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リーダーシップの身に付け方

清水 康太郎 [プロフィール] :9月号

 「リーダーとは自分の仕事について壮大なビジョンが描ける人。ビジョンを描けて実行しようと思えばそれは信念にかわる。矢が降ろうとやりが降ろうと何があろうと信念を貫き通す。命さえも落とす覚悟で臨める強い意志をもつ(以下省略)」 これは稲盛和夫氏のコメントである(2012年8月20日日経産業新聞)。
 ビジネスパーソンであれば、「リーダーシップはマネジャーのみに求められるものではなく、様々な人々があらゆる局面で発揮されるべきものである」、「リーダーシップは変化が激しい時代にこそ重要で、組織の上層部ほど、より必要である」など、リーダーシップの特徴について聞く機会が多いのではないだろうか。また、(ビジネスパーソンに限らず)学生は就職活動で自身のリーダーシップ経験について問われたり、政治家はリーダーシップの欠如についてマスメディアに叩かれたりしている。今回はリーダーシップ理論の概略を説明し、リーダーシップの身に付け方について提案する。

1.リーダーシップ理論の概略

 リーダーシップ理論は、(1) リーダーシップ特性理論、(2) リーダーシップ行動理論、(3) リーダーシップ2次元論、(4) リーダーシップ状況適応理論、(5) カリスマ型リーダーシップ理論、(6) 変革型リーダーシップ理論の流れで展開されてきた。変革型リーダーシップについて研究された現在では、リーダーシップの研究は行き詰まっていると言われている。

(1) リーダーシップ特性理論(1940年代以前)
 この理論は、優れたリーダーが共通して持っている才能や資質、性格などを明らかにしようとするもので、リーダーシップはリーダーの特性や資質で決まるという考え方である。リンダール・アーウィックは優れたリーダーに共通する特徴として、①勇気、②意志の力、③心の柔軟性、④知識、⑤誠実、の5つを挙げている※1)。しかし、この理論は応用範囲が狭く、優位性が無いことを指摘された。

(2) リーダーシップ行動理論(1940年代~1960年代)
 この理論は、「リーダーとは作られるものである」という前提のもと、優れたリーダーとそうでないリーダーの行動の違いに着目した考え方である。リーダーシップ類型論とシステム4理論が有名である。

① レヴィンのリーダーシップ類型論
 クルト・レヴィンはアイオワ大学で行った実験により、リーダーシップのタイプを専制型、民主型、放任型の3つに分類した。レヴィンは、生産性向上やメンバー相互の創発などの観点から民主型リーダーシップを推奨した。

レヴィンのリーダーシップ類型論


② リッカートのシステム4理論
 レンシス・リッカートはミシガン大学で行った実証研究により、リーダーシップのスタイルを4つに分類し、下図のシステム4の生産性が最も優れていることを結論づけた。そして、自分のリーダーシップのスタイルをシステム4に変えることが重要であると提唱した。

システム4理論
システム4理論

(3) リーダーシップ2次元論(1960年代)
 2次元論はリーダーシップを人と仕事のマトリクスで表し、単純化モデルとして活用された。有名なものに、三隅二不二が提唱したPM理論がある。PM理論は、リーダーシップを業績達成能力(Performance)と集団維持能力(Maintenance)の2つの能力の大小により、リーダーシップを4つ(PM型、Pm型、pM型、pm型)に分類して評価するものである。他にも、ブレイク&ムートンらによって提唱されたマネジリアルグリッド論というものもある。

PM理論
PM理論

(4) リーダーシップ状況適応論(1960年代後半~1970年代)
 リーダーシップの成功要因は、その時の状況や環境によって変化するという考え方である。有名なものに、フィードラーのリーダーシップ状況適応論とSL理論がある。

① フィードラーのリーダーシップ状況適応論
 フレッド・フィードラーは、リーダーシップの成功要因はその時の状況とパーソナリティによって変化するという状況適応論(コンティンジェンシー理論)を提唱した。

フィードラーの状況適応理論: B = f (S×P)
(B=リーダーの行動、S=状況、P=パーソナリティ)

 さらにフィードラーは、(a) リーダーと部下との信頼関係、② タスク構造、③ リーダーの権限の強さの3つを重視し、リーダーの基本タイプを仕事中心型と人間中心型に分け、それぞれの有効性が発揮される場面を明らかにした。フィードラー・モデルは、状況が良い状態または悪い状態であれば、仕事中心型リーダーシップの方が高い成果をあげられ、状況が中程度であれば、人間中心型リーダーシップの方が高い成果を上げられるということを示している(下図は文献※2)を参考)。

フィードラー・モデル
フィードラー・モデル

② ハーシー&ブランチャートのSL(Situational Leadership)理論
 ポール・ハーシーとケネス・ブランチャートが提唱した理論で、フィードラーのリーダーシップ状況適応論と同様に、リーダーシップは部下の成熟度(状況)により変化させるべきという考え方である。
SL理論
SL理論

(5) カリスマ型リーダーシップ論(1970年代後半~)
 カリスマ論をはじめて唱えたマックス・ヴェーバーは、「一般人とは異なる神業的で、ずば抜けた能力や資質が備わっている人間こそがカリスマ型リーダーである※3)」と定義した。その後、ジェイ・コンガーとラビンドラ・カヌンゴは、カリスマ型リーダーシップに不可欠な、相手に影響を与える行動モデルを提唱した。彼らのモデルによれば、リーダーにカリスマ性が備わるかどうかを決めるのは次の4つの要素である。
戦略ビジョンの提示
(ビジョン達成のため)リーダーは部下の規範となる行動
(ビジョン達成のため)現状の正しい評価
(ビジョン追及のため)部下のモチベーション向上や明瞭な言動

(6) 変革型リーダーシップ論(1980年代~)
 この理論は、市場の環境変化やビジネスの複雑性など不確実な状況下において、成功へと導くためのリーダーの行動に焦点が当てられている。バーナード・バスは、次の4つの行動を発揮することが、変革型リーダーシップを発揮することであると主張している。
個への配慮:フォロワー(リーダーについていく人)に対し、コーチングを行う行動
モチベーションの鼓舞:フォロワーに対し、適切な行動をモデル化する行動
知的刺激:フォロワーに対し、新しい視点から問題を捉えることを促進する行動
理想的な影響力:フォロワーの感情を高ぶらせ、リーダーとの同一化を促進する行動
 また、変革型リーダーシップ論で有名なジョン・コッターは、「リーダーとしての仕事は、ビジョンと戦略をつくりあげ、複雑ではあるが同じベクトルを持つ人脈を背景とした実行力を築き、社員のやる気を引き出すことでビジョンと戦略を遂行することである※4)。」など、リーダーの掲げるビジョンを重視している。

2.リーダーシップの身に付け方

 今日までのリーダーシップの研究経緯をみると、モチベーションの研究経緯※5)と似ている。両方とも研究初期では人間の行動の規則性を解明する行動科学論であり、研究後期には人間の行動はその時の状況や環境によって規定されるという状況適応論へ移行している。変革型リーダーシップ論の研究者の中には、バスの4つの要素(上記(6)記載)があれば状況に関わらず有効であると主張する人もいれば、状況によって適切なリーダーシップは異なると主張する人も存在する。また、社会心理学や行動科学の中では、リーダーシップは子育て同様に掴みどころのない複雑さであると言われている。
 すなわち、リーダーシップというのは、定義や考え方が厳密には統一されていないため、その解釈は人それぞれなのである。それでは、このリーダーシップをどのように身に付けるのが良いか? ここではリーダーシップの定義を「一定の目標を達成するために、複数の人を同じ方向に向かわせること」として話を進める。結論から述べると、筆者の提案は「リーダーシップは、メンター(尊敬できる師匠)から学び、身に付ける」である。その理由について説明する。

 まず、(Ⅰ)リーダーシップというのは、ソフトスキルであり、学んだ知識を実務に応用することが中々難しいという点が挙げられる。エクセルの使い方やプロジェクト計画表の作り方などはハードスキルと呼ばれており、本や研修などから知識を学び、実際に使ってみて、経験値を増やせば身に付く。身に付いたか否かは実務で評価すれば、効果(結果)が分かる。一方、リーダーシップのような人間関係のスキルはソフトスキルと呼ばれている。多くの人は、坂本竜馬の行動に共感したり、ドラッカーなどの著名な経営学者の明言やリーダー像を心に刻んだり、とリーダーシップの事例やリーダーのとるべき行動については本や研修から学ぶことができる。しかし、学んだ知識を実務で使うことができているか? 少なくとも筆者はできていない。人の話を聞かない人が人の話を聞く習慣を身に付けることが難しいように、そこに自分の強い意志や関心が無い場合、または自分の慣習に合わない場合には継続することが難しく、実務に応用できていないのである。

 次に、(Ⅱ)ソフトスキルを身に付ける時には、環境要因に依存するところが大きいという点が挙げられる。教育心理学では、性格や人格の形成は遺伝的な要因が存在するが、環境要因による影響は著しくあると言われている。周囲の環境によって性格が変わるという事例には、スタンフォード監獄実験やアイヒマン実験が有名である。さらに、ワシントン大学の研究では「軍隊での経験は、男性の性格に影響を与えることがある。戦争に行かなくても兵士としての体験は、家庭や職場、友人とうまくやっていくときの潜在的な障害と成り得る※6)」という報告もある。リーダーシップだけでなく交渉力やコミュニケーションなどいくつかのソフトスキルは、テクニックで身に付けられる部分と個人の性格や人格に関わる部分があり、周囲の環境によって依存したり、定義されたりするところが大きいと考えられる。

 上記(Ⅰ) (Ⅱ)より、リーダーシップを身に付けるには、自分が理想とする環境に身を置くことが効率的かつ実践的であると考えている。具体的には、職場の上司や研修講師から学ぶリーダーシップではなく、メンターから学ぶリーダーシップである(もちろん職場の上司や研修講師もメンターに成り得る)。もし、あなたにメンターがいれば、そのメンターの発言や行動はあなたに対し、リーダーシップや影響力など何かしらのソフトスキルを発揮しているだろう。ソフトスキルを本や研修から無機質的に学ぶことと、メンターから体験的に学ぶことでは、その知識が使えるか否か、応用できるか否かの点で大きく異なる。なぜなら、そのメンターはフォロワー(あなた)に対し、(目には見えないけども)ソフトスキルの使い方を見せてくれているのである。さらに、そのメンターからはリーダーシップだけでなく、態度、考え方、生き方など多くのことを学び、身に付けることができるのではないだろうか。
 筆者は人間関係のスキルのような人間の内面的部分を学ぶのであれば、自分が尊敬できるような相手からでなければ難しいと考えている。まずは、メンターがあなたに発揮しているリーダーシップを学び、真似して使ってみることから始めてみるのはいかがだろうか。

【参考文献/参考URL】
※1 )   リンクはこちら
※2 ) ステファン・P・ロビンス著,髙木晴夫訳,「組織行動のマネジメント」ダイヤモンド社 (1997年11月)
※3 ) ジェイ・A・コンガー,ラビンドラ・N・カヌンゴ他著,「カリスマ的リーダーシップ」流通科学大学出版(1999年12月)
※4 ) ジョン・P・コッター著,「リーダーシップ論」ダイヤモンド社 (1999年12月)
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