理事長コーナー
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持続的可能性SDGsとP2M

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :4月号

 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)が、はじめて地球の温暖化に関して「気温上昇を生じさせるだろう」と警告を出したのは1990年であった。人為起源の温室効果ガスは気候変化を生じさせる恐れがある。また、その気象変動は、結果的に経済活動にも影響するとされている。
 この第1次報告書に続き、1995年には「影響が全地球の気候に表れている」と警告レベルを強めた第2報告書が出されたが、一向に改善されない。その後も、2001年に「(過去50年に観測された温暖化の大部分は、温室効果ガス濃度の増加による)可能性が高い(66%以上)」(第3次報告書)、2007年に「(温暖化には疑う余地がない、20世紀半ば以降の温暖化のほとんどは、人為起源の温室効果ガス濃度の増加による)可能性が非常に高い(90%以上)」(第4次報告書)、2014年に「(温暖化には疑う余地がない、20世紀半ば以降の温暖化の主な要因は)人間の影響の可能性が極めて高い(95%以上)」と第5次報告書が出され警告度合いが強まっているが改善どころか、悪化してきているのが実情だ。
 現に、次の現象が地球温暖化と関連していると世界各地から報告されている。
- 気候変動による異常気象・竜巻・台風などによる自然災害の増加
- 生態系の破壊、その結果、生物多様性の破壊海面の上昇、ツバルの国土が水没危機
- 海の生態系への深刻な影響、サンゴ白化現象、エルニーニョ現象、ラニーニャ現象
- 森林火災の頻発、それに伴う湿地の減少
- 干ばつ等による水不足、砂漠の拡大
- 食糧難と飢餓の拡大
- 伝染病の拡大
 これは起きている現象の一部に過ぎず、人間への悪影響のみならず、動植物生態系や農林漁業への悪影響となり、世界経済への影響も甚大であるとされている。これらの深刻化する現象を地球全体の危機であるとして、2015年9月に国連のサミット会議で国際社会共通の目標として採択したのが、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」である。17の目標(下図参照)と169の具体的なターゲット (注1) があげられている。
 日本の都市で生活しているとこれらの現象の悪影響も切迫感をもって感じられない。しかし、最近では、メディア、エネルギー産業、エネルギーを大量消費する企業などが、主体的にSDGsを目標として企業活動をしていると主張し始めている。政府も、内閣府にSDGs推進本部を設けている(2016年5月 20 日)。内閣総理大臣を本部長、内閣官房長官と外務大臣を副本部長、各国務大臣を本部員とし、「SDGsアクションプラン2019 ~ 2019 年に日本の「SDGsモデル」の発信を目指して~」と題する日本の「SDGs実施指針」を閣議決定した。主要な取組テーマを下に列記したが、あまりに総花的であり、通常の政策と違いがわかりにくい。ちなみに、この日本のSDGs目標は、今年日本で開催されるG20サミット大阪2019(6月28、29日)の主要テーマとなっている。
あらゆる人々の活躍の推進
健康・長寿の達成
成長市場の創出、 地域活性化、 科学技術イノベーション
持続可能で強靱な 国土と質の高い インフラの整備
省エネ・再エネ、 気候変動対策、 循環型社会
生物多様性、森林、 海洋等の環境の保全
平和と安全・ 安心社会の実現
 これだけ政府が力を入れているとメディアでもSNSでも頻繁に見聞するようになってきている。しかし、複数のメディア発表によるSDGs認知度の調査結果は10%台であり、かなり低い認知度であるといえる。
 SDGsの17目標と169ターゲットは一度に全体を実現できるような内容ではない。169ターゲットごとに、然るべき基準を決め、その基準をもって小さく分割する。人類は、哲学・数学・物理などといった学問分野を発展させてきた。自然界を分割し、分割された学問分野ごとに内容を極める努力をし、近代科学を発展させている。今は観念的にしか語れないが、同様の分割と統合を繰り返し、対象を理解し、理解した対象ごとに解決策を講じた上で、それぞれの成果を統合してゆく。現状では余りに膨大な対象にみえるが、解を得る研究は世界の何処で進められている、あるいはこれから進められるはずだと信じる。
 分割され適当なサイズになった対象に対しては、P2Mプログラムマネジメントは相応しい方法論だ。対象を定めミッションプロファイリングを繰り返し、課題を抽出し、大きな課題から中小課題に落とし込み、それらの課題解決をP2Mプロジェクトマネジメントで解決してゆく。複雑な複合案件ではあるが、責任あるリーダーのもとP2Mプロセスにて実現可能であり、チャレンジグで達成しがいのある目標である。

 
以 上

注1: スペースの関係でここには記載していない。興味ある方は、是非内閣府SDGs推進本部のホームページを参照願いたい。
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

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