●一難去って、また一難
筆者と部下達で作る予定のセガ式テーマパーク第1号館となる「横浜ジョイポリス・プロジェクト(PJT)」に風俗営業法を適用すると監督官庁が判断した。本法が適用される限り、本PJTの事業採算性は限りなく「ゼロ」となる。同庁にこの適用を除外させると云う「厳しい課題」を達成する方策を必死で考え、必死で実行し、遂に適用除外を認めさせた。この経緯を前号までで解説した。
しかし筆者に課せられた「厳しい課題」は此れで終わらなかった。次の課題は、本PJTの事業採算性を限りなく「極大化」させる事であった。しかしセガ社ではゲームセンター事業しか手掛けず、テーマパーク事業に関わった人物は筆者以外に誰一人いなかった。
本PJTでディズニーランドに似せたモノを作る事は事業採算性を良くする。しかしより多くの人々を集客する「魅力満載」で「唯一無二」のエンタメ施設や装置等を包含する「メイン館」を作らない限り、事業採算性を限りなく極大化させる事は不可能と考えた。
しからば、メイン館をどの様な考え方(基本コンセプト=在り方)で作ればよいのか? その考え方に基づいてどの様な方法(具体的方法論=やり方)でエンタメ施設や装置などを作ればよいのか? 考えれば考えるほど分からなくなる一方、次々と解決すべき問題ばかりが浮かんで来た。
次々と問題が浮かんでも、其れ等の問題を解決する「優れた発想」が次々と浮かんで来なければ、一歩も前に進めない。風俗営業法の適用除外と云う厳しい課題より遥かに厳しい課題に直面した。まさに「一難去ってまた一難」であった。
出典:一難去ってまた一難 bing.com/images/view=
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●一功招いて、また一功(筆者の造語)
筆者と部下達は、「一難去ってまた一難」の「厳しい課題」の解決に向けて激しい議論を重ねた。しかし幾ら議論しても、良い発想が浮かばず、苦悩と苦闘の日々が続いた。その結果、職場の雰囲気が段々と暗くなり、活気が失われて来た。筆者が外で酒を飲む頻度と量も増え続けた。飲んで酔っても何の解決にもならない事は分っていた。
この悶々とした日々が過ぎた「或る日」、筆者は「或る事」に気付いた。筆者も、部下達も、「一難去ってまた一難」と考えたから「後ろ向き」になり、「暗く」なったと云う事だった。此れではダメだと考え直し、部下達の前で無理しても明るく、楽しく、前向きに振舞う様に努めた。
また筆者が新日鐡勤務時代に構築した「夢工学」と夢工学から派生した「夢工学式思考法(後にデック思考と名称変更)」を基本から学び直した。その効果が生まれた。「一難去って、また一難」に代わる「一功招いて、また一功(筆者の造語)」と云う標語を作り出した事だった。
筆者は此の標語を頭の中で繰り返す努力をした。その内に「小声でブツブツ言う」様になった。この事を部下から指摘されて初めて気付いた。部下達はブツブツと呪文の様に言う筆者に「どうされたのですか?」と大層心配した様であった。
その意味と意図を知った部下達は、何と此の標語に賛同しただけでなく、彼等の中から「難」ではなく、「功」を目指そうと云う機運が生まれた。嬉しかった。此の機運は部下達から技術部門のエンタメ施設開発者や技術者などに波及する一方、暗かった職場の雰囲気が少しずつ明るくなってきた。それに加えて部下達や技術者などから様々な提案が出される様になった。
「一功招いて、また一功」の「功」は、成功の「功」である。優れた発想、知恵、アイデアを意味すると同時に、此の標語全体は、「失敗は成功の源ではない。成功こそが成功の源である」と説く夢工学の本質を象徴する。また「知恵」が「幸運」を招くと云う考え方も込められた標語でもある。
出典: 知恵から幸運を(一功招いて、また一功)
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因みに日本でも、外国でも「失敗は成功の基(Failure is a stepping stone)」と言葉がある。しかし筆者はそうは思わない。筆者は失敗学の提唱者「畑村洋太郎」と昔、新宿の某所で飲んだ。この時、彼は「失敗は成功の源でない。失敗は失敗しない為の源である」と断じた。また彼は「成功は成功の源である」と説く夢工学に大いに賛同し、二人は乾杯を繰り返し、意気投合した。
出典:飛び石
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さて「難」でなく「功」を目指す機運、明るくなった職場の雰囲気、様々な提案は、大きい励みになり、挑戦意欲を一層高めた。
しかし本PJTのメイン館を如何に作るかと云う最も重要な「基本コンセプト(在り方)」は、筆者も、部下達も、技術部の連中も見付ける事は出来なかった。しか皮肉な事に「やり方」の一部としてパーク内のメイン館やその他の施設をディニーランドに似せて作ると云う「やり方」だけは決っていた。
●或る夜、星空を見て閃いた!
筆者は新日鐡勤務時代、新日鐡MCAユニバーサル・映画スタジオPJTの総括開発責任者であった。この事はセガ社内で知れ亘っていた。その為、筆者は誰よりも先にメイン館の「基本コンセプト」を社内で提示すべきと思った。しかし良い考えが浮かばず、困り果て、正直焦った。
焦り、苦しんでいた頃の「或る夜」、飲んで帰る道、ふと「夜空」を見上げた。珍しく多くの星が見えた。その瞬間、「或る事」が閃いた。
「或る事」とは、「或る空想」だった。「空想」なら何でも有り、物事を無限に展開できる。ゲームや遊びは、そもそも現実の世界から抜け出し、「空想」の世界を飛び回われるから楽しいのである。ならば夜空の星の彼方の宇宙空間を「ワープ(★1)」して「ワームホール(★2)」の中を自由に移動するのはどうか? と閃いた。
しかしこんな無責任な空想が基本コンセプトになり得るのか? 疑問に思った。しかしもう一度「星空」を見上げると、「何でもあり、何でも作れ、何でも楽しめ」と云う「声」が聞こえて来た。「相当酔っているなあ」と自覚しつつ、ワープとワームホールで宇宙を飛び回る「空想」を描きながら自宅に着いた。
★1 ワープ
ワープとは、空間や時間を歪めて物理法則で不可能な高速移動や瞬間移動を実現する技術を云う。1950年代のSF小説から生まれた言葉。光の速さを超えるスピードで宇宙を飛翔する「超光速航空」も意味する。ワープは、スター・トレック、スター・ウォーズ、インターステラーなどのSF映画で描かれた為、別の惑星系へ旅する事も意味する様になった。
出典: タイム・ワープ
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出典:ワープ理論(左図&右図) images.search.yahoo.com/search/images=
Warp+Bubble+Theory ChartA & ChartB
出典: 宇宙超飛行 bing.com/images/search
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★2 ワームホール
ワームホールとは、或る時空の或る一点と別の或る一点を結んだトンネルを意味する。トンネルで超光速移動を可能にする。此れは「空想の産物」でなく、「或る理論」である。
この理論は、有名なアインシュタインと物理学者ネイサン・ローゼンが1936年に共同で発表した「アインシュタイン・ローゼン橋」と呼ばれた理論を云う。その後、物理学者のジョン・ホイーラーとチャールズ・マイスナーは1957年に共同論文で其の概念を確立させた。此の概念をワームホールと命名した。
ホイーラーは時空をリンゴに見立て、虫(ワーム)がリンゴの表面のある一点から裏側に行こうとした際、表面を延々と移動するのではなく、穴(ホール)を掘って内部を進めば最短距離で到達できるという「例え話」をした。光の速さよりも速く遠くの場所に行く手段としてワームホールを使うと云う事である。しかし此れは今のところ実現不可能。
何故、実現不可能なのか? ワームホールの中は潮汐力が非常に大きく、その中を通過する物体は粉々に引き裂かれ、 素粒子レベルにまで粉砕されるからだと考えられている。現時点では実現不可能な理論であるが、将来どうなるか?
出典:虫食いリンゴ bing.com/images/
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出典:ワームホール shutterstock.com/image
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●基本コンセプト=ワープとワームホール
さて筆者は飲んだ翌日、二日酔いであった。此の状態で、ダメモトで、部下達に「ワープとワームホールで宇宙を飛び回る基本コンセプト」を披露した。少し元気になったその日の午後、技術部ゲーム開発技術者達にも半ばヤケクソで披露した。
しかし意外にも多くの人達から異口同音の賛意を示された。本当に驚いた。しかも此のコンセプト提案が刺激になり、その後、彼等から様々なコンセプト・ストーリーが提示された。益々驚いた。
提示された中で「天才マッド科学者」が発明した「時空位相変調装置」を基に宇宙空間を飛び回る各種のアトラクションを考えると云う基本コンセプト案が主流となった。嬉しかった。悩んだ事が報われた。同装置を「メイン館」の中心部に設置する計画が進んだ。
基本コンセプトが纏まれば、後は彼等にやり方を任せれば、素晴らしい「メイン館」を作ってくれると確信した。この確信はその後、正しかった事が証明された。なお此の基本コンセプトについてセガ社長の賛同と承諾を得た事は言うまでもない。
出典:天才マッド科学者の時空位相変調装置
筆者のセガ資料
基本コンセプトを象徴する「時空位相変調装置」はメイン館の中央に設置される。更にこの基本コンセプトに基づく様々なアトラクション装置が開発され、メイン館の各階に設置される。併せて最新型のゲーム機も開発される。
メイン館は全天候対応の屋内型とするが、メイン施設の周辺には飲食施設、物販施設、イベント広場などを設置し、超ミニ・ディズニーランド風のパークを作る。また筆者が新日鐵・MCAユニバーサル映画スタジオ・プロジェクトを検討した時と同様、本PJTの「事業性採算性」の他に、「事業戦略性」、「事業発展性」、「事業安定性」などの検討も本格化させた。これなら従来のセガ・エンタメ施設と一線を画するセガ式テーマパークになると確信した。
つづく