェア開発のプロジェクトチームに参加しつつ、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの編集メンバー。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
 バックナンバー
第1回目2006年9月号  〜このコーナーのご紹介〜(花水木)
第2回目2006年10月号  〜ソフトウェア技術者が働きやすい作業場所とは?〜(楠木)
第3回目2006年11月号  〜プロジェクトチームにおける新人の居場所〜(菜の花)
第4回目2006年12月号  〜挨拶は“安全な仲間”のシルシ〜(木犀草)
第5回目2007年1月号  〜うまくほめて正しく叱る〜(花水木)
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