PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(62)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :5月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

4 涙
●筆者自身によるエンタテメントの実践
 筆者は、「歌」を唄うことが好きだが、何故か、「楽器」の演奏の方が遥かに好きである。小中校の時代はハーモニカ、高校と大学の時代はギター、会社員の時代はフルートとサキソフォン(アルト&テナー)をそれぞれ楽しんだ。ピアノは遊びで弾いていただけ。

 筆者は、現在、東京俱楽部というジャズ・ライブハウスで毎月「箱出演(★)」している。「トリオ+女性歌手」の編成でピアノを担当し、標題の通り、「筆者自身によるエンタテイメントの実践」をしている。この実践は、下記の「偶然」がもたらした結果であった。(★箱出演とは、業界用語で毎回契約しなくても当該店で定期的に連続して出演できる契約形態をいう。プロの証にもなるものだ)。

東京俱楽部での筆者のバンド 「The Kings Trio + One」の最近の出演風景
東京俱楽部での筆者のバンド 「The Kings Trio + One」の最近の出演風景

 昔、友人と都内のジャズ・ライブハウスに飲みに行った。その店がこの東京俱楽部であった。出演中の友人から勧められ、酔っ払った勢いでピアノを弾いた。それを聞いた店長から「出演しませんか?」と言われた。お世辞と思い、酔った勢いで「OK、OK」と答えた。

 数日後、筆者の勤め先に電話があった。部下から「東京俱楽部からお電話です」と取り次がれた。「ゴルフの予約はしていない。間違い電話と答えてくれ」と伝えた。東京俱楽部というゴルフ場からの電話と思ったからだ。しかし相手が電話を切らないため電話口に出た。相手は開口一番、「川勝さん、ご出演、ありがとうございます」であった。仰天した。直ぐに謝罪して丁重に断った。

 「お断りされると困ります。お名前を記載した出演者スケジュールを印刷し、配布しました。プロのベースマンとドラマーがバックアップします。是非出演して下さい」と迫られた。お世辞と思い、酔った勢いで答えたことを後悔した。しかし「約束は約束」と強く主張された。仕方なく、覚悟を決め、恥を忍んで、緊張と冷や汗の中で出演した。ミスの連続であった。

 しかしベースマン、ドラマー、そして女性歌手の温かい応援で何とか最後のステージまで演奏した。これで約束を果たしたと安堵した。しかし全く予想外のことが起こっていた。それは、「筆者を今後も出演させる」と共演者と店長が決めていたことであった。丁重に断った。しかし彼らは「ピアノの技は今後磨いて下さい。あなたの明るい楽しい演奏は、お客さんに受けていました。我々が応援します。是非出演して下さい」と再三口説かれた。

 紆余曲折に末、結局、出演を受諾した。しかしミスの連続で恥のかき通しであった。それ以来、今年で約20年になる。共演者に助けられ、お客に支えられ、気付いたら、筆者のバンドは、東京俱楽部で「最長連続出演プロバンド」になっていた。

●東京俱楽部の事業挑戦
 出演料を貰って、目の前の、目線が直ぐに合う「お客」の前で演奏する「厳しさ」を骨の髄まで経験した。「お客様は神様!共演者は戦友!」の真意も知った。「エンタテイメントとは何か?」も体得することが出来た。

 また筆者の下記の悩みを解決する「ヒント」まで得ることが出来た。更にこのエンタテイメントの現場経験は、「夢工学」の更なる発展に、「悪夢工学」の構築に、そして本稿の「エンタテイメント論」の展開に極めて役立った。何事も恐れず、恥を忍んで挑戦すれば、大きい「ご褒美」を得ることが出来ることも確信した。大きい収穫であった。

 筆者を育てた「東京俱楽部」の宣伝になるかもしれない。許して欲しい。同俱楽部は最近、水道橋店以外に本郷店、目黒店、千駄ヶ谷店と次々に新店舗を開店させた。東京都内のジャズやロックなどのライブハウスが不況の影響で次々と閉鎖する中で驚異的な事業展開である。

東京都内のジャズやロックなどのライブエンタテイメントの店の多くは、経営が厳しい。倒産も増加傾向。その原因は、お客の減少よりも経営の拙さにある様だ。 東京都内のジャズやロックなどのライブエンタテイメントの店の多くは、経営が厳しい。
倒産も増加傾向。その原因は、お客の減少よりも経営の拙さにある様だ。
東京都内のジャズやロックなどのライブエンタテイメントの店の多くは、経営が厳しい。倒産も増加傾向。その原因は、お客の減少よりも経営の拙さにある様だ。

 筆者は、東京俱楽部の某社長に「直営店をこれ以上増やさず、東京俱楽部の名前、運営ノウハウ、演奏者とのネットワークなどを生かし、関東圏から全国へと、フランチャイズ事業展開をしては如何か?」と勧めている。同社長は「直営店が軌道に乗れば、ご相談に乗って下さい」と言われている。

 この種の業態でフランチャイズ事業展開(音楽ライブエンタテイメント+飲食+物販の一体化)をした企業は、筆者の知る限り、無い様だ。もし東京俱楽部が新事業展開を恐れず、挑戦すれば、大きい「ご褒美」を得て、エンタテイメント業界に新潮流を惹き起こすことになるかもしれない。

●Bタイプの人物とは? 悪夢工学とは?
 読者に本稿で以下の「問」を与え、その「答え」を求めた。それは、既述の通り、①どの様な「人物」が平然と平気で人の「夢」を破壊するのか? ②彼らはどの様な「性格」の持ち主なのか? ③どの様にして彼らを「見抜く」か? ④彼らの夢破壊工作をどの様に「排除」するのか? である。

どんな人物が「夢破壊者」になるのか? その人物の「性格」とは? どんな人物が「夢破壊者」になるのか?
その人物の「性格」とは?

 人の「夢」を平然と平気で破壊する人物とは、「Bタイプの人物」であること、その根拠となる「悪夢工学」の存在も読者に示した。しかし肝心のBタイプの人物とは、どの様な「性格」の持ち主か? そもそもBタイプという「性格の評価」はどの様に考え付いたのか? 更に彼等をどの様にして「見抜く」のか? 見抜いたら彼らの破壊工作を如何に「排除」するのか? などについて明らかにしていない。

 しかしそれらを全て本稿で明らかにする紙面の余裕がない。もし興味があれば、それらを記述した以下の本や論文を参考にして欲しい。
筆者の「夢と悪夢の経営戦略(出版:亜細亜大学購買部)」を参照して欲しい(亜細亜大学が直接販売中)
PMシンポジューム2005 「プロジェクト成功の障害を取り除く方法~悪夢工学によるプロジェクトの実現と成功のアプローチ~」

●インタープレーとは? 定義するとは?
 筆者は、ある日、ある時、ジャズの演奏中、「インタープレー」の効用に気付いた。それは、人物の性格分析や評価の方法を考える上でヒントになるかもしれないと云うことである。

 ジャズ音楽をよく聞く読者は、この「インタープレーとは何か?」、「ジャズ音楽とは何か?」、「ジャズ音楽とクラシック音楽は何が違うか?」などについて知りたがっている。しかしジャズ音楽に全く興味のない読者は、全く知らないだろう。そのため紙面が許す範囲でその「問い」に答える。

 先ず「インタープレイ」については後述とさせて欲しい。次にジャズ音楽やクラシック音楽については夫々を「定義」してみたい。理屈っぽくなって申し訳ないが、物事を明確にするためである。

 人類は、男と女を定義し、区別するために約6百万年の年月を必要とした。「定義」するとは何をすることか? この意味を理解している人は、約6百万年の意味が分かるはず。

 さて「定義」するとは、「YESか? NO?で答えられる問いを明らかにすること」である。従ってジャズ音楽とクラシック音楽について様々な「問」があり得る。考えてみて欲しい。

出典:左 クラシック演奏  右 ジャズ演奏 search yahoo.com/search  psychedelicbaby.blogspot
出典:左 クラシック演奏  右 ジャズ演奏
search yahoo.com/search  psychedelicbaby.blogspot

 さて数多くあり得る「問い」の中で、両音楽を特徴付け、明確に区別する決定的な「問い」とは、「演奏中に即興演奏(Improvisation=アドリブ)をするか?」であると思う。Yesと答えた場合は、ジャズ音楽を、NOと答えた場合はクラシック音楽をそれぞれ意味する。

 クラシック音楽の交響曲の演奏などに於いて、そのエンディング(終曲)部分で、無伴奏の独奏の「カデンツア」が演奏される。この部分は、本来、演奏者が自分の思いを込め、自由に、「即興演奏」をすることが許される部分である。昔の演奏者は、「ここぞ!」と即興演奏を競ったと聞く。しかし現代は「即興演奏」はなされず、その部分に書かれた譜面を演奏する演奏者が殆どである。

 一方ジャズ音楽に於いては、テーマ曲の部分の演奏が終わると、次の瞬間から「即興演奏」が始まる。即興演奏こそジャズの神髄である。それが無い音楽はジャズではない。演奏者の思い、自由、アイデアを発揮し、即興演奏という最難問の、しかし最も楽しい「リアルタイムの作曲」が行われる。

 即興演奏の時、ジャズ演奏者は、「インター・プレー(人際演奏=筆者の造語=演奏者間演奏)」を頻繁に行う。ピアニストが○○と即興的に弾けば、ベースマンは即座に反応して△△と弾く。ドラマーも共鳴して□□と叩く。その逆の場合も頻繁に起こる。演奏者は、他の演奏者と同等の立場で、互いに見つめ合い、刺激し合い、理性と感性の機能を働かせ、双方向の意思疎通(コミュニケーション)を行う。これが新しい即興音楽を生む。

 このインタープレーの巧拙は、個々の演奏者の演奏上の技量の巧拙よりも遥かに重要で、演奏の価値を決定付け、聴衆へのアッピール度合を左右する。一方観衆は、即興演奏だけでなく、インタープレーも楽しむ。身近にいる演奏者と観衆は、相互にコミュニケーションを取り合い、共に盛り上がる。その瞬間、「真のエンタテイメント」が実現する。これは、クラシック音楽でも同様のことが言える。

出典:キース・ジャレット トリオと観衆 images.search.yahoo.com
出典:キース・ジャレット トリオと観衆 images.search.yahoo.com

 しかし①この演奏者間のインタープレーの効用を活用しない、②観客とのインタープレーの本質を理解しない、③自己主張に拘り、己の音楽技量や芸術性を誇示し、共演者とのコミュニケーションに欠ける、④観客を軽視、無視する様な人物は、如何に自己主張に正当性があっても、音楽技量に優れていようとも、芸術性があっても、エンタテイナーとして若しくはアーティストとして1流とは評価されないだろう。天才ダビンチも、天才モーツアルトも、天才マイルスも、その時代のインタープレーの対象となる観客、聴衆、フアンの支持無くして存在し得なかったのである。

つづく

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