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「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その8)

長谷川 義幸 [プロフィール] :3月号

 2025年8月、米国ユタ州ソルトレーク市で開催された小型衛星の代表的な国際会議「Small Satellite Conference」の基調講演で、NASA科学担当の幹部が「これから小型衛星の役割が増してくるので、いままで大型衛星で推進していた科学ミッションを、小型衛星によるミッションに重点を置きたい」との発言がありました。背景には、トランプ政権によるNASAの予算の大幅削減の影響で、小型衛星に活動をシフトせざる得ない状況になったことがあります。(*1)
 国際宇宙ステーションや深宇宙探査(注)のミッションに携わっていた科学者や実験担当者がかなり職を失っている情報は筆者のところにも聞こえてきています。
 従来JAXAの数倍以上の予算を確保していたNASAの科学ミッションは別のアプローチをとらざるを得ない状況になってきたようです。
(注)深宇宙探査: 火星や木星等の宇宙の遠方領域の探査に関与する天文学、宇宙工学と宇宙技術の分野
例) 1997年に打ち上げられ、現在、太陽圏外を飛行しているボイジャー1号&2号
 米国では民間企業の動きが活発で宇宙航空の老舗、ロッキード・マーチンがスタートアップ企業に積極的に投資、小型衛星企業の買収をし、事業を拡大させています。
 世界のトップを走っている米国スタートアップ企業を巡る動きを紹介します。

〇SpaceX、Amazon、Oneweb (*2) (*3)
  1. (1) SpaceXのStarlinkは、昨年6月時点で7906基の小型衛星を運用、日本ではKDDIがサービス提供を始めています。
     2015年1月、Googleが米資産運用大手Fidelityとともに、SpaceXに10億ドルを出資することが発表されました。Googleは、かねてより地球規模でのインターネット接続環境の構築を進めています。 成層圏などの高層大気に放たれる高高度気球を活用した「Project Loon」の推進や無人航空機メーカーのTitan aerospaceの買収などを進めてきています。
     SpaceXは、この10億ドルの投資をロケット開発に使ったようです。GoogleはSpaceXの株主にもなっています。
     Starlink等の衛星インターネット通信網の構築には、10年以上の歳月と100億ドルの費用が必要だと言われていて、資金が豊富でないと構築・運用が出来ません。

  2. (2) Amazonも2019年に設立した衛星インターネット事業 Poject Kuiper(プロジェクトカイパー)で、100億ドル以上の大規模な投資を行い、地球低軌道に3236基の通信衛星コンステレーションを構築、衛星間をレーザー光で接続する光学インター衛星リンク技術を導入した衛星インタネットサービスを提供する予定です。
     2025年6月23日の2回目の打ち上げで、合計54基の衛星が軌道上にありますが、まだ初期段階です。日本ではNTTグループ、スカパーJSATが提携しサービスを提供する予定です。

  3. (3) 米国のベンチャー企業OneWeb(ワンウェブ)は高速衛星通信網ベンチャーで、CEOのグレッグ・ワイラー氏は、2002年アフリカのルワンダでインターネット接続会社を起業し、発展途上国に通信ケーブルなどネット接続インフラを構築する困難さを経験しました。そして「全世界の発展途上国に通信衛星経由でネット接続を提供する」という構想を持ち通信衛星経由でのネット接続環境構築を進め、2008年に03bNetworksを創業した。
     Googleはワイラー氏が創業した03bを2010年に買収、それとともにワイヤー氏もGoogleに参画した。2014年にはOneWebの前身となる ワールドビュー・サテライト の社名でGoogle傘下に属していましたが、その後、袂を分かつことになりました。
     ワイラー氏はSpaceXのマスク氏との協業を模索しましたが、根本的な経営戦略の違いから、今は競合関係となっています。
     米半導体大手Qualcommやエアバスといった世界的な通信会社やメーカーが、続々とOneWebに投資していますが、2016年12月、日本のソフトバンクが10億ドルの投資をするというニュースが世界から注目されました。
    2018年から稼働開始が予定されているワンウェブの衛星製造工場  OneWebではソフトバンク等から得た資金を使って、米国フロリダに衛星製造工場を建設、一週間に15基もの衛星を従来よりもかなり低コストで製造できる仕組みを作っていきました。
     2019年2月には最初の人工衛星を打ち上げたが、2020年3月に連邦倒産法第11章を申請し破綻した。(理由:資金繰りがうまくいかなかった)
     その後、英政府インドの Bharti Globalが主導するコンソーシアムからの救済資金を受け、業績を回復させた。
     2022年7月に 欧州電気通信衛星機構(Eutelsat)がOneWebを買収し、Eutelsat OneWebとなった。
     第1世代の衛星コンステレーションとして、2023年3月の衛星の打ち上げで633基が完了し、完成。2024年12月には、ソフトバンクの衛星通信サービスが開始された。

〇衛星コンステレーションは過去に失敗事例あり
 1990年代日米貿易摩擦の一つであった、米Motorolaが推進した衛星による携帯電話システム〔イリジウム計画〕は有名な失敗事例です。
 地球低軌道に77基の衛星による、全地球をカバーする衛星携帯電話システム構築を目指したもので、構想発表時には世界が驚嘆しました。
 1997年から1998年にかけて、順次衛星が打ち上げられて、1998年から商用化が始まりました。しかし、携帯電話器が大きく高額だったこともあり、獲得加入者数は数万人にとどまりました。またインフラ設備構築の資金調達の重荷もあり、事業開始後1年で破産しました。
 ニュースペース2社(SpaceXとAmazon)と破綻したMotorolaとの違いは資金調達の方法です。
 ニュースペース2社の共通する点はEコマースで財を成した、大富豪イーロン・マスクやAmazon創業者のジェフ・ベゾスが潤沢な資金を投資していることです。
衛星コンステレーション  Motorolaが試みた衛星ネットワーク構築の失敗にもかかわらず、現在ニューススペース等多くの企業が参入してきています。大手IT企業や通信会社は世界中のインターネットに接続することで、社会問題解決に対応でき、オンライン市場の構築・拡大という狙いがあります。
 前述のGoogle、SpaceX、OneWebが目指す衛星インターネット構想は、イリジウム計画と比較しても規模が大きい(約100倍)プロジェクトです。
 SpaceXのStarlinkがすでに実現し、加えて、世界中で多くの競争相手が現れていますので、競合が起きてくるものと思います。どのような企業が飛躍し(生き残り)、淘汰されていくのか注目ですね。

参考資料
(*1) 2025年8月31日「海外ビジネス・マンスリーニュース」論説より
(*2) リンクはこちら
(*3) リンクはこちら

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