PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(217)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論


第 3 部 エンタテイメント論の応用

1 序
●エンタテイメントとは何か?
 エンタテイメント(entertainment)とは、人々を楽しませる活動やサービス等を意味し、音楽、映画、演劇、スポーツ、ゲーム、アニメ、漫画などの形で提供されると一般的に理解されている。

 個人はTV、PC、スマフォなどの情報受発信装置を基に映像化されたコンテンツやストリーミング・サービス等を自由に楽しむ。更に個人及び集団(仲間、同好、クラブ等)は音楽、映画、演劇、スポーツ、ゲーム、アニメ、漫画などの各種の大会、フェスティバルなどに参加し、多様な「お楽しみ方」を体験する。此の事もエンタテイメントと理解されている。今後、より楽しく、より有意義なエンタテイメントが考案され、出現する事を多くの人達から期待されている。

 そもそもエンタテイメントの語源とは何か? それは古フランス語の「entretenir(支える、維持する)」に遡る。英語では「entertain(もてなす)」として使われていた。その後、客人を「もてなす」意味は、14世紀頃から「人を楽しませる行動」を指す意味に変化した。最終的には「entertainment(エンタテイメント)」として定着したと云われている。

 「エンタテイメント」の形態(スタイル、フォーム等)は、時代の変遷、技術の進化、娯楽産業の発展などに依って大きく変化した。既述の通り、個人向けの「プライべーな楽しみ」から個人及び集団向けの「オープンで、大規模で、世界情報ネットワークな楽しみ」のエンタテイメントになった。今後、エンタテイメントは、娯楽の要素を基本としつつも、人々の心を動かし、社会や文化に様々な彩り(いろどり)を与える新しい形態の活動を生み出していくと予想されている。

●ショッピングはエンタテイメントか?
 さて前号で論じた百貨店、SCなどで自分、家族、友人などと「買い物」を楽しみ、欲しい物を手に入れるショッピングと云う活動は、エンタテイメントなのか? 是非、読者も考えてみて欲しい。

出典:ショッピング
出典:ショッピング
bing.com/images/MGS1oPtW&id
=blogspot.shopping=selectedindex

 ショッピングは人類の歴史が始まった頃は、「物々交換」の形で行われた。しかし貨幣の発明でショッピングは色々な形に大きく変化した(紙面の制約から此の変化の解説は割愛)。ショッピングは21世紀の現在に至るも「普遍的な活動」として行われてきた。今後もその様に行われるだろう。

出典:ショッピングの歴史
出典:ショッピングの歴史
bing.com/images/detailV2&ccid
=aq1U3few&id=illust.pivotparams

●映画「男はつらいよ」 渥美 清 フーテンの寅さん
 「さぁさぁ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。泣く子も笑う、笑う子ももっと笑う、バナナの叩き売りだよ」 「お立会い、お立会い。今日のバナナは訳あり上等、見た目は悪いが味は天下一品」
 
 「一本じゃ売らない、二本でも売らない。今日は景気よく三本まとめてこのお値段」 「さぁどうだい兄さん、そこの綺麗なお嬢さん、買って損なし、食べてびっくり、財布にやさしいよ」

出典:バナナの叩き売り
出典:バナナの叩き売り
bing.com/images/detail2fmid&
id=thumb-illust
出典:寅さん 渥美 清
出典:寅さん 渥美 清
bing.com/images/detailV2&
ccid=Mopo-content

 上記の口上は、映画「男はつらい」の主演を務めた「渥美 清」が演ずる「寅さん」のバナナの叩き売りの名セリフである。多くの日本人は、このセリフを映画でも、近隣の神社のお祭りの出店でも聞いて、見て、知っている。

 松竹映画が山田洋次監督で制作された映画「男はつらい」は大ヒットした。シリーズ全48作の膨大な映画。観客動員総数は8000万人を超えた。1969年に第一作が公開。2026年の現在まで半世紀以上の57年が経過した。しかし現在も此の映画はTVで時々放映される。多くのフアンが実在し、年配者に限らず、若い人もNetflix、U-Nextなどで此の映画を鑑賞している。

●ショッピングはエンタテイメントか否か?
 寅さんは独特の名セリフでバナナを売る。それを見て、笑い、楽しんだ客は、喜んでバナナを買う。此の様な風景は、昔、神社のお祭りの広場に出店した店の前でよく見受けられた風景であった。筆者も子供の頃、貯めた小使いを持ってお祭り広場に友達と一緒に遊びに行った。食べたいモノを買って食べ、欲しい玩具を買って友達と遊んだ。楽しかった。懐かしい思い出である。

 現在、筆者は東京都板橋区の熊野町の一軒家に住んでいる。最寄りの駅はJR池袋駅である。また歩いて数分の処に「熊野神社」がある。同神社の広場では季節毎にお祭りがあり、色々な小さな店が出る。昔の様な華やかさは無くなった。しかし子供達も、親達も大勢集まり、それなりの賑わいが生まれる。高層ビル群の東京で消滅して欲しくない「昭和の原風景」が其処に実存する。

出典:神社での出店
出典:神社での出店
bing.com/images/view=
detailV2&ccid=6heps2dm
&id=selecte=insights

 昭和の原風景では売り手と買い手が対面で話し合い、お互いに楽しくなり、喜び合い、売買が「笑いの中」で実現する。この「笑いの中の売買」は、東京都内の下町の商店街のお店や百貨店での催し会場などでも、その数は少ないが、実現されている。

 一方「笑いなど非存在の売買」である「EC=電子商取引(Electronic Commerce)」が存在する。売り手は提供するモノやサービスなどの「売り情報」をインターネットで公開。買い手は同ネットの売り情報から欲しいモノやサービス等を選択して同ネットを通じて購入する。

出典:EC(Electronic Commerce)
出典:EC(Electronic Commerce)
bing.com/images/detailV2&ccid
=JlycUcw3&id=ec-website

 ECの典型的会社はアマゾンである。注文すると原則・翌日、モノが届く。買い物に出かけなくてもOK。便利な時代になった。アマゾンと同様、消費者向けのECプラットフォームを提供する日本の会社としては、楽天市場、Yahooショッピング、eBay、ASKUL、SHOPLISTなどがある。

 ECの場合では周知の通り、売り手と買い手がお互いに意思疎通し、情報交換し、楽しくなり、喜び合い、売買を成立させる様な事は一切存在しない。

 筆者の上記の解説に基づくと、ショッピングはエンタテイメントの範疇に含まれるのか? 読者はどう考えているか? 筆者の見解は「YES and NO」である。「笑いの中の売買」は、エンタテイメントが実現し、成功したプロセスと酷似している。従って此の種のショッピングは、エンタテイメントの範疇に含まれる。しかし「笑いなど非存在の売買」は、ショッピングであってもエンタテイメントの範疇に含まれない。

●衰退する日本の百貨店を如何に再生するか?
 前号で百貨店の盛衰の歴史とその原因を解説した。従って本号の最初に百貨店の衰退を防ぎ、如何に再生させ、往時の勢いを取り戻すか?を論じるべきだった。
 しかし筆者はショッピングとエンタテイメントの関係を論じた。申し分けない。ついては多くの百貨店の経営者、同事業分野の専門家、経営コンサルタント達などは、如何なる再生戦略を描いて実践しているか? 紹介したい。しかし紙面の余裕がないため主要な再生戦略のみを記す。

出典:戦略
出典:戦略
bing.com/view=detailV2&ccid
=IhHSmOIT&id=thumb.illust

再生戦略 その1 ラグジュアリー販売戦略(販売高付加価値化)
 富裕層や裕福なインバウンド客をターゲットに自店舗の売り場で高級品、高価なモノやサービスを提供する戦略。また有名ブランド直営店を売り場に出店させる戦略(百貨店の仲介機能を縮小)。要は百貨店を高級ブランドモールに徐々に変える戦略である。

再生戦略 その2 食品と食材の販売強化(デパ地下の特化&強化)
 百貨店の地下では惣菜、スイーツ、高品質食材が良く売れている。これ等の食材はECの販売で置き換え難い商品。デパ地下来店者の購買動機は明確。同来店者増加策を徹底&実施する。

再生戦略 その3 イベント開催、体験参加等で集客化して販売強化
 百貨店で催事を増やす事(北海道物産展など)、ゲームや器具を客に体験させ、楽しめる場を提供し、その機会を捉えてモノやサービスを売る(モノを買わせる場から来店させる場への転換)。

再生戦略 その4 都心集中化と地方撤退化の二極化戦略
 地方都市での百貨店撤退と東京、大阪等での百貨店集中化の二極化の推進。

再生戦略 その5 不動産ビジネスの拡大化(収益構造転換)
 百貨店の売り場はテナントへの賃貸事業化する。百貨店の建物や土地を商業デベロッパーとして不動産賃貸する。物販は低収益であるが、不動産賃貸は安定収益が期待できるため。

●百貨店の今後10年先の予測(2026→2035)
 上記の経営者、専門家などの未来予測では、百貨店の業態は消滅し、名前だけ残り、中身は別物に変化する。なお彼等の百貨店の今後10年先の予測を以下に簡単に紹介する。
  1. 1 店舗数が現在の約180店が約100店に減少
  2. 2 ラグジュアリー型の百貨店のみ生き残る(伊勢丹新宿・阪急梅田など)
  3. 3 百貨店がSCのショッピングモールに変質する一方、地方の百貨店は消滅。
  4. 4 百貨店の定義は崩壊。仕入れて売る機能は消滅。売り場を貸すプラットフォーム事業化
  5. 5 インバウンド販売の強化。都心店の外国人依存化。
  6. 6 百貨店事業は再開発と一体化され、百貨店単体は消滅し、複合施設の一部に編入化。

 次号では「夢工学」の観点からの百貨店の再生の「在り方(基本的考え方)」と「やり方(具体的方法論)」を紹介したい。またエンタテイメントと「似て非なる」ホスピタリティも論じたい。
つづく

ページトップに戻る