図書紹介
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「甲子園への遺言」 伝説の打撃コーチ「高畠導宏」の生涯
(門田隆将著、講談社発行、2008年01月28日、13刷、311ページ、1,700円+税)

デニマルさん:4月号

今年1月にNHK土曜ドラマ「フル・スイング」の放映あった。このドラマの元となったのが今回紹介の本である。この本は副題にもある通り、伝説のプロの打撃コーチ「高畠導宏」氏の生涯を綴ったものだ。氏は七つのプロ球団を渡り歩き、落合、イチロー、小久保をはじめ多くの選手を育てた知る人ぞ知る名コーチである。その伝説的なエピソードを高校時代から社会人野球を経てプロ選手となり、怪我でコーチとなった足跡を追っている。コーチ人生の最後に高校教師となり、先生や高校生たちとの出会いもあったが、翌年、60歳で他界された。この本は人の生き方、育て方、育てられ方等々の多くを学べるいい本である。

社会人No.1バッター   ―― プロ野球は代打要員 ――
高畠氏は、高校時代(岡山南高)から怪物バッターとして注目されていたが、甲子園に行くことなく高校を終えた。その後、中央大学から社会人野球(日鉱日立)に入った。その年、打率0.386、本塁打4本、2塁打7本等を打ち、第7回アジア野球選手権大会では、全日本メンバーのクリーンアップを打った。その時、田淵幸一(阪神)、矢沢健一(中日)等のメンバーで優勝を果している。翌年、南海(現ダイエー)に入団したが、練習中に左肩脱臼の怪我をし、以来代打専門要員として余り活躍することもなく選手生活を閉じている。

日本人で最初の戦略コーチ  ―― 教えない打撃コーチ ――
当時、南海の監督は野村克也氏(現、楽天監督)である。野村監督と言えばID(データ重視)野球である。この考えは、南海のフレーザー氏(選手・監督)と野村監督によって確立され、高畠氏が受け継いだと書かれてある。普通コーチは、選手個人に対してアドバイスして打撃や投球を指導するのだが、勝つためのID野球の戦略コーチ(データ収集)も務めた。打撃コーチの高畠氏は、自分の経験から相手の個性を重んじた「教えないで、自分で納得するコーチ法」を採った。その結果、イチローのような世界的選手が誕生している。

高校教師への転身  ―― プロ野球コーチの終着点 ――
高畠氏は、28歳の若さでコーチに就任して、プロ野球界を去るまで30年間、7つの球団で打撃コーチを勤めた。その間に多くの選手にバッティングを教えている。その教え方は、「短所に目をつぶって、長所を伸ばす。それを体に覚え込ませる」と言っている。氏のコーチ人生から、現在の若者に『無限の未来に夢を描く』ことを教えるために、高校教師を目指して勉強を続け、念願の転身を図った。時に59歳である。そこで先のテレビ番組「フル・スウィング」と繋がる。教師2年目で高校野球監督の夢を果たせず、帰らぬ人となった。

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