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〜人間関係の改善を脳科学から考える〜

万両(ペンネーム) [プロフィール] :9月号

 職場ストレスのダントツ一位は人間関係だそうです。みなさんも思い当たる節があるのではないでしょうか?では、自分にとって「良い人間関係」の相手とは、どんな人でしょう?今回は、脳科学の視点からちょっと考えてみましょう。

  進化からみた「良い人間関係」

 人間関係が、進化の結果霊長類が獲得した、「より生き残るために助け合う関係性」だとしましょう。そうすると、良い人間関係とは、こんな風に考えることができます。
“自分が生き残るために、役立つ行動をしてくれる相手”が良い相手。
 では、具体的に「自分が生き残るために役立つ行動」とは、どんな行動でしょうか?それは、人間の生き残り行動から考えるとこうなります。
 まず、基本行動(爬虫類)の視点では、繁殖と安全とエサを提供してくれる相手です。そして、子育て行動(哺乳類)の視点では、自分の子育てを支援してくれる相手です。すごく直接的でわかりやすいですね。本当にありがたい「良い相手」です。

 学習と成長からみた「良い人間関係」

 次に、学習と成長(脳の基本)の視点で、自分の役立つ行動をする相手とはどんな相手でしょうか?それは、自分の行動を認めてくれる相手、無視しない相手です。つまり、自分の行動にOKの反応を、リズムよくフィードバックしてくれる相手です。自分の話に、リズムの良い「うなずき」や「あいづち」を返してくれる相手は、「いい人」だなと感じますよね。自分のした行動が実は相手の価値観と合わない場合でも、OKの反応をしてくれる相手であれば「すばらしく良い人」だと感じます。この場合、あまり話の内容は関係がないようです。
 自分の話を無視しないで、フィードバックを返してくれる。どんなことでもまずはOKのサインを出してくれる。その上で、なぜそんな行動をするのか、純粋に質問してくれる。その質問によってもし自分の行動が間違っていれば、それに「自分自身で気づかせてくれる」相手は、「学習と成長」の視点でみれば本当に良い人ですね。

 NGのフィードバック

 元来、我々生き物は、自分の行動にNGのフィードバックを返す相手は、敵だと感じます。自分がその時にどんな言動をとったかとは無関係に、怒りの感情が沸いて戦闘モードになることも身近にみられる反応です。上から目線でお前は間違っているなどと言われたら、切れてしまいそうです。
 Aさんの行動に対して、Bさんが頭からNGを出す行動を例に、詳しく考えてみましょう。
 課長のAさんが上司のBさんにこう報告した。「今までとは違うやり方にチャレンジして作業を進めましたが、あまりうまくいきませんでした。しかし今回のチャレンジで自発的に改善する動きができました。」
Bさんは口を開くなりこう言った。「無駄なコストがかかった、君のやり方は間違いだ。今までのやり方を無視するからだ。会社の業績を悪くしたぞ。部下の指導をちゃんとやれ。」
Bさんの頭ごなしの言葉を聞いて、Aさんはカーと腹がたった。この人には二度と報告したくないと強く思った。
 (Aさんは、実は、部下から新しいやり方の提案を受けた。多少のリスクより自発的な「チャレンジ」が大切と判断して実行させたのです。失敗した場合のリスク対策も考えていました。)
 Bさんは「Bさんの価値観(=コストと成果を大切にする)」で判断して、Aさんの行動(=部下のチャレンジを大切にする)にNGを出しています。相手(Aさん)の価値観が、自分(Bさん)の価値観と同じだ、ということを無意識に前提としています。もし、価値観が違うことを前提としていれば、相手がなぜそんな行動をするのか理解できないので、相手の価値観を確認する「質問」が、自然のフィードバックになります。今回の例では自然のフィードバックができなかったために、Bさんは部下との関係性を壊してしまいました。
 相手(Aさん)の価値観が、自分(Bさん)の価値観と同じだと思う場合は二つあります。一つめは、事前に両者合意の上で、価値観を共有している場合です。ところが、本当に両者合意の上で価値観を共有するのは、なかなか難しいのです。よく話し合って明文化しておかないと、不幸な思い込みが起こります。特に、立場や年代が違うと、価値観を形作ってきた環境や背景が大きく異なるだけに、合意はさらに難しくなります。一緒に行動する機会が少なくなるとうまくいきません。価値観は環境によって変化することを前提に、定期的・継続的な合意形成が必要です。もし、それを怠ると、結果として二つめの場合と同じことに成ります。
 相手の価値観が自分と同じと考える場合の二つめは、自分が、相手の価値観など気にしなくてよいぐらい力の差を持っていると考えるときです。例えば、(無意識に)相手は自分の所有物・道具と同じだと考えている、間違った考えの親、組織の上司などがこれにあたります。この場合は、価値観が同じなのではなく、同じだと思い込んでいるだけになります。

 価値観を認め合う会話

 自分と異なる価値観を認めるのは難しいですが、まずは、自分と相手の価値観が違うことに気づく習慣を持つのが大切です。気づくには、観察が有効です。みなさん、周りの人の話を聴いたとき、自分がどんな第一声を出しているか観察してください。
 「でも・・・」
 これは、相手を否定するメッセージです。
第一声が、「私は、こう思う・・・」これは、(私は正しい、あなたは間違っている)というメッセージです。あまり意識していないかもしれませんが、相手に負けまいとする競争モードです。
 「なるほどね、そういう考えも、ありですね・・・」
 これは、相手を受け入れるOKサインです。
 相手の言うことが、自分の価値観と合わないときでも、第一声はOKサインを出しましょう。
 第二声で「ところで、そう思うのはなぜですか?」と相手の価値観を質問して聞き出しましょう。
 第三声で「私は、こんな風に思うんですよ。・・・・」
 第四声は「理由はね・・・・」

 面倒くさいですが、お互いの価値観を認め合い理解しあうためには必要なことです。違う会社、違う経験、違う年齢、違う人間です。価値観は違って当たり前なのです。お互いが違うことを認め合って、お互いの得意なことで助け合ってチームとして、ひとつの目的に向かって行動することが、「パートナー満足」だと思います。

 編集者コーナー
 このコーナーの編集担当二人が語ります。
花水木(はなみずき、以下「は」)「そういえば、アインシュタインが“常識は思い込みだ”って言ってたね。」
木犀草(もくせいそう、以下「も」)「当たり前って思ってたことが、意外と通じなかったりするもんなぁ。」
は:「MEHモデルでいうところの2層の外側だから、経験の蓄積結果だしね。」
も:「そっか。人によってそれまでの経験って違うもんね。」
は:「それしか知らないと、違う常識に出会ってビックリするってことだよね。PS研究会でも目玉焼きに何をかけるかで盛り上がったよね。」
も:「あったあった!あたしはダンゼン醤油派なんだけど、塩コショウとかケチャップ派がいて驚いたな。マヨネーズって人もいたよね。」
は:「自分のウチの常識が世間の常識じゃないっていうか。」
も:「そうそう。価値観が違うって驚くけど、よく考えたら違って当たり前やねんなぁ。」
は:「もくちゃん、だからといって、締め切りは守るのが“当たり前”ですからね!」
も:「てへっ。あと30分・・・なんとか間に合うように、今、がんばってるからもうちょっと待って〜。」
は:「次からは余裕を持つのが“当たり前”って共通の常識にしようね!」


 編集チーム:花水木(はなみずき:ペンネーム)
PS研究会メンバーで本業はIT企業の技術職。現在は、教育企画部門に所属し、現場に役立つ研修を試行錯誤している。長年にわたり、プロジェクトという閉ざされた空間で、いかに個人が幸せに過ごすかを追求中。花水木の花言葉は「私の思いを受けて下さい」と「華やかな恋」。当コラムの編集チームの編集長。
 編集チーム:木犀草(もくせいそう:ペンネーム)
関西弁バリバリのPS研究会メンバー。キャリア形成をメインテーマに研究活動中。本業ではIT企業の人材育成企画と並行してPMOを担当。現場を走り回ってます。木犀草の花言葉は「陽気、快活」。プロジェクトをサポートする木犀草になりたいな。当コラムの副編集長。
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Partner Satisfaction PS研究会について:PS研究会は、財団法人日本科学技術連盟のソフトウェア生産管理(SPC:Software Production Control)研究会のひとつで、2002年から動機付け(モティベーション)に関する研究を続けています。2003年から、PMAJ(旧:JPMF)のIT-SIGのひとつ「パートナー満足と人材活用(PS&HM)ワーキンググループ」としても活動しています。詳しい紹介はこの連載の第1回目をご覧ください。
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