今月のひとこと
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 文化遺産:伝統的酒造り 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :4月号

 週の初めに雪が降ったかと思えば、週末には夏日、今年の三寒四温はブレが大きかったという印象です。新潟の知り人は、3メートルを超す雪を嘆いていました。それでも、桜が咲き始めると、そういったあれこれを忘れて目は花を追いかけてしまいます。

 そんなほんわかした気分が漂いはじめた頃、酒米の作付けが減少しているとのニュースが届きました。酒米は栽培が難しいところがあり、従来は食用米(飯米)の2倍程度の価格で取引されてきたそうです。食用米高騰により価格が逆転し、わざわざ難しい酒米を造る旨味がなくなったということです。
 昨年暮れに「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたとのニュースが流れ、日本酒業界では盛り上がっていると聞いていますが、登録された翌年に、材料となる酒米が思うように入手できなくなるかもしれないなんて誰も予測しなかったと思います。消費回復は遠のいてしまうのでしょうか。誰かが文化遺産を守るために動いてくれるのでしょうか。
 農業者に採算度外視で酒米を造れとはいえません。
 文化庁は、ユネスコへの登録窓口ですが、日本酒造りには何の権限もなさそうです。
 日本酒を所管する役所は国税庁です。国税庁の業務に「文化」はないのではと思っていたのですが、文化遺産に登録された時の国税庁長官コメントには「国税庁としては、この登録を契機に、国内のみならず海外の方にも『伝統的酒造り』の歴史や文化の豊かさを知っていただき、海外への更なる展開も含め、酒類業の振興に取り組んでまいります」とありました。何かやってくれるのでしょうか。
 課税部酒税課というところが担当になるということだと、期待できないと思うのは編集子だけではないはずです。かつて、酒税が日本の税収のトップを占めていたそうですが、第2次世界大戦後の税収確保を目的に三増酒(三倍増醸清酒)なる劣悪な、文化の対極にある日本酒もどきを酒蔵に強いた首謀者です。現在、酒税の税収に占める割合は2%弱となっています。日本酒だけに限れば1%以下です。徴税を国税庁が行うのは問題ないのですが、それ以外のことについては、文化遺産登録を機に、日本の文化を守り、育てるにふさわしい省庁への移管を考えてもいいのではないかと思います。

 そんな、時間がかかりそうな話はとりあえず放置しておいて、日本酒文化の普及を目指す酒蔵の取組みを1つ紹介します。
 埼玉県に神亀酒造株式会社という蔵があります。この蔵で作っている日本酒は全て純米酒(全量純米蔵)ということで、日本酒ファンには有名な蔵です。ここの社長が、今年初めから、日本酒のおいしい飲み方を伝えるための「塾」を開いたのです。純米燗酒体験セミナー「かめ塾」と名付け、月1回程度の頻度で定例開催するとともに、企業団体や各種イベントへの出張開催も行うとなっています。
 編集子も参加させてもらいました。「なぜ、燗にするとおいしく身体にもいいのか」「日本酒を熟成させるってどういうこと」「どんな肴が日本酒に合うのか」「酒器の選び方」等々、社長の日本酒(純米酒)に対する熱い想いを聞きながら、お酒に合った料理をつまみつつ、適温に温めた燗酒を堪能することができました。この時の会場は東京都区内(墨田区役所の隣)で、参加者は10人程(九州から参加の方もいました)でした。興味がある方は、同社のHPをご覧ください。
以上

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