関西例会部会
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第144回 関西例会レポート

PMAJ関西 KP 土肥 正利 : 11月号

テーマ
 「町工場の変革」
  ~若者が誇りを持てる会社づくりと働き方改革~
講演者
 三元ラセン管工業株式会社 代表取締役会長 高嶋 博
日時場所
 2018年10月12日(金) 19:00~20:30 大阪生涯学習センター
高嶋博氏

概要
フレキシブルチューブとベローズの設計・製造をしている23名の町工場です。
若者が町工場を嫌って入ってこない、価格競争による売上の減少で経営危機、それに追い打ちをかけるように先代の急死で潮が引いていくように先代の親密先との取引がなくなってしまう。
先代の残したものづくりを次の世代に残したいと会社を引き継ぐ、そこで同業者への製造卸から流通を使わない直接販売に方針を転換し、ISO9001の自力認証、展示会活用、WebやSNSから展示会へ集客し、行かない営業で成果を上げた取り組みや、多能化・IT活用による情報の共有化で時間の短縮により残業なし、休暇を取りやすい風土になった。その経緯と会長自らが率先垂範して行動した取り組みを、ご講演いただいた。
ベローズ:伸縮管、半導体・液晶・真空機器等幅広い分野で気体・流体の機密防止のシール用部材として使用される。
フレキシブルチューブ:自由自在に曲げる事ができる装置の配管用として使用される。

講演者ご紹介
1944年1月 長野県伊那市で生まれる
1962年3月 上伊那農業高校林業科卒
     パシフィク航空測量(株)(現 (株)パスコ)入社
1966年5月 セントラル航空測量(株)を立ち上げ
1976年5月 三元ラセン管工業(現 三元ラセン管工業(株))入社
1995年11月 取締役副社長
2000年1月 代表取締役
2018年3月 代表取締役会長

会社の特徴
戦わない(価格競争を一切やらない)、大きな会社を目指さない、量産品は生産しない、1個から全て受注生産、多品種、短納期、顧客の希望の寸法で制作(型代は不要)。1番の強みは1mm単位で850mm径までのベローズを作成できること。
直販、展示会、Web、SNSで集客し、「行かない営業」でやっている。新素材での製品開発や大手企業との共同研究を実施している。

納入先
全国の主要国公立大学など53大学、研究所は宇宙航空研究開発機構(JAXA)など28研究所や、石川播磨重工、川崎重工業などの大手プラント会社や三井造船など約1200社。新日鉄住金とは十万円単位でも直取引している。すべて細かい注文である。

受賞や認証
関西IT 百選優秀企業賞受賞(2009年、2017年の2回)他多数。
最も感銘を受けた賞は、デルスモールビジネス賞を2009年に受賞したことである。世界113カ国の100人以下の中小企業でITを活用して事業実績を上げている企業として日本で最優秀として賞をいただいた。

ここまでお伺いし、中小企業として成功を収められ、さぞITスキルの高い、優れた技術者がいて、他社にない尖った技術の研究をされていると思っていた。だが、お話を聞いていくうちに、かつては、経営の危機や事業継承の壁に直面した会社であり、いつ潰れてもおかしくない状態から高嶋会長の熱い思いと、従業員に対する責任から事業を軌道に乗せ、反転攻勢し、現在の素晴らしい会社になったことを知った。その経緯の話が後に続いた。その内容をご紹介すると、

「働き方改革」取り組みの動機と背景
1995年の経営危機。この年は阪神淡路大震災が1月に起こり、オーム真理教による地下鉄サリン事件が3月に発生した。暗い世相を反映する災害や事件が発生していた。会社も先代社長の急死で奥様が社長をされ、経営のわかる自分が副社長についた。客離れや、後発メーカーとの価格競争で売り上げ減少。創業以来、量産品の見込み生産で同業他社への卸売を行ってきた。実に売り上げの6割が3社で占められており、月一回トラックで納品をすれば商売として成り立っていた。したがって、売り方と言うものがわからなかった。やがて土地建物購入に伴う借入で返済利息が経営を圧迫していった。
また、会社は日曜・祭日しか休みがなく若者が入って来ず技術の伝承ができず、企業の存続が危ぶまれていた。
そこで、若者が誇りを持って働き続けられる会社へ、新3K(きつい、厳しい、帰れない)を変えようと宣言を行った。1996年年明けに宣言した直後、1月末まさに「天からの贈り物」として知人から会社を頼みたいと、無償で製造設備を譲ってくれる話が舞い込んだ。これこそが現在主力製品となっているベローズとの出会いであった。また、職場環境も社員自らの手で食堂や更衣室の整備や、工場内へのBGM、3S活動(整理、整頓、清掃)や1日1善活動(1日1回改善をする)にて、全社員が持ち回りで朝礼にてビフォー・アフターを発表し経営に参画できる機会も設けた。

卸売から直販への転換
量産品から受注生産へと生産体制を切り替え、価格競争から差別化高付加価値戦略をとり、ベローズ自身の価値を上げることができた。ブルーオーシャンでの商売実践。
また宣伝についても大手企業の様に費用をかけるわけにもいかない。
そこで、展示会や、ホームページを活用し集客をし、「行かない営業」を目指した。またブログ、ツイッター、フェイスブック、YouTube、InstagramなどのSNSも取り入れた。特に会長自らが13年間ブログで、情報発信を続けている。情報発信は「神様が中小企業にくれた贈り物」と捉えている。それにより、こんな社長の会社なら注文しても大丈夫と思っていただけるよう自分自身の人となりを伝え、顧客に信頼をしていただくことができた。大企業も中小企業も同じ土俵で、全世界に発信でき、注文をいただける仕組みができた。展示会等では製品の耐久テストの実演、リアルな対面など実物に触れてもらい他社との差別化をアピールする場として大いに活用している。出展し続けることにより企業のイメージも向上した。
それとともに、社内のIT化への取り組みを行ってきた。1つ目は書類管理である。問い合わせ等の必要書類を(’18年9月26日時点 255,996件の書類から)PC上に数秒で引き出せるようにした。販売管理システムやボイスシステム、グループウェアなども活用し商機を逃さぬようにしている。

就業規則の整備
完全週休2日制、パートタイマーの正社員化(42歳の掃除のパートの女性が正社員となり製造現場で69歳のベテラン社員の後を継いでいる。)の導入。
60歳を過ぎても同じ条件で働くことができ、65歳以上でも就労は可能である。また確定拠出年金(401K)の導入も行ってきた。

社員の意識改革
社長自らが先頭に立って、新しいものに挑戦している姿を見せてきた。例えばISO9001認証取得では、品質マニアルを社長自らが作成した。ホームページも社長自らが学びに行き、立ち上げることができた。社員の教育訓練では資格取得の奨励(資格手当)、社長賞(社長のポケットマネーから)を出して、推進している。

風土づくり
若者への人材育成(OJT、社会教育)、多能工の養成によって休暇を取りやすく、また短納期に対応することが可能になってきた。残業ゼロ、120日を超える年間休日、高齢者の就業、メンター制度、メンタルヘルスケアの導入等を実現してきた。また最近、中小企業としては稀だが、大阪労働局へ「働き方改革宣言」を提出した。

採用制度の工夫
面接から採用の判断まで若者で決め最終判断を社長が決めている。若者をメンターに指名し2~3ヶ月相談に乗ってあげると言う仕組みを運用している。

こんな小さな町工場でも、このように情報発信を続けることにより、NHKや民放など多数の番組で取り上げられるようになった。1996年の宣言通り、若者が辞めない会社になった。また小さな社会貢献として大学や行政各種団体会の出前講演、インターンシップ生の受け入れや各種団体の工場見学受け入れ、修学旅行生の受け入れなども行っている。

感想
全く畑違いの業界へ飛び込み苦労され、先代の逝去により経営を引き継ぐことになる。まさにどん底からの復活劇をドラマを見るような思いでお話をお伺いした。だが実際には会長のお人柄、若者を育て、若者が誇りを持てる会社づくりへとの熱い思い、危機を乗り越える発想の転換、情報発信の継続などなど前に進もうとする意志と行動、この人ならではと、講演資料にもあったが、「天からの贈り物」が準備されていたのではないかと思ってしまった。

以上

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