「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その9)
可視光や近赤外線センサーによる光学地球観測衛星は、ロシアのウクライナ侵攻により世界中が注目する中で、ロシア軍の動きなどを高頻度で把握していた米国の Planet Labsや Maxerの地球観測衛星群が有名になりました。地球観測衛星の性能は、主に分解能*や観測から利用までの時間短縮などの要素に左右され、世界中で競争が激化しています。現在国防予算に支えられ、衛星の機数と分解能では米国が圧倒的に先行しています。今回は、歴史も実績もある光学衛星企業を紹介します。(*1)
(1) Planet Labs (米国) (*2)
Planet Labsは、地球観測衛星から得た画像の継続利用を前提とするサブスクリプション形式で提供する米国サンフランシスコを拠点とする新興企業です。創業者は全員NASAのエンジニアで、小型衛星を沢山運用するコンセプトで2010年代初期にガレージから事業を始めました。2016年から打ち上げが始まり、分解能3~5mの可視光と近赤外波長の観測機器を持つ5kgの超小型衛星130基で構成される地球観測コンステレーションの“Dove”と、21基運用する110kgの高分解能(50cm)の“Sky Sat”があります。
異なる軌道に複数機を配置することにより高頻度の観測ができる世界最大規模の小型地球観測衛星を保有し運用している民間企業です。
2025年から打ち上げている、次世代光学衛星”Pelican”では、215kg、分解能30cm、合計32基の衛星コンステレーションを構築、高度を低く飛行させることで30分毎に同じ地点で観測、お客様からの依頼を受け、数分で指定のエリアをピンポイントで撮影し、詳細な画像データを提供できるサービスを2026年から2027年初頭に開始する予定としています。ちなみに、分解能50㎝だと車の前後が判別できませんが、30㎝だと地上の建物や車両、横断歩道まで鮮明に捉えることができます。
Planet Labsの事業は、上記の3つの光学衛星コンステレーション・システムを武器に
- AccentureやAWS(Amazonのクラウド)とパートナーシップを締結
- 森林伐採情報や炭素排出量などの衛星画像とAIを組み合わせた分析ツールで、経年変化を分析するモニタリングサービスの提供
- ウクライナのクリミア大橋での大規模爆発の箇所特定や被害状況の安全保障活動の画像データとデータ解析サービスを提供
- マイクロソフトと連携、世界中の太陽光発電所と風力発電所のマッピングや保険会社が干ばつ時に農家に迅速に保険を支払う仕組み構築
またスカパーJSATは2025年2月に地球観測衛星コンステレーションを自社で保有することを決定し、防衛省はじめ政府機関や民間などにデータサービスを提供することにしています。その衛星群はPlanet Labsが開発・運営する低軌道衛星コンステレーション”Pelican”で構築するとのこと。2025年11月に地球低軌道を周回する観測衛星の光学データ提供業務を防衛省から受注したと発表しました。
( 出典はこちら )
(2) Maxer (米国) (*3) (*4) (*5) (*6)
宇宙ビジネスが急速に拡大する中、衛星画像と地理空間情報の分野で世界をリードするMaxar は、地球観測衛星の分野で卓越した業績を上げています。
光学衛星コンステレーション「World View」や光学衛星「Geo Eye」など10機の大型衛星を運用しており、軌道上から撮影した地上画像を販売しています。
分解能が30cm級という衛星画像は、ロシアによるウクライナ侵攻での戦況把握(下図)、米国によるイランの核施設の爆撃、中国の軍事パレードでの兵器の分析など、重要な軍事作戦にも活用されているようです。
また、次世代版「World View Legion」もコンステレーションの構築が始まっており、2025年2月には5機目と6機目の打ち上げに成功、同一地点を1日最大15回撮影できる圧倒的な観測能力を実現しています。
Maxerは老舗の宇宙企業で、通信・地球観測・軌道上サービスなどの衛星運用と衛星製品の製造まで行っています。
前身は、カナダの企業で1969年に設立され、長年にわたり宇宙ロボットや地理空間インテリジェンス分野で顕著な実績を残してきました。
2017年にデジタルグローブや衛星製造会社スペース・システムズ・ロラールなどを統合し、Maxer Technologiesとして生まれ変わりました。
2022年には、次世代地球観測衛星「World View Legion」を打ち上げ、運用に関連する国防総省傘下のアメリカ国家偵察局と契約を締結し、アメリカ政府に対して高解像度の地球観測データを提供し続けています。
2025年6月には、スウェーデンの防衛大手Saabとの戦略パートナーシップを発表し、欧州の宇宙技術能力向上にも貢献しています。また、中東・アフリカ地域で総約300億円という大型契約を獲得しました。この契約は、各国の主権的な防衛・情報収集能力の向上を支援するもので、顧客が直接Maxerの衛星にアクセスできる画期的なサービスです。撮影の15分前まで撮影指示を出すことができ、リアルタイムでデータを受信できます。これまでの衛星サービスでは考えられなかった即応性を実現しており、緊急時の対応や軍事オペレーションなどで威力を発揮します。
さらにSpaceNetプロジェクトは、AIと新たなデータソースとの融合を試みており、2次元画像情報を立体的な3次元地形情報に変換する技術開発を進めています。軍事作戦の計画立案や災害対応、都市計画などで、より精密な分析が可能になり、自然災害後の迅速な地図作成やグローバルな地図の更新、変化する地球環境推移の記録をしています。
(3) アクセルスペース (日本) (*7)
アクセルスペースは、2008年創業の東京大学発宇宙ベンチャーです。小型衛星のパイオニアとして日本の宇宙業界を牽引、2013年には世界初となる民間商用超小型衛星の打上げを実現し、以降10基以上の衛星を自社で開発・製造・運用しています。
主力事業は、短期間開発・低コストでの「小型光学衛星の開発・運用受託サービス」と「自社衛星網による地球観測データの提供」の2つで、2018から2021年に分解能2.5mの第一世代衛星「GRUS-1」を5基運用し2-3日に1回撮影し、世界30か国以上の民間企業や政府機関にて画像提供しているが、2027年5月までに分解能2.2mの第二世代衛星「GRUS-3」を最大7基投入し、
1日1回撮影し発生した災害情報をその日のうちに提供できる仕組みを構築する計画です。(右図参照)
○まとめ
これまでの宇宙産業では、衛星で撮影した「画像を顧客に販売」することが主なビジネスモデルでしたが、最近はAIや機械学習技術を活用した分析ソフトウェアと組み合わせることで、単なるデータではなく「予測を提供する」方向に舵を切っています。
高精度な大型衛星観測をベースマップとし、小型衛星コンステレーションによる補完によって、課題であった観測から利用までの時間短縮ができるようになり、安全保障やビジネスなど用途が拡大しています。例えば、軍事施設の変化や、被災地域の復旧状況など、人間が見つけるのに時間がかかる変化をAIで瞬時に特定し、アラートとして配信します。これにより、顧客は単発的な画像購入ではなく、継続的なサービスとして利用することになります。
宇宙画像の利用が新しい段階を迎えています。
参考資料
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