投稿コーナー
先号  次号

「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その6)

長谷川 義幸 [プロフィール] :1月号

〇米国のデータ中継静止衛星
 アメリカは宇宙開発のトップをいつも走っています。その一つが静止軌道にいるデータ中継衛星で、地球中低軌道高度の衛星がどこを飛行していても米国からコントロールすることができる、衛星の追跡とデータを中継するもので1983年以来運用しています。

米国のデータ中継静止衛星

 現在は、9機の静止衛星が図のようにアメリカ本土から見える東西の静止軌道位置と、インド洋の島から見える静止衛星位置に配置されて運用しています。このためほぼ全地球をカバーできています。
  Youtubeへのリンクはこちら
 この衛星システムは、国際宇宙ステーション(ISS)、ハッブル宇宙望遠鏡、地球観測衛星、軍事衛星(国家偵察局のレーダー画像偵察衛星など)などとの通信用の宇宙の衛星ネットワークです。
 国防総省はデータ中継衛星の運用コストの大部分を負担し、通信帯域のほとんどは国防総省に充てられています。
 有人宇宙活動ではISSが米国の裏側を飛行していてもヒューストンと交信できる時間の確保や宇宙実験の大容量データ伝送に使用され、日本の宇宙ステーション補給機やスペース社XドラゴンなどのISSの物資輸送機の通信にも使われています。ちなみに2011年で運用終了したスペースシャトルの飛行中には、スペースシャトルとヒューストン間での音声、映像、データなどの通信を行っていました。米国政府は、最近民間企業がこの役割を代替できるようになってきたので、民間移行していく計画を推進しています。

〇日本の衛星光通信技術の状況 (*2)
 光衛星通信は、これまで宇宙での通信に使われてきた電波と比べ、高速・大容量・遅延が少ない通信が可能であり、国際的な周波数調整が不要で、秘匿性が高いなど多くのメリットを持つ次世代技術です。特に低軌道で電波が大混雑している状況を改善させる手段として早期の実用化が待ち望まれています。さらに高速な光衛星通信を使うことで、地上局がない海上や航空機などへも通信サービスの提供が可能になりスターリンクなどの衛星コンステレーションにおける通信手段として期待されています。
 しかし、通信波は、長距離を飛ぶ間に拡散します。観測衛星と光データ中継衛星の間の距離は、最大4万㎞あります。衛星間が4万kmの場合“電波のビーム径”は最大数10㎞まで拡大します、一方、“光のビーム径”は600m弱で収まります
 ビーム径の広がりが小さいということは、他の通信波との干渉が発生しにくく、データの秘匿性を確保できます。しかし、熱の流入や外乱などにより飛行中の衛星の姿勢が変動するので、相手にピンポイントで照準をあわせるのが難しいことから実用化にはなっていませんでした。
 2024年10月、我が国の光衛星通信は世界にさきがけて、JAXAとNECは、「だいち4号」と2020年にH-IIAロケットで打ち上げられた「光データ中継衛星1号機」との間で、「だいち4号」の観測データの光データ伝送(通信速度1.8Gbps)に成功しました。2002年から2017年に運用されたJAXAのデータ中継技術衛星「こだま」の電波用アンテナの直径が3.6mであったのに対し、この光データ中継静止衛星に搭載された光通信用のアンテナ直径は14cmでした。

〇(株)スペースコンパス
 令和7(2025)年4月24日(木)、株式会社スペースコンパスは防衛省から、人工衛星による静止軌道間光通信技術の実証事業を受注したことを発表しました。
 観測したデータを直接地上に送る場合、地上の基地局と通信できる時間は1周100分のうち10分程度に限られます。それに対し、常に地上と通信可能な状態にある光データ中継静止衛星を経由することで、観測衛星との通信可能時間は1周回当たり最大40分まで伸ばすことができます。さらに、光通信は電波の7倍以上の速度でデータをやり取りすることができるので伝送できるデータ量も格段に増えます。
 つまり、この実証事業は、衛星地上局との直接通信によるデータ伝送では難しかった大量の観測データの即時的なダウンリンクの実証を行うものです。(図:光データ中継衛星(イメージ))

図:光データ中継衛星(イメージ)

 先月号でご紹介した宇宙ゴミ処理のアストロスケール社が防衛省から受注した実証衛星も、実証における通信相手は、スペースコンパスが運用するデータ中継静止衛星になるようです。
 光は直線的に進むので、その分、通信の難度が高く、衛星それぞれに配備する通信装置が一直線になるよう角度を合わせ、その姿勢を維持する先端技術が必要ですが、伝送する情報に高いセキュリティーが確保できるので大きなメリットがあります。
 スペースコンパス社は、地上通信ネットワーク構築に強みを持つNTTと静止衛星宇宙事業に強みを持つスカパーJSATが50%ずつ出資し設立された合弁会社です。宇宙空間に構築する光衛星通信ネットワーク及び成層圏で構築するモバイルネットワークなどの新たなインフラの構築を目指した事業開発を進めています。観測衛星等により宇宙で収集される膨大な各種データを静止データ中継静止衛星経由で地上へ高速伝送する光データリレーサービスをまもなく開始するとのことです。

〇スペースXの動向
 スペースXが、スターリンク向けに光衛星通信端末を開発・実証していることは、業界関係者の間では周知の事実でしたが、2024年3月18-21日に開催された世界最大級の衛星産業カンファレンスSATELLITE2024でSpaceXの社長がパネルディスカッションにて、「直近に打ち上げられた3000機には、1機当たり3つの光衛星通信端末が搭載されている」と発言し衝撃を与えました。
 光衛星通信は研究の実用化はようやく始まった段階で、これまでは1対1の通信実証を行うケースが多かったのですが、いきなりSpaceXは、他者の何周先も走っているという衝撃の事実を突きつけたのです。聴衆は皆「目が点になり、それ以降の発表がかすんで見えた」と言います。
 つまり、地球低軌道に大規模な9000台というスターリンク衛星間光通信のメッシュネットワークを構成できていることになります。また、1日当たり約26万6000回の光通信を確立し、42PB(ペタバイト)以上の膨大なデータをやり取りしているというネットワーク利用状況も明らかにしています。 (*3) (*4)

〇まとめ
 JAXAでは、近地球衛星光通信のさらなる高速化(100Gbp超) や米国主導の有人月探査計画に向けた月・惑星探査で必要とされる超長距離(40万km超、1Gbps)光通信の実現に向けて光通信技術を発展させる研究を進めているそうです。
 ソニー(株)も同社のCDプレーヤーで培った光ディスク技術を応用して精密な制御で衛星間、衛星―地上局間の通信を、JAXAと共同で「きぼう」日本実験棟で実証してきました。
 2022年には、宇宙光通信事業を行う会社を設立し本格的に開発を加速させており、総務省の委託事業でNICT,東大、スカパーJSATなどと共同で開発した量子暗号技術をいれた小型衛星光通信システムで光通信アンテナ部分を担当し通信も成功させています。
 JAXAで実績を積んだ衛星間光通信技術などが、日本の宇宙ベンチャーの技術で洗練され世の中のビジネスになるのはうれしいですが、海外との競争に負けないでほしいですね。

(*1) リンクはこちら
(*2) リンクはこちら
(*3) リンクはこちら
(*4) リンクはこちら

ページトップに戻る