図書紹介
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サム・アルトマン 「生成AI」で世界を手にした起業家の野望
(キーチ・ヘイギー著、櫻井祐子訳、ニュースピック、2025年10月2日発行、1刷、480ページ、2,300円+税)

デニマルさん : 2月号

今回紹介する本は、ここ数年大きな話題となっている「生成AI」の核心に迫るものである。サム・アルトマンと言うと知る人ぞ知る人で、副題にもある通り「生成AI」でも知られたチャットGPTを生んだ企業家である。本書は、その起業家の出生からチャットGPTで成功するまでを克明に追ったドキュメンタリ-ストーリィである。筆者も含めて世間の多くの人は、誰が話題のチャットGPTを生み出したのかではなく、どうしてチャットGPTがこの世に出現したのかが関心のポイントではなかろうか。それとチャットGPTを含む「生成AI」の内部メカニズムと今後の発展の将来性ではなかろうか。筆者は60年前に大学卒業後社会人となり、配属された職場が「電子計算部」というコンピュータ部門だった。この世に電子計算機があることさえ余り知られていなかった1960年代始めの話である。コンピュータがパソコンへ、インターネットと携帯電話がスマホとなり、キャッシュレス端末への技術変革を体験し、現チャットGPTの実用化に驚愕している。そこで本書からチャットGPTや「生成AI」を分かる範囲で見極めてみたいと思っていますのでお付き合い下さい。本書の著者はスタンフォード大学大学院(英文学)修士過程終了で、ウォールストリート・ジャーナル記者。フェイスブック(現メタ)社内の内部告発をスクープした特集チームの一員で、名だたるジャーナリズム賞を受賞している。本書はアメリカや日本でもベストセラーとなっている。

サム・アルトマンとは(その1)        オープンAIの創業
本書は、サム・アルトマンの幼少期からチャットGPTで「生成AI」の世界を実現させた過程を多面的に書いている。著者が新聞記者である関係で、「生成AI」の社会現象と人間関係を克明に追っている。神童として育った幼少期、スタンフォードの学生時代、仲間と共に位置情報SNS「Loopt」(スマホから人と場所を認識するアプリ)を創業。その後、「Y Combinator」(起業家育成組織)のトップに就任し、シリコンバレーの人たちと交流。特に注目すべきは、2016年にイーロン・マスク氏等と共に「OpenAI」を設立している。その目的は、『AIが人類にとって安全で、役に立つものであり続けること』としていた。2018年に最初のモデルGPT-1が発表された。そのGPT(Generative Pre-trained Transformer)は、日本語訳なら「生成的事前学習済み変換モデル」となり、機能的には大量の文章データを予め学習し、そのデータをもとに自然なテキストを自動生成できるAIモデルである。その後の開発過程を追ってみると、2020年にGPT-3としてレベルアップし、長文生成の一貫性向上により実用性を高めて学習機能を大幅に向上させた。そこでチャットGPTのベースを確立している。この時点で言語モデル処理トークン数は1千億と公表されているが、最新のGPT-4では数千億以上の規模と噂されている。トークンとは、生成AI内部での最小語句で単語に相当すると言われている。それと生成AIの技術的特徴としてのTransformerについて少し補足して置きます。グーグル社が公表したAIの言語処理機能のTransformerで言語モデルBERTは、人間の書いた長い文章を前後の単語列から文脈を理解する能力を有している。この機能からAIが人間の平均的な読解能力を持つようになった。そこでチャットGPTの登場となるのです。チャットGPTの特徴は「対話形式」に特化している。ユーザーが自然な言葉で質問すれば、GPTもスムーズに自動返答し恰も対話によって即時応答された形式までに進化している。

サム・アルトマンとは(その2)         チャットGPTの公開
本書の後半部分は2022年11月にサム・アルトマンがチャットGPTを市場に公開したことから始まる。そのチャットGPT公開に際して、オープンAI組織内で大きな事件が起きていた。一つは開発当初から一緒に活動していたイーロン・マスク氏との経営主導権争いでオープンAI組織から離脱する結果となった。それとチャットGPTの一般公開に関して、独自開発で機密保持をするか広く公開して早期開発を優先するかで意見が分かれた。開発方針を模索する過程で、サム・アルトマンはCEOを一時解任されている。この結果から「株式を持たないCEO」が誕生したが、早期開発を選択してチャットGPTの開発は急速に完成に向かった。GPTシリーズの進化過程でモデルサイズの拡張だけでなく、文脈理解や自然な応答生成の精度を飛躍的に高めている。2019年のGPT-2では長文生成が現実的となり、2020年のGPT-3では1750億トークンの処理という大規模モデルとして実用レベルの出力を実現している。更に2023年のGPT-4では画像・音声入力への対応が加わり、多用途に活用できる汎用AIへと成長していた。そしてチャットGPT公開時から数か月で1億人のユーザーに到達、2025年には7億人に達している。そんな急速な進歩から、最近の身近なAIの利用例としてNHKのニュース放送で、頻繁にアナウンサーに代わり「AI音声によってニュースをお届けします」との場面に遭遇している。AIの技術活用が日常化した事例なのでしょうか。

(参考)「生成AI」の現状ついて         チャットGPT他の特色
AI(Artificial Intelligence)は人工知能で学習や判断、問題解決を行うコンピュータシステムであるが、現在は「生成AI(Generative AI)」へ進化している。従来のAIは、与えられたデータから最適解を出すが、「生成AI」は、自ら学習したデータから新しいデータを生成して解答を生成する人工知能システム(画像、動画、音声などの多様な形式を含んで)なのである。現在の「生成AI」は各種あるが、代表的なものを列記します。①チャットGPT:(OpenAIが提供、生成AIの先駆的存在、ビジネス文書作成等)。②Gemini:(Googleが提供、スプレットシートやグーグルソフト連携等)。③Claude:(Anthropicが提供、処理能力が高く、長文ドキュメント処理等)。④Copilot:(Microsoftが提供、GPT-4を基盤とし Microsoft 365と連携等)。それ以外の生成AIには、画像生成AIや動画生成AIや音声生成AI等々がある。本書より少し技術的な内容を望まれるなら『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン』(小林雅一著、朝日新聞出版、2024年)が入門書的で分かり易くお勧めです。

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