グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第193回)
知は剣よりも強し

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :3月号

 昔通学していた大学の校章には「ペンは剣よりも強し(Calamus Gladio Fortior)」と書いてあった。今回のタイトル「知は剣よりも強し」はウクライナの話である。

 2月17日、筆者は、ウクライナ・プロジェクトマネジメント協会(学会)の要請を受けて、いつものように、同学会の冬季大会16TH INTERNATIONAL SCIENTIFIC AND PRACTICAL CONFERENCE17-19 February 2026 Kharkiv, Ukraineにて、オンラインで冒頭の基調講演を行った。演題は“Truth Behind Project Management Mosaic”である。講演の趣旨は、「ウクライナはプロジェクトマネジメントの理論研究では世界最先端であり、多くの複雑な理論が飛び交っている。それはそれでよい。田中は学者を引退して、今は実践家として、日本に発展途上国全域のプロジェクト関係管理職者を集めてグローバルセミナーを実施している。そこで、プロジェクト成功の真髄は、と問われれば、フロント・ローディングをきちんと行うこととプロジェクトマネジメントにきちんと時間を割くことである、と伝えている」で、参加者の共感を得た。

 ウクライナでは、PMの理論研究は進んでいるが、もとより大型プロジェクトの機会が少なく、ロシアのウクライナ侵攻後は、ほぼ皆無となっている。そうすると、PM学者は、以前以上に理論に傾倒しがちであるので、遅かれ早かれ戦後復興のプロジェクト群が待っているウクライナでは現実にも目を向けてほしいというメッセージを添えた。

 ウクライナ支援の道は多々あるが、筆者に期待されたのは、ナレッジでの貢献である。2000年代後半からロシアと交戦時下の今日まで、大会では必ず、かつての対面、その後のオンライン基調講演で筆者に声がかかる。この揺るがざる筆者への信頼には感謝あるのみである。

 大会は、かつて2月のウクライナ西南部カルパチア山脈のスキーリゾートで開催されていたので、通称カルパチア大会とされている。今年の大会当日は、ロシアの執拗なインフラ攻撃で、電気、水、ガスの供給が大幅に遮断され、首都キーウ(キエフ)をはじめ、いつ電気がくるかわからない状況でオンラインで強行となった。ウクライナの知識人に最も重要な価値は知(ナレッジ)である。まさに「知は剣よりも強し」である。ナレッジを生み出す大会を辞めることは、人生の終わりみたいなことであると、3日間の開催で平均50名程度が参加した。大会の言語は英語で、50名ほどが論文発表を行った。論文は、論文集として電子出版され、Scopus等のインデックスが着く。参加研究者はウクライナとアゼルバイジャンの大学や研究機関所属で、プロジェクト科学以外の分野からも応募が多かった。研究者は論文を発表しないと研究者ではなくなる。

 知には二つの種類がある。知(ナレッジ)は正しくは「科学的に解明(照明)された事象の共通理解」で、PMAJの初代名誉会長の故野中郁次郎先生は ナレッジを justified true belief と定義されていた。ただし、知が知識と表現されると、科学的に解明されたという側面が薄くなり、世の中の人に共有されるコモン・ビューとしての、物事のあり方ややり方の理解となる。

 筆者は2000年代から2010年代、自分の意志とは別な力に導かれて研究者と呼ばれる道に入った。30数本の論文を書いて大学院教員を20年間務めたが、科学的に解明した知を確立できたとは言えず、また、研究者達の論文に著された“科学的に解明された知”が、実プロジェクト世界では、プロジェクトのパフォーマンスの向上に役立つとは言い難いことに我慢ができずに、研究者の道を閉ざし、実務者に戻った。

 筆者の70歳台は、半人まえではあるが研究者としての生産性が大きく上がったが、80歳台となった今も生産性はそれほど落ちていない。ただし、世界でやりたいことをすべてできた後では、研修を続けるモティベーションをどのように維持するかが課題である。

 それでも自分と折り合いをつけつつ、グローバル研修を続け、常に参加者評価95点以上を維持してきた。極めつきは、1月から2月に実施した一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)の2週間のPPTP研修で、16か国から22名の研修生(企業の管理職者)を得て実施したが、企画・研修デザイン・研修・研修統括を担当し、全体コース満足度平均4.9/5.0、全18セッションの参加者評価点平均4.9/5.0、自分の講義の平均点4.9/5.0 を記録した。こうなると、かなり神がかりで再現不可能な数字である。

 研修は続き、直後に別の協会の新機軸のコースを終え、今月は後半にフィリピン向けの1週間研修が予定されている。

 研修をやっていて何が楽しいか。それは永年にわたり築いてきた世界各地の活動の場が、長旅ができなくなった今、凝縮されて日本にやって来てくれることである。毎年、居ながらにして世界20数か国の研修生と1~2週間の時を過ごせる、それは至福である。 ♡♡♡

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