今月のひとこと
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 失敗しない人と組織 

オンライン編集長 深谷 靖純 [プロフィール] :5月号

 爽やかな風が緑の間を吹き抜ける季節になりました。といっても高めの気温が続き、早目の夏を予感させます。ビールの新商品のコマーシャルが本当に美味しそうに映っているので、つい味見をしてみました。爽やかな苦みというのは、こういう味なのかと感心させられるとともに、ビールそのものの開発者とコピー(宣伝文句)の作者の両方にエールを送りたいと思います。今年の夏は、楽しみが一つ増えました。

 暑い盛りの8月の月例講演会(従来例会あるいは月例会と呼んでいましたが、何の会だか分からないという声を受けて「月例講演会」と呼ぶことになりました)では、参加者の皆様にも一緒に考えていただきたいテーマを取り上げることになりましたので、先行してご紹介します。
 今年の3月「失敗しない『人と組織』」という本が刊行されました。著者は、元東京電力の小池明男さん、地域住民に多大な被害を持たらした2011年3月11日の福島原子力発電所事故の真因は「組織文化」にあるとの事故調査委員会等の指摘を受けて、組織改革に取り組まれてきた方です。偶然、小池さんと知り合う機会があり、著書の内容を月例講演会で紹介していただき、多くの方とともに考えてみようということになりました。

 小池さんは、営業とか経営企画といった部署を長く担当されてきた方で、事故当時は営業の現場で顧客からの非難を直接聞く立場でした。その後、経営企画部門に戻り、組織改革の陣頭に立つことになる訳ですが、組織文化を変革するといっても何から取組んでいいのか誰も教えてはくれません。
 P2Mにおいては、変革の構想にあたってはAs IsとTo Beを明らかにするところから始めるわけですが、小池さんが最初に取組んだのもAs Isからでした。営業拠点には顧客や取引先から様々な声が寄せられ、報告書という形で記録されていましたが、全社で共有されているという状況ではなかったそうです。これを収集・整理し、閲覧可能な状態に持っていきました。しかしながら、事実を並べるだけでは組織文化の課題にたどり着けることができません。小池さんは、国内外における様々な事故の分析記録を調査し、東京電力における問題点が何かを追求しました。
 その分析結果に基づき、全社員に対するある研修の実施を提言したのです。小池さんをリーダーとする研修チームは、2年間にわたって延3万人に及ぶ研修を実施しました。その模様が、2021年2月にNHKのニュースウォッチ9で紹介されています。8分程度の動画ですのでご覧ください。

 福島原発事故は未だ解決していません。そういった状況で、退職されているとはいえ深刻な被害をもたらした会社に所属されていた方が講演することの是非を問題にする方がいるかもしれませんが、例会部会ではこの著書の内容は多くの方に知っておくべきだと考え、講演をお願いすることにしました。もちろん、P2Mの視点で小池さんが取組んだ組織文化変革活動を詳しく知りたいという面はあります。しかし、それ以上に、全社員の意識改革を実施しなければならないとまで考えた小池さんの想いを直接聞いて、感じていただきたいと思いました。組織文化の問題は、実は、ほとんどの企業・団体に共通する問題なのかもしれないのです。
以上

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