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「エンタテイメント論」(204)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●ジョイポリスの基本コンセプト、セガ社長への企画の上申と承認
 前号で解説の通り、筆者が考えたワープとワープホールで宇宙を飛び回る「基本コンセプト」は、セガ社内で徐々に受け入れられてきた。其の事は、基本コンセプトに沿った宇宙旅行や宇宙冒険などの具体的なアイデアが生み出され、筆者に提示されてきた事で分かった。

出典:宇宙旅行イメージ
出典:宇宙旅行イメージ Fimages.media
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出典:ブラックホールへの冒険イメージ
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 其れ等のアイデアの中で主流となったのは、天才マッド科学者が発明したと称される「時空位相変調装置」の巨大模型を「メイン館」の中央に設置する事、この装置と関連する各種の業務用大型ゲーム機を開発し、メイン館のアチコチに設置する事、そして宇宙空間を自由に飛び回れる不思議な冒険を楽しめるスペース(宇宙)アトラクション施設に仕上げる事であった。

 更に「メイン館」は全天候対応の屋内型施設にする一方、「メイン館」の周辺には飲食施設、物販施設、イベント広場などを設置するなどに依って「ミニ・ディズニーランド式テーマパーク」を作る。この方法で「風俗営業法」の適用を排除するやり方を固めた。

 加えて筆者は新日鐵勤務時代、MCAユニバーサル・映画スタジオ・プロジェクトで検討した経験を活かし、本パークの「事業採算性」の他に「事業戦略性」、「事業発展性」、「事業安定性」も検討した。この事でパーク完成時と完成後の成功確率を高めた。

 以上の検討を基にセガ式テーマパークの基本計画書を完成させた。其れには、基本コンセプト、それに基づく主流のアイデアに依る各種のアトラクション施設の詳細、風俗営法排除方法、本プロジェクトの事業の採算性、戦略性、発展性、安定性を検討した確証結果などが網羅された。

●社長の計画了承、筆者の辞職覚悟、証明責任
 筆者は此の計画案をセガ社長に上申した。彼は大変に気に入った。彼自身に依る検討と検証を経て、その後、「承認する」との連絡を受けた。嬉しかった。と共に深い安堵感を味わった。

 セガ社長は、筆者に承認する申し渡しをした場で筆者と二人きりになった時を見計らって、「川勝さん、もし本プロジェクトが失敗したら辞表を出して下さいね」と柔らかく、しかし確固たる口調で語った。この瞬間、筆者は「首」を覚悟した。

出典:辞職イメージ
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 しかしセガ社長は、新日鐡の社長や筆者と社長の間にいた副社長とは異なり、当該事業プロジェクトが成功する事の証明責任を筆者だけに押し付けなかった。彼は、自らも成功する「証明責任」を負い、成功させる為の具体的方策を考え、筆者に提示した。しかし最終的には筆者が上申した計画案を全面的に信じて承認した。従ってもし本事業が失敗した時は、筆者は「責任」を取って彼の辞表提出要求に応じるべきであると考えた。と同時に要求に応じるまでもなく、筆者の方から自発的に辞職を願い出るべきであると考えた。

 此の「責任を取る事」と「成功を証明する事」は、経営の事だけでなく、多くの事に於いて極めて重要な事であると考える。此の問題について以下の章で改めて解説したい。

●責任を担い、責任を取ること
 2024年9月27日に実施された自民党総裁選で「石破 茂」は、決選投票で「高市早苗」に逆転勝利し、総裁に選ばれた。

 しかし総選挙を統括する責任を担った石破は、自民党を大敗させ、少数与党に凋落させる重大な結果を招いた。にも拘らず、彼は大敗の責任を一切取らず、辞職せず、総裁の地位に今もかじり付いている。しかも彼はその後、数々の問題を引き起こしたが、自分には責任がないと抗弁し続けた。彼は一国の総裁として極めて重い「責任」を何故、感じないのか? 何故、取らないのか?

出典:責任を負い、取る事
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 責任を取らない石破首相に自民・公明の議員達から、また野党の議員達から、「首相下しの声」は聞こえて来る。しかし「具体的且つ現実的な確固たる行動」は全く起こってこない。「火中の栗を拾う覚悟」を持って行動する政治家が殆ど存在せず、「我が身大事」で行動する政治家ばかりが数多く存在する。彼等は政治家としてだけでなく、人としても「責任を担い、責任を取る人物」であるべきだ。トランプ米国大統領と1対1で対峙する度量と覚悟を持って行動し、彼を納得させた「故・安倍首相」に次ぐ様な首相は、いつ日本で出現するのだろうか?

●法律に於ける立証責任
 セガ社長は、上記の通り、当該事業プロジェクトが成功する事の証明責任を筆者だけに負わせず、自らも負って成功する手立てを考え、筆者に提示した。この様な社長は日本の大会社では珍しい存在である。

 そもそも「或る事」が成功するか否か?又は正しいか否か?などを証明する事は、極めて困難を伴う。時には不可能な場合もある。此の証明の問題は、違法行為、不正行為、不当行為を扱う「裁判の世界」では徹底して議論がなされ、誰が証明責任を担うべきかは法律で厳格に定められている。

 法律に於ける証明の議論と証明責任の所在などを考察する事は、経営や事業プロジェクトに於ける証明問題を考える上で大変参考になる。ついては紙面の許す限り、以下で議論したい。

 先ず法律の世界では「証明責任」の事を「立証責任」と云う。「立証責任」とは何か? 其れは「立証する義務を負った者」が立証出来なかった時、「その不利益を負う責任」と定義されている。

 次に法律の世界では「立証する責任を誰れが負うべきか」を厳格に定められている。しかし「刑事裁判」と「民事裁判」では「立証責任を負う者」が大きく異なる。いずれにしても、どちらの場合も「立証責任を負った側」が裁判で「敗訴」する確率は高くなる。以下で順を追って解説する。

出典:裁判所
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●刑事裁判に於ける立証責任
 戦後、民主主義が基本になった日本では、「刑事裁判」に於ける立証責任は、例外なく、国(検察側)が負うべしと日本国憲法と刑事訴訟法等が定めている。また世界の民主主義国家では、どこも立証責任を国が負うべしとなっている。更に「何が罪となるか?」を全て法律で定めている。この事を「罪刑法定主義」と云う。併せて「疑わしきは罰せず」、「自白が唯一の証拠は証拠にならない」なども全て法律で定めている。何故か? 「冤罪の悲劇」を避け、国民の「基本的人権保護」を守る為である。

 しかし戦前の日本では、全く違っていた。「国」だけでなく、「個人」も立証責任を負わされていた。個人では「無実を証明できない」ことから「冤罪」で死刑宣告を受け、言葉で表現できない「無念、苦痛、恨み」の中で多くの人が死んでいった。絶対に許せない非道である。因みに筆者は太平洋戦争勃発の真珠湾攻撃(1941年12月8日)の1年前、1940年(3月15日)に生まれた。戦前を経験しているが、成人になり、社会人になったのは戦後の日本であった。幸運であったと云える。

●アリバイ証明の要求は日本国憲法違反
 さて刑事が警察取り調べ室などで「あなたは、其の時、何処にいましたか?」 「その時、あなたが他の処にいた事を証明する人はいますか?」などと「アリバイ証明」を迫る場面が日本の多くの映画やTV番組などで昔も、今もよく出現する。

出典:警察での取り調べ
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 実はアリバイ証明を個人に迫る事は、刑事訴訟法違反であり、憲法違反である。何人にもアリバイ証明をする法的義務は一切ない。そもそも刑事が此の様な質問をしてはならない。もし質問されても無視して良い。むしろ無視すべきである。

 何故なら犯罪を証明する義務は国(検察側、警察側)にしかないと憲法と法律で決めているからだ。何人も犯罪者でない事、無実である事を証明する法的義務は一切ない。しかし戦前の日本では個人に立証責任を負わせていた為、自白を強制されたり、暴行を加えられて苦痛を避けるため「無実」と知りながら自白を官憲によって頻繁になされたのである。

●極東国際軍事裁判
 戦後、勝戦・連合軍は敗戦・日本国で「極東国際軍事裁判(1946年(昭和21年)5月3日~1948年11月12日)」を実施した。東条英機元首相を初めとする日本の指導者達は、A級戦犯として28人、B、C級戦犯として5400人余が起訴された。そしてA級戦犯28人中、東条英機など7人は死刑判決を受け、死刑執行された。

出典・東条英機元首相
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 極東国際軍事裁判で起訴されなかったが、不法な取り調べで無実の罪を負わし、有罪に追い込み、冤罪で死刑にした刑事や検察官などは数多くいた。と同時に日本の戦争に反対した政治団体や有志団体などのメンバーも「冤罪」で起訴され、死刑に追い込まれた。此の様な無責任を通り越し、非人間的な行動をした連中は、敗戦と共にいち早く闇の中に姿を消した。しかし彼等は「ホトボリが冷めた頃」世の中に姿を現し、其れなりの地位に復活した。

 戦争犯罪者を連合国側の追及と法的処分に任せた日本政府は、上記の様な非人道的行為をした連中を許さず、追跡し、公の場に引きずり出し、法的措置をしたか? 実は全く何もせずに放置したのである。無責任極まりない日本政府であった。

 一方日本と同じ敗戦国のドイツやイタリアは、戦勝国側だけに戦争犯罪者や戦時の非人間的な行動をした連中を任せず、自国でも彼等を追及し、法的措置を行った。でないと冤罪で死刑となった人物とその家族の魂は永久に救われないからである。

●非民主主義国家の中国
 中国や北朝鮮などの非民主主義国家では「自由」が制限されている。此の事だけでなく、それ以上に深刻で恐ろしい事は、「罪刑法定主義」が不徹底である事、刑事裁判で「無実の立証責任」を個人にも負わされている事である。

出典:無実の訴え。
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 現在の中国は以前の中国ではない。何故なら習近平国家主席は極端な独裁政治体制を確立させた為である。と共に天安門事件の様な国民からの反動・反抗・開放運動を極めて恐れ、徹底した国民監視体制を築き、「スパイ法」などを制定した為である。現在の中国は、中国民にとっても、外国人にとっても極めて恐ろしい国に変質した。

 現在、中国で仕事をする日本人や中国を観光旅行する日本人は、常に周囲から監視され、誰かに誤った密告をされる危険に晒されている事などを自覚する必要がある。また現場での発言や行動に特段の注意を払う必要がある。

 余談であるが、筆者は今も「中国政法大学(北京)」の客座教授(客員教授)をさせられている。しかし習近平独裁体制が強化されてからは同大学で「夢工学」などを教えに行かなくなった。代わりに同大学の教授達に来日して貰い、彼等に最新の「夢工学」などを伝授し、筆者に代わって同大学で講義して貰っている。彼等は日本に来られるので此のやり方を大歓迎している。

 更に余談であるが、中国に生まれ育った筆者が「第2の故郷」と慕う中国は、現在信じられない様な経済的危機に直面している。しかも経済音痴の習近平国家主席に依る経済振興策は愚策の為、中国経済は傾く一方で国民生活は益々苦しくなっている。

 その結果、中国の富裕層は次々と国外脱出を図る一方、日本を含む外資系企業も次々と中国から撤退している。もし「このまま」で今後も推移すると多くの中国民は、習近平体制への不信と不満を募らせ、第2の天安門事件を引き起こすかもしれない。もし習近平が其れを抑え込めなくなった場合、中国革命が起るかもしれない。

 次号では経営に於ける「立証責任」を論じたいと思う。
つづく

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