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「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その10)

長谷川 義幸 [プロフィール] :5月号

〇小型衛星用ロケットの開発
 小型衛星の打ち上げで支障があるのは、打ち上げ費用が高いこと、それを解決するのが小型衛星打ち上げ専用ロケットです。現在のところ、米国のロケット・ラボ(Rocket Lab)というロケット輸送サービス会社のロケットが小型衛星の打ち上げに良く使われています。
 この会社は、2006年に設立された民間企業、2段式液体燃料ロケット「エレクトロン」で地球低軌道に300kgの衛星を打ち上げる能力があり、2018年1月の初軌道打ち上げ以来、200機以上を軌道に投入しています。同社は2つの打ち上げ施設を、ニュージーランドと米国バージニア州に所有しています。
 2025年11月にも、QPS研究所のSAR衛星オンラインジャーナル2025年10月参照を搭載した74回目の「エレクトロン」の打ち上げで衛星を高度575kmの円形地球軌道に投入しました。
 これはロケット・ラボにとって6回目のQPS研究所専用ミッションであり、QPSの地球観測コンステレーションにとって最も頻繁に利用される打ち上げ機となっています。両社は最近、低軌道におけるQPS研究所の衛星コンステレーションの構築を継続するため、さらに6回の専用ミッション実施に関する複数打ち上げ契約を締結しています。
 ロケット打ち上げ価格低減を先導したのはスペースXで、ロケット再利用で大型ロケットの打ち上げ価格を大幅に引き下げ、国家主導から官民共同へと変化させたので米国中心に多くの企業が参入しましたが、しかし、米国で生き残ったのは数社です。小型衛星需要が急拡大する中、2021年にスペースXが実績のあるファルコン9ロケットを使用した相乗りの“ライドシェア”のサービスを開始したので、多くの企業がその低価格に対抗できなかったためでした。
 ロケット・ラボは、小型ロケットの顧客をほぼ専有し、その顧客の要望に合わせた衛星の軌道や打ち上げタイミングを決めています。打ち上げ価格も重要ですが、政府や防衛機関、大学・学術機関のように多少価格が高くても打ち上げタイミングにこだわるニーズがありますので、その顧客の要望を複数の発射場と不具合にも迅速な復旧をして確実に打ち上げるサービスで高い評価を得ています。また、宇宙機の設計・製造・運用管理に至るまでの総合宇宙企業ですので、ワンストップで対応できる強みがありますので競争に生き残っているようです。

〇IHIが衛星事業に進出か
 IHIは、2000年に日産自動車の宇宙航空事業部を買収し、(株)IHIエアロスペースを設立しました。(1924年設立の中島飛行機を祖業とする長い歴史をもっている航空宇宙業界の老舗です)2003年には宇宙事業部の一部を統合し、H-3ロケットの極低温ポンプ技術、高速回転機械技術などの主力エンジン開発や固体ロケット・イプシロンの開発を行っています。
 また、IHIが中核となりキャノン電子、清水建設らと「スペースワン」を設立、小型ロケットの開発・打上ビジネスを中核事業とし、日本政策投資銀行の支援も受けています。
 防災や災害時の被害状況確認、安全保障といった従来の政府需要に加え、産業のDX化や気候変動影響のモニタリングなどを目的にしています。
 スペースワンは、和歌山県串本町の射場から地球低軌道に250kgの地球観測や小型衛星の打ち上げ用ロケット「カイロス」の宇宙輸送サービスを目指しています。これまでに3度の打ち上げに失敗しています。生みの苦しみの中にいるようです。
 今までのIHIはロケット関連事業が主体でしたが衛星事業に進出する動きを見せています。
 2025年5月に、SAR衛星で世界をリードしているフィンランドのアイサイ(ICEYE)(2025年11月のオンラインジャーナル参照)と協業の締結、衛星の製造拠点を国内に整備し、日本国内で共同運用する計画です。ICEYEは2025年に22機の衛星打ち上げに成功し、2018年以来合計62機の小型衛星の打ち上げに成功しています。2025年9月に商業運用を開始した衛星は最大16センチの解像度による世界最高水準の詳細な商業SAR衛星画像を実現しています。(*2)
 さらにIHIは2025年9月には、英国の熱赤外線センサーを搭載した小型衛星を開発しているGlobal Satellite Vu Ltd(以下SatVu)と連携協定を締結しました。
 SatVuは英国を拠点とする宇宙ベンチャーで、高解像度の熱赤外線画像を生成して地球観測を行い、国家安全保障と経済安全保障や気候リスクへの対応などで活用を行う目的で、2023年に最初の衛星を打ち上げており、2026年に2機目と3機目を打ち上げる予定です。(*3)
 これらに加えて、IHIは日本の安全保障の一環としてSAR衛星コンステレーションの整備を進めるようです。

〇政府の民間ロケットの開発・運用支援
 日本でも、数社が小型衛星用ロケットの開発を行っていますが、ビジネスには至っていません。政府は衛星コンステレーション構築などにより、増加する国内外の衛星打ち上げ需要に対応するため、民間ロケットのサプライチェーンの強化を図っています。
 「スペースワン」に対しては、国際競争力のあるコンポーネント(部品)等を搭載した超小型衛星を複数載せて、打ち上げ可能な小型ロケットの量産化に向けてサプライチェーンの強化や革新を支援しています。
 例えば、能力向上のための“増強型カイロス”の開発は、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」にも採択され、2024年9月にステージゲート審査を通過し、2025年2月には追加配分が決定されるなど、国から継続的な支援を受けています。
 また、2025年5月には、防衛省が進める「多軌道観測実証衛星の打ち上げ」事業において、Space BD(株)と契約を締結。打ち上げ輸送サービスを担うこととなり、商用需要に加え防衛分野での存在感を一層高めています。

 「インターステラ・テクノロジーズ」は、堀江貴文氏がスポンサーとなる形で2005年に開発がスタート、国内初のロケット事業と通信衛星事業の垂直統合ビジネスを目指しています。
 特に、ロケット事業では小型人工衛星打上げロケット「ZERO」の開発を進めており、政府は、民生部品を用いた小型・高効率な小型液体ロケットエンジンの開発や機体の量産化技術開発を支援しています。文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に採択されており、初回のステージゲート審査を通過した3社のうちの1社に選ばれています。
 さらに、出資を受けたウーブン・バイ・トヨタ(株)と業務提携し、ロケットの生産方式を変革する取り組みも進めています。これにより、高頻度・低コストでの打ち上げが可能な宇宙輸送サービスの確立を目指しています。

○まとめ (*4)
 小型衛星用ロケットの開発は、日本だけが遅れているわけではありません。米ロ中以外の国は、衛星の重量や軌道に対応した打ち上げ手段を十分保有していません。インドも欧州も似たような状況にあります。日本は現在、民生・商用から安全保障までの能力を包括的に備えた、宇宙先進国としての能力を持つようになってきています。
 安全保障のためには、衛星と即時打ち上げのロケットと射場を用意できるかどうか、という点が課題ですし、現在、小型中型衛星の即時打ち上げロケットが存在していません。国策として資源投入を始めているので、その成果がでることを期待したいです。

参考資料
(*1) 2025年8月31日「海外ビジネス・マンスリーニュース」論説より
(*2) リンクはこちら
(*3) リンクはこちら
(*4) 青木、「自衛隊の宇宙作戦隊の理想と現実」、週刊新潮、2025.9.18

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