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~ 「P2M & PMAJへの期待」 ~

小林 正和 [プロフィール] :8月号

 第1線を退いてから、10年間余りになる。現在は、主として大企業のプロジェクトマネジャー育成研修の社外講師として、招かれることが多い。気が付くと、現在までに、約300講座位を担当してきた勘定になる。この経験を通して、感じた事を述べたいと思う。
 最も気になっている事は、総じて、受講者が疲れ切っているように思われることである。筆者が現役で、プロジェクトをマネジメントしていた頃に比べて、企業の環境は、ますます厳しくなっている。端的に言えば、少ない人員で、多くの仕事をこなさなければならなくなっている。その結果、常に忙しいということが、常態となっている。さらに、悪い事には、守らなければならない標準や規則が非常に多くなってきている。そのため、仕事の進め方が面白くなくなってきているように思われる。これに、仕事の目的がワクワクできないものであることが加わると、状況は悲惨なものになる。
 プログラム・プロジェクトマネジメントは、人が人をマネジメントすることである。人はまず「生き物」である。人が「生き物」であるという観点から、重要になる管理の一つが、人のエネルギー管理(ジム・レーヤー他著「4つのエネルギー管理術」)である。人間のエネルギーには、肉体面、情動面、頭脳面、精神面の4種類がある。肉体面のエネルギーは、「量」(ハイまたは、ロー)で測ることができ、情動面のエネルギーは「質」(ポジティブまたはネガティブ)で測ることができる。この2つの基本の上に、頭脳や精神が働く。図の右上の「ハイ・ポジティブ」の象限は、フル・エンゲージメントの状態と呼ばれる。最高のパフォーマンスは、フル・エンゲージメントの状態の場合に得られる。フル・エンゲージメントの状態で、仕事をこなすためには、エネルギーの消費と回復をリズミカルにバランスさせることが非常に重要になる。また、エネルギーの貯蔵量を増やすトレーニングも重要であり、ジム・レーヤー他氏は、トップ・アスリートの育成で用いられているインターバル・トレーニングが有効であると論じている(前掲書 pp.16-29)。エネルギーの消費ばかりで、回復がないと、ついには病の症状をきたす。フル・エンゲージメント以外の状態から、フル・エンゲージメントの状態に、自分の力(自己治癒力)だけでは復帰できなくなった場合には、治療が必要になる。治療には2通りの考え方がある。一つは、「外部から治すアプローチ(医者に多くみられる)」と、「内部の自己治癒力を発揮できるように外部から支援を行うアプローチ(心理療法士の基本的なスタンス)」がある。この両面のアプローチを同時並行で、適切にすすめるのが、筆者の実務経験や、身近な経験から、望ましいように思われる。最も良くないのは、薬等によって自己治癒力を阻害してしまうことである。
 米国の超優良企業の間では、経営トップの最も重要なマネジメントが、部下のエネルギー管理であるという認識が広まっているようである。少なくとも、プログラム・プロジェクトマネジヤが、自分の配下から、エネルギー不足が原因でメンタルな者を出すことは、マネジャの重大過失であり、責任が問われるという認識を持つべきである。
 今後は、プログラム・プロジェクトマネジメントは、人(生き物)が人(生き物)をマネジメントすることであると考え方を基軸にすべきだと思う。P2Mでは、人的能力基盤(P2M 3 pp.659-729)を非常に重視していることは、特筆すべきことであると思う。

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