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「エンタテイメント論」(218)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :7月号

エンタテイメント論


第 3 部 エンタテイメント論の応用

1 序
●夢工学とは
 前号の最後に「夢工学©」の観点から百貨店の事業再生の「在り方」と「やり方」を紹介すると記した。ならば夢工学とは一体どんな工学なのか? 夢工学を初めて耳にした読者には、此れが何であるのか? 解説する必要がある。

 夢工学を超簡潔に述べると、「夢」の実現と成功のための「在り方(基本的考え方)」と「やり方(具体的方法論)」を説いた工学である。今から30年以上前に構築された工学である。紙面の制約から其の内容を本号で詳しく解説できない。ついては本稿のバックナンバーを閲覧するとアチコチで夢工学が解説されている。是非、読んで欲しい。

   そもそも此のエンタテイメント論は、「夢工学」を基本として構築されたものである。そのため本論の英字名は、上記の「黄色い枠」の中でThe Entertainment Theory based on The Dream Engineering©とされている。

 さて夢工学は「夢」を叶える為の幾つかの「具体的な方法論」を我々に提示している。その1つが「未来仮説設定・現在強制実現法」と言われる方法論がある。以下で解説する。

●現在ファースト思考と未来ファースト思考
 我々は現在と未来を思考する時、2つの考え方を持つ。

 1つ目は「現在から未来を思考する」と云う「現在ファースト思考」、2つ目は「未来から現在を思考する」と云う「未来ファースト思考」である。

「現在ファースト思考」 「未来ファースト思考」

 先ず「現在ファースト思考」では、未来で実現させ、成功させたい「夢」や「目標」などを現在から未来に向かって挑戦する思考と行動を云う。その中身は抽象的、概念的、願望的などの形で描かれる場合が多い。しかし「売上高を10年後に10倍に増やす」と云う様な具体的な「数値目標」を設定する場合もある。

 もし此の数値目標を成功させる為の手段や方法などを現時点から具体的に思考し、行動するとなると、どうなるだろうか。その思考と行動の数や種類などは無数に増えるだろう。思考と行動する方向や分野なども多方面に広がるだろう。所謂「多点思考」と「多点行動」にならざるを得なくなるだろう。その結果、投資額やコストも膨大に増える。非効率的且つ無駄が多い活動となる。これでは10年後の「数値目標」を叶える事は難しくなる。

 次に「未来ファースト思考」では、未来で実現させ、成功させたい「夢」や「目標」は同じであったとしても、その中身を抽象的、概念的、願望的などの形で描かず、仮説ではなるが、可能な限り、具体的、即物的、実質的な形で描く。此れがまさに「夢工学」が主張する「未来仮説設定・現在強制実現法」である。この方法論に依ると下記の通り、効率的で無駄が少ない。

●未来仮説設定・現在強制実現法とは
 この実現法では、先ず、叶えたい「夢」が未来で実現し、成功し、効果を挙げている状況を、「取らぬ狸の皮算用」と考えず、一匹でも多くの狸を捕らえ、可能な限り数多くの事を仮説する。

出典;取らぬ狸の皮算用
出典:取らぬ狸の皮算用
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 次に、仮説した状況、即ち未来で「夢」が実現し、成功し、効果を齎している状況を文章、絵、数値、図面、模型、映像、音響などに依って可能な限り具現化し、表現化する。

 最後に、「具現化され、表現化された仮説の状況」を、現在時点で実在する様々な方法(新技術、新工法、新手法など)」で実用化し、事業化し、一気呵成に仮説を実現させる。もし優れた技術が実在しなければ、新たなアイデアを強制的でも絞り出し、技術化し、実用化し、一気呵成に仮説を実現させるのである。

 「未来ファースト思考」、即ち「未来仮説設定・現在強制実現法」では、未来で実現させ、成功させたい「夢」の中身が、たとえ「取らぬ狸の皮算用」であっても、具体的、即物的、実質的に描かれている。その結果、その思考と行動の数は無数にはならず、或る方向や分野に絞られ、広がりも少ない。その結果、「1点思考」と「一点行動」が可能になり、効率が良く、無駄が少ない。

さて本号で此の様な実現法を知った読者は、誰が此の様なクソ面倒な思考と行動をするのか?
そもそも此の様な事をするビジネスは存在するのか? 不思議に思ったであろう。以下で順を追って答える。

●映画制作と映画テーマパーク製作
 誰とは? 米国ではユニバーサル・ピクチャーズ(MCA)、ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、パラマウント・ピクチャーズ、ソニー・ピクチャーズなどの映画制作会社の事を云う。日本では東宝、東映、松竹、東北新社などの映画制作会社の事を云う。ビジネスとは? 彼等が営む映画制作ビジネスを云う。また映画テーマパーク・ビジネスの事も云う。

 先ず映画の制作では、小説や漫画などの原作を基に「映画シナリオ」が作成される。作成された映画シナリ」オの物語の文章に沿って様々なシーンが設計(仮説)され、絵に転換した画像が作られる。これを「ストーリーボード(SB=紙芝居の絵に相当)」と云う。1つの映画で数千枚から1万枚のSBがシナリオの初めの場面から最後の場面まで作成される。各SBの画面に合わせて映画のセット、各種装置、家などが本物そっくりに実物大又は縮小大で作られる。

 一方シナリオとSBに基づいて映画監督、俳優、映画制作関係者が選定され、予算と日程等も決められる。そして映画撮影が開始され、現実化された撮影舞台装置の場で俳優が演技する。それを撮影し、映画の完成に至る。まさに「未来仮説・現在強制実現法」が実践されている。なお映画テーマパークを作る場合も、同じ実現法で作るのである。

 筆者は新日鐡勤務時代、ハリーポッターで有名な大阪USJの開園の10年前、「新日鐡&MCAテーマパーク」の開発総責任者に任命され、多くの部下達と共に同パークの実現に挑戦した。

 この時は、筆者は米国ロスアンゼルスのハリウッドに在るMCA本社を何度も訪問。同社のテーマパーク各種施設&装置の製作現場を調査した。キングコング映画を基に本物そっくりの巨大な頭と数階建てビルに相当する体を持ったキングコングが製作されていた。余りにも本物そっくりの巨大なキングコング(ロボット)の迫力に仰天した。

出典:キングコング映画作品集
出典:キングコング映画作品集
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出典:キングコング
出典:キングコング
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出典:映画「キング・コング」
出典:映画「キング・コング」
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 上記の通り、筆者が開発に挑戦した新日鐡&MCAテーマパークは、諸般の事情(現在も開示不可)で中止された。筆者は其の開発経験を活かすべく、新日鐡を退社し、セガ社に転籍。新たなセガの部下達と共に挑戦。セガ初のテーマパークである「横浜ジョイポリス」を実現させ、成功させた。
 これは「ゲーム・テーマパーク」と定義してよい。因みに東京ディズニーランドや大阪USJテーマパークは「映画テーマパーク」と定義できる。現在、日本に残っているテーマパークは此の3つだけである。他に存在したテーマパークは偽物であった為と経営難の為、全て消滅した。

●デザイン思考(1→10)とデック思考(0→1)の同時期の併活用の薦め
 現在ファースト思考でも、未来ファースト思考でも、「夢」を叶える為には、一にも二にも「優れた発想(アイデア、解決策等)」を具体的に生み出せるか否か? この可否が「夢」の実現と成功を根本的に決定付ける。

 何故なら幾ら「優れた決断力」や「優れた行動力」が存在しても、優れた発想力に依る「優れた発想」が生まれなければ、「宝の持ち腐れ」となり、「夢」は実現せず、成功しない。

 筆者は新規事業の開発と成功に挑戦する人達に「優れた発想」を生み出す為に役立つ「2つの発想法」を同時期に併活用する事を強く薦める。1つ目は米国で開発され、日本で広く知られ、活用されている「デザイン思考」、2つ目は夢工学から派生した「デック思考(夢工学式発想法の別名)」である。

 「デザイン思考」は、市場に於ける顧客の思考と行動を基に新たな発想を生み出す「二人称発想」であるため「1→10の発想法」と評価されている。一方「デック思考」は、本人が自由に発想し、未来から現在に向けて思考する「一人称発想」であるため「0→1の発想法」と評価されている。此の様な評価をした人物は筆者ではない。下記の佐藤義男であり、他の発想を研究している学者や実務家である。

 この2つの発想法を同時期に併活用すると「優れた発想」を生み出せる事が既に分かっている。何故か? 答えは明確である。デザイン思考が「1→10の思考法」に対してデック思考は「0→1の思考法」であるためだ。両者を同時期に併活用すると、0→1→10→∞と発想の可能性を限界まで高める事ができるためだ。

出典:佐藤義男 Alignment Inc.社長(PMAJ元副理事長)の解析
出典:佐藤義男 Alignment Inc.社長(PMAJ元副理事長)の解析

●「デック思考」の命名者:「佐藤義男 (Yoshio Sato)」
 上記の「デザイン思考とデック思考の比較表」を作成した人物は、下記の佐藤義男である。彼は夢工学式発想法をデック思考と命名した人物でもある。この機会に彼を紹介したい。

 彼はPM(Project Management)研究家&PM指導者、日本マネジメント協会(PMAJ)の前・副理事長、ピーエム・アラインメント(株)の社長、そして筆者の友人でもある。

 彼は夢工学式発想法をThe Dream Engineering based Creative Thinkingと英訳した。その上でKey Wordの字を組み合わせて英語名を「DEC Thinking」と命名した。日本語名は「デック思考」と命名した。

出典:佐藤義男(Yoshio Sato)
出典:佐藤義男(Yoshio Sato)
筆者の個人ファイルから引用

 筆者は経営コンサルを実行する場だけでなく、要請されて講演、研修、講義を行う場などで、「夢工学式発想法」を紹介したり、活用する事を説いていた。しかしその発想法を「デック思考」の名称で紹介したり、活用し始めた途端、驚いた事が起こった。

 デック思考の名前が一人歩きし出した。そして一気に広がり、コンサルの要請や講演、研修、講義の要請が次々と舞い込み、急増したのである。

 「簡潔で覚え易い良い名前」が如何に重要か思い知らされた。佐藤義男の評価と命名に心から感謝している。

●「夢工学」の命名者:「高松 伸 (Shin Takamatsu)」
 「夢工学」も筆者の命名ではない。命名者は世界的に著名な建築家の「高松 伸」である。

 彼は日本国からも、海外の諸国からも、更に日本を含めた各国の建築業界からも、夫々最高位の賞を数多く受賞している(解説省略:参照・WEB情報)。彼は長年、京都大学教授として建築学を教えた。現在、京都大学名誉教授。(株)高松伸建築設計事務所・社長、そして筆者の友人でもある。

出典:高松 伸(Shin Takamatsu)
出典:高松 伸(Shin Takamatsu)
筆者の個人ファイルから引用

 筆者は30年以上前、夢工学を構築した。この時、良い命名案が思い浮かばず悩んだ。困った末、彼に相談した。その際、川勝案を彼に提示した。例えば「未来創造工学」、「未来仮説現在実現工学」、「実践的発想発汗工学」などであった。そして最後に「夢工学」を付け加えた。

 彼は川勝案を暫く眺めて考え込んだ。突然、叫んだ。「これだ!夢工学が良い。此の名前に決めろ!」と叫んだ。驚いた筆者は、「此の名前だけは絶対ダメだ」と猛反対した。筆者は彼に「思い付いた名前を全て書き出せと云うから最も胡散臭い名前と思った夢工学も最後に書き足しただけだ」と反対理由を告げた。

 しかし彼は筆者の猛反対を知ると余計に強く主張した。「胡散臭ければ臭いほど人は直ぐにその名前を覚える。しかも夢工学と聞けば、誰でもが何か?と興味を示す。これにしろ!」と一歩も譲らなかった。そもそも筆者から彼に相談した経緯もあり、渋々彼の主張に従った。

 しかし決定した後、本当に驚いた事に彼の予測は的中した。「夢工学」の名前は一気に広がった。様々な会社、経済・経営研究所、官庁、大学などから「夢工学」の講演、研修。講義の要請が次々と舞い込んで来た。幾つかの某有名出版社から夢工学の出版の要請が舞い込んだ。そして筆者に様々な大学から本職の公務員と兼務のまま、特任教授、客員教授などに任命したいとの要請まで飛び込んで来た。

 正直、驚きを超え、呆気にとられた。しかしどの要請も、熱心で誠意があり、無視できず困り果てた。此の事を知事に相談した処、「其れ等の要請を可能な限り受け入れなさい」と逆に説得され、引っ込みが付かなくなり、次々引き受ける事になった。

 「胡散臭ければ臭いほど人は直ぐにその名前を覚える。しかも夢工学と聞けば、誰でも何か?と興味を示す。これにしろ!」と主張した彼の判断の正しさと命名に今も感謝している。

 本号の冒頭で「夢工学」の観点から百貨店の事業再生の「在り方」と「やり方」を紹介すると記した。この約束を果たさず、「夢工学」のエピソードを書いて本号を終わらせる結果になった。申し訳ない。次号で必ず紹介する。
つづく

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