関西例会部会
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第142回 関西例会レポート

PMAJ関西 KP 岩崎 伸一 : 9月号

開催日時 : 2018年7月13日(金) 19:00~20:30
場所 : 大阪駅前第2ビル 総合生涯学習センター 第2研修室
テーマ : ヒマラヤの学校建設
~学校がない途上国のこどもたちのために~
講師 : 野田 隆史 (のだ たかし) 氏 
/ 特定非営利活動法人アジアン・アーキテクチュア・フレンドシップ
参加者数 : 18名

講演概要 :
途上国には学校がないために教育を受けることができない子どもたちがまだまだ大勢いる。私たちが学校建設を推進してきたネパールのヒマラヤ山麓の村・フィリムは、活動をスタートした2000年当時、小学校の就学率は約30%、村人の識字率は約15%であった。車の通れる道がある村から徒歩で3日、電気も電話も水道もない自給自足のその村で、私たちは建築の専門家としての職能を生かしながらプロジェクトマネジメントを実施し、多くの方々の資金協力により小・中・高校までの教育を受けることができるキャンパスが実現した。そのプロセスと現況を報告することで、途上国への支援の輪を広げる契機としたい。

PROFILE(概略) :
1962年 大阪生まれ
1986年 京都大学大学院建築学専攻修士課程修了後、
竹中工務店入社。翌87年大阪本店設計部に配属。
2000年 設計部の有志が中心となり、ボランティア団体 AAFを設立。ネパールでの学校建設支援活動を開始。
2015年 特定非営利活動法人の認証を取得。
現在AAF副理事長、竹中工務店大阪本店設計部部長。

AAF(アジアン・アーキテクチュア・フレンドシップ)とは :
竹中工務店設計部有志を中心に組織されたNGOで、アジアの開発途上国で学校等の建設支援を行う団体。1998年、竹中工務店大阪本店設計部に所属する有志3人によって立上げ(当時の名称は「アジア建築研究会」)。1999年よりメンバーを募り活動を開始、2000年にAAFに改称。2015年にNPO法人の認証を取得。
2000年~、ネパール北部ヒマラヤ山麓の村、フィリムに小・中・高等学校を建設するプロジェクトを支援。現地調査から設計、見積、施工計画、資金調達、工事監理等トータルな支援を行う。2003年4月1期工事竣工。2009年5月2期工事竣工。20015年4月、3期工事施工中にネパール中部大地震が発生し、被災。現在復興事業を継続中。
AAFの活動の特徴は以下の通りである。
建築の専門家団体として、施設計画に重点をおいた支援
調査・計画から行政との調整、設計・見積・施工監理さらには建設資金のための募金活動・資金管理に到るまでトータルな支援
単に箱物を提供し、短絡的に開発技術を供与するのではなく、現地の環境や文化に配慮した良質な建築の実現

学校建設プロジェクトの背景 :
AAFは、2000年より、ネパール北部ヒマラヤ山麓の村、フィリムに小・中・高等学校を建設するプロジェクトを支援している。
ネパールの特徴としては、国土面積は北海道の約1.8倍、高度差は100m~8000m、多言語・多民族であり、ヒンドゥー教信者が8割強、急激に人口が増加しており(1991年からの20年間で1850万人→2662万人)、国土の3割以上が森林で、農業に就労人口の約3分の2が従事し、農業がGDPの約3割を占める。一人当たり国民総所得は730$で、1000$を切っているのは、ネパールを含めて3か国のみ(他は北朝鮮、アフガニスタン)。
ネパールの教育事情は、識字率が64%(2016年)と低く、学校数・教師数が少ない。就学率は中等教育で約60%(2016年)と低く、政府の教育への負担範囲は教員への給与と教科書の配布に限定されており、校舎の建設は地域住民の負担とされている。
また建設地フィリムの特徴は、ネパール北部のヒマラヤ山麓に位置し、周辺の9つの県の中心であり、車の通れる道がある村まで2日(以前は3日)、電気・電話・下水等のインフラが未整備で、農業中心の自給自足の生活であり、識字率は15%、小学校の就学率は36%、農業以外の仕事に就職するには高校卒業程度が必要であるが、中学・高校がなく小学校にいっても仕方のない状況であり、小学校も校舎がなく青空教室であった。
フィリムに小・中・高校までの教育を受けることができる学校を建設することで、この地域の就学率と教育環境の向上が期待できると考えたのである。

学校建設の計画 :
計画の基本的な考え方は、以下の4点である。
1. 太陽光や風など自然のエネルギーを最大限に利用して良好な教育環境を創り出すこと
2. 石や木材などできるだけ現地で採れる素材を利用して建設を行うこと
3. 既存の民家建築とは異なる学校建築としての象徴性をもたせること
4. 子供たちの教育の場としてモデルケースとなる魅力ある空間を創り出すこと
基本計画を策定するにあたって5案検討し、右表の基準でそれぞれの長所・短所を比較し、E案に決定した。

資金調達について :
資金調達を行うにあたって、まず建設コストを把握する必要があった。それには、石材・木材等の建設材料の数量積算、ネパール人労働者の賃金相場の調査、資材の運搬と施工にかかる時間の実験、運搬・施工に必要な人工数を算出、現地調達できないものの購買価格の市場調査まで実施した。
建築コストの見積が完了した後は、その原資を調達する必要があった。在ネパール日本大使館と交渉し、外務省からの補助金を得たが、不足分は、地元負担いただいた土地代以外は、寄付に頼るしかなく、募金活動を行った。建築士会や日本建築協会等で講演会を実施して募金を呼びかけたり、メンバー各人の個人的な人脈で募金を呼びかけたりして、資金調達を行った。

建設のプロセスとマネジメント :
着工するにあたって、まずネパール人エンジニアを雇用し、現地で工事管理を行い、現地とAAFの窓口となる技術者を確保した。
次にネパール人エンジニアと協力して工事工程表を作成、工事のまとめ役となる職方を都市部から雇用するとともに、現地で村長を中心に建設委員会を発足し、現地労働者を手配することとした。
着工後は、IDカードにより労働者の出勤及び労働時間を毎日確認、月1回労働時間を集計し、各労働者に現金を手渡しで支払った。また、工事監理においては、ネパール人監督から定期的に工事の進捗と賃金の支払い状況をAAFに報告いただくとともに、3~4か月に一度、AAFメンバーが現地に赴き、工事の進捗状況と管理状況を確認した。さらには工事完了後の学校運営についても、教師の赴任をネパール教育省と協議、女性教員を支援する日本ネパール女性教育協会とも連携、また開校後の運営についての体制等に至るまで確認を行った。

教室の次に必要とされたもの :
校舎が完成した2003年時点で、生徒数207名で、うち県外からの生徒数32名。通学距離20km程度までは徒歩で通学、どうしても自宅から通えない生徒は化学実験室を仮寄宿舎として使用した。3年後の2006年には、生徒数251名で、うち県外からの生徒数44名。次年度以降の寄宿舎入居希望者は157名にも及んだため、継続的支援として、160名収容できる寄宿舎5棟と食堂を計画し、うち寄宿舎3棟と食堂、便所棟を2期工事として2009年に竣工したのである。

ネパール中部大地震の被害と復興支援 :
2015年4月25日11時56分(日本時間15時11分)頃、ネパールの首都カトマンズから北西約80km地点を震源とする、マグニチュード7.8の大地震が発生。フィリムの学校も寄宿舎3棟と建設中の教員宿舎が大破。
現地までのルートが復旧した9月に被災状況を直接確認、すぐに復興のための計画に着手した。鉄筋コンクリートで耐震補強を施し、寄宿舎3棟については再建工事を完了し、引き続き復興支援を継続している。
なお、今回の地震による被害は2期工事の建物に集中しており、施工が設計通りに行われていないことが主な原因とみられた。今回のプロジェクトでの施工管理のあり方を問うものとなった。

さいごに :
ネパールからの研修生を受け入れたのがきっかけで、ネパールの教育事情を知り、建築の専門家として支援を志され、実際に一定の成果を出されており非常に感銘を受けました。よく状況がわからない土地での、調査や計画のむつかしさと重要性を改めて感じました。建設だけでなくその後の学校運営まで支援される姿に、モノづくりの後の重要性を再認識するとともに、少しでも教育事情を変えようという目的が根ざしているのだと感嘆いたしました。心動かされるご講演、ありがとうございました。

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