理事長コーナー
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アクティブラーニングとPBL

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :3月号

 課題の解決は、まず解くべき対象を定義するところから始まる。関連情報を収集し、分析し、目標を明確に定める。そして解決に向けての計画と実行を行う。目標設定は、言わずと知れたプロジェクトの初期段階だ。プロジェクトの関係者であればお馴染みのことだ。この同じプロセスを、中学・高校の授業で取り入れ始め、急激に拡大しているという。それは、Project Based Learning-PBL-と呼ばれる学習法だ。

 課題設定の例を仮にあげてみよう。“地球温暖化対策に高校生としての立場でどのように参画するか”、“情報社会における教育の在り方”。これらは社会的な問題だ。“適当な場所のない校内に花壇を設ける”、“障害のある生徒とクラスで共存する”などは校内の生活課題だ。これらはみな解決案が多彩な、いわば「正解がない課題」だ。様々な前提や制約条件の中で、考え方や解き方が異なるので、色々な解答があっていい。いずれ社会人となるとこのような「正解のない課題」にぶつかる。その疑似体験を中高校生が行う。課題を設定し、プロジェクトとして定義して、チームを組んで解決策を提案する。このように「プロジェクトを通して学ぶ」授業がPBLだ。

 PBLは、この名前の通りにプロジェクトを通して進めるのだが、利活用の効果を高めプロジェクトプロセスを効果的効率的に進めるためには、プロジェクトマネジメント(PM)の方法論を学ぶことが近道だ。中高校生は、社会人が学ぶ程に広く深くプロセスや方法論を学習する必要はないが、基本は押える必要がある。現在、PMAJでは社会人になった際に有効なPM要素を選び出し、中高校生に学んでほしいコンテンツを取り纏めて教材とすることに取り組んでおり、この秋には世に出す予定だ。また、学習の習得度合を測る制度も同時に検討している。

 教諭が一方的に講義する授業に対して、PBLでは生徒がチームに参画し、討議し、自ら解答を得る努力を行い能力を鍛えるという授業だ。生徒が能動的に学ぶ学習法である「アクティブラーニング」の一種である。テーマの範囲は広いので、どの問題にも対処できる方法論が確立している訳ではない。教諭は、授業前の準備も授業中の対応も大変だ。そのような問題意識をもった教諭が集う場が、「アクティブラーニング学会」だという。その場で様々な意見交換がされ、その中からPBLの根幹となるPMの基本を学ばせる必要性が高まってきている。
 アクティブラーニングは、30年以上前から米国のBuck Institute for Education が提唱し、実践されてきており、その有効性も報告されている。
 文部科学省でも、アクティブラーニングの重要性を認識している。「新しい学習指導要領等が目指す姿」の中で、「学校教育において重視すべき三要素」が、1) 知識・技能、2) 思考力・判断力・表現力等、3) 主体的に学習に取り組む態度、であると掲げている。この三番目の項目が、いわゆるアクティブラーニングの重視である。具体的には、学校の教室でのPBLの実施である。現場の先生の間では、PBLをどのように進めてゆくべきかの議論はあるようだが、もはやこの流れをとめるべき理由は見つからないだろう。

 世の中の仕事は、定常業務と非定常業務に分かれる。後者がプロジェクトの実施だ。昨今のような先の読めない世の中になればなるほど、プロジェクトを企画して、解を求め、変化に対応する必要がある。それは社会人も学生でも同じだ。将来、中高校生時代に学んだPBLの利活用の場が増えてゆくことは間違いないだろう。PMAJ理事会でも、PBLの推進には前向きであるので、PMAJの持つ知見と経験を活かし、中高校生向けのPMの普及活動に貢献したいと考える。

 
 以 上

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