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「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その7)

長谷川 義幸 [プロフィール] :2月号

 今回は中国版スターリンクを巡る動きを紹介します。 (*1) (*2) (*3)

 中国が初の人工衛星「東方紅1号」を1970年4月に打ち上げてから現在に至るまで、宇宙探査活動や衛星の国際的な利用促進で、成果を上げ宇宙の大国になってきました。中国独自の衛星測位システム「北斗」は、アメリカが開発運用しているGPSより大規模に構築してきました。
 そして、2023年11月、国際民間航空機関(ICAO)の標準に正式に加わり、世界中の民間航空機で広く応用されるようになりました。
 測位衛星コンステレーションは、1978年の米国海軍が始めた海事測位衛星試験機から中国の北斗ネットワーク完成までに40年以上かかっています。
 中国は小型衛星のコンステレーションにおいては後発ですが、スペースX社のスターリンクの隆盛をみて中国版スターリンクの整備を急いでいるようです。武漢にある衛星産業パークでは航天科工二院宇宙事業総体部で小型衛星スマート生産ラインと称する自動化生産ラインで、衛星部品をつかみ、視覚と位置を感知して部品を所定の場所にとりつける作業ロボットを利用し、大量生産を行っているようです。また、小型衛星打ち上げに特化した固体ロケットの開発も官民あげて取り組んでいます。
 中国が独自の通信網を構築する背景には、台湾有事を念頭に軍艦や戦闘機への情報支援能力の向上も含めた安全保障を強化する目的とされています。

 中国の小型衛星コンステレーション構想には、中国航天科技集団の発表などから日本貿易振興会(ジェトロ)が作成したものによれば、現在次の3つの衛星コンステレーション構想があり、官民で数万基のメガコンステレーションを構築しようとしているようです。

  • 「千帆」(上海垣信衛星科技)計画
    2018年に設立した国有企業。
    衛星インターネット接続や軍事利用のために2024年8月に長征6号ロケットで18基打ち上げています。(写真)
    フェーズⅠで1000kmに衛星を1296基それ以降は500km付近に、2025年中には648機を打ち上げ、2030年までには15,000基を打ち上げる計画です。
    この打ち上げスピードはスペースX実績の約2倍で、実現できるかどうかは不透明です。
    「千帆」(上海垣信衛星科技)計画

  • 「国網」(中国衛星網絡集団)計画
    2018年に設立した国有企業。小型衛星13,000基で構成する衛星コンステレーションを高度500~1,1451kmの中軌道に打ち上げる構想です。

  • 「鴻鵠」(上海藍箭鴻擎科技)計画
    2017年に設立した民営企業。小型衛星10,000基で構成する衛星コンステレーション計画です。

 中国らしい、宇宙関連国との連携、ルール遵守等は全く関係のない壮大な計画ですね。
 もっとも、地球低軌道に打ち上げが可能な人工衛星数には限りがあり、衛星インターネット通信網(コンステレーション網)を無制限に構築できるわけではありません。
 国際電気通信連合(ITU)によると、低軌道を含む衛星軌道への打ち上げは優先的使用権を獲得する必要があり、無線周波数のリソース調整のルールを守る必要があります。周波数と軌道位置を申請してから最初の衛星を7年以内に、12年以内に計画衛星数の50%を打ち上げなくてはならないのです。
 “スタ-リンク”は、自前のロケットと衛星の開発、製造、運用を行える垂直統合による経営で、収益を増大させているスペースXだからできたビジネスモデルです。
 中国は4つの射場をもち、ロケットの種類も多く、打ち上げ能力も豊富ですので、中国が追随するのは可能だと思いますが、上記の制約があるので、簡単ではないように思います。

 2024年現在、衛星軌道位置への衛星打ち上げ数で他国・地域を大きくリードするのは、米国です。スペースX公式サイトによると、スターリンクは現在までに打ち上げた衛星の総数は6,917基に達し、約6,325基が同軌道上を回ります。スペースXの年間の打ち上げ回数が、ここ数年米国全体の9割を占めるという異様な状態です。
 スターリンクのもたらす収益も2023年42億ドル、2024年は66億ドルを超える見込みでスペースX社の主な収入源になっています。このように現在の衛星インターネット通信網の構築と運営は巨額の収入をもたらします。

 電波割り当ての「周波数調整」や衛星同士の衝突によるスペースデブリの発生、寿命が尽きた衛星の軌道上での滞留などを防ぐ取り組みなど、「衛星の軌道上安全」の課題は多々あります。
 しかし、この課題解決への参加各国のコンセンサスを得るにはまだ時間を要しそうです。
 通信衛星の打上&運営の国際競争は、覇権争いの様相を呈しており、今後ますます激しくなるものと思われます。

 現在、日本は民間から国家まで、安全保障体制を確立する能力を有しています。真の先進国として世界に伍して宇宙開発能力を身に着けることは絶好の好機です。これからの動向に注目していきたいと思います。

参考資料
(*1) リンクはこちら
(*2) 読売新聞記事、「中国「小型衛星網」急ピッチ」、2024.12.18
(*3) リンクはこちら

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