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「アジャイルのリスク管理」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 8月号

 リスクとは、PMBOK第8版に「発生するかどうかが不確かなイベントまたは状態であり、もし発生した場合には、1つまたは複数のポートフォリオ、プログラム、またはプロジェクト目標にプラスまたはマイナスの影響を与えるものである」と示されている。アジャイルは不安定な環境に適用されるため、安定的な環境に適用されるウォーターフォールよりマイナスのリスク(脅威)が多い。もし、アジャイルのリスクがマイナスだけであれば、プロジェクトを中止する回避が有効である。それにもかかわらず、プロジェクトが推進されているということは、プラスのリスク(好機)の活用への期待があるからである。
 日本における一般的リスク、アジャイルにおける好機の活用とプラスのリスクの最大化とマイナスのリスクの最小化について述べる。

1. 日本における一般的リスク
 日本では一般的にリスクとして、マイナスのリスクが発想され、プラスのリスクは発想され難い。それは、日本が台風、地震、火山などの災害が多い風土と関係している。災害リスクは生命や財産に関わり、発生確率は低いが影響は大きい。リスク対応戦略について、風土による原因を取り除くことはできないため「回避」を採用できない。火災保険・地震保険などの「転嫁」対策が用意された。災害リスクを「受容」するが、災害発生時の非常持ち出し袋を用意し、避難手順を決める「コンティンジェンシー計画」を用意している。「コンティンジェンシー計画」を発動するための「コンティンジェンシートリガーポイント」として警戒レベル5段階を国が設定している。毎年の避難訓練の「軽減」を採用して、災害時の影響を小さくしている。
 また、日本の至る所で数百年前から継続して行われている祭りは、災害時に周囲の人々と協力するための関係を維持するための定期的な楽しく避難訓練の位置づけと考えられる。日本の風土・文化の影響もあり、日本では、リスクとしてマイナスに注目され易い。

2. アジャイルにおける好機の活用
1) リスクへのアジャイルマインドシップ
 安定的な環境では狩野モデル(「アジャイルの品質とAI」参照)の機能追加のような充足すれば満足度が上がり、不充足だと不満が増す「一次元品質」を高め、障害や不具合のような顧客が当然と考える「当たり前品質」を最小にしてきた。しかし、不安定な環境では一次元品質により顧客の価値に対応することが困難になり、顧客が気づいていないが、あると満足度が大きく向上する「魅力品質」が顧客の価値に大きく影響する。
 アジャイルマインドシップでは、変化を「新しい価値」の発見の好機、プラスのリスクとして活用する。これは、アジャイルソフトウェア開発宣言の「原則2:要求の変更はたとえ開発の後期であっても歓迎します。変化を味方につけることによって、お客様の競争力を引き上げます。」に示されている。

2) 要件の優先順位によるリスク対応
 要件を実現する優先順位を定周期で変更できるアジャイルの特性を不確かな状態であるリスクに適用することにより早期に確かな状態として確認または判断する。
 「新しい価値」の発見の好機のプラスのリスクを実用最小限の製品であるMVP(Minimum Viable Product)により実現し、フィードバックを得ることにより不確かな状態から確かな状態となった価値を評価して価値を最大にできる。
 実現性が不確かな状態のマイナスのリスクを直接的な利用者価値を実現するために必要なこと要件(イネーブラー)として実現して確かな状態で評価して必要により技術変更して影響を最小にできる。もし、実現する価値が不十分であればプロジェクト中止により残された時間とコストを新たな価値実現への投資に回せる。

3. プラスのリスクの最大化とマイナスのリスクの最小化
 PMBOK第8版においてプロジェクトは「価値を創出するために、独自のコンテキストにおいて、有期的に実施される施策」と定義された。独自の目標、環境条件、アプローチ、ステークホルダーなどの要素で構成されるプロジェクトにリスクは必ずある。
 これまで日本では、マイナスのリスクに注目し過ぎていなかっただろうか?
 価値を創出するプロジェクトにおいて価値を高める影響を持つプラスのリスクへの注目を高めていく必要がある。PMとして持っているプラスのリスクに関する知識を活用してステークホルダーを巻き込み、プラスのリスクを最大にマイナスのリスクを最小にしていくプロジェクトマネジメントを実践していきましょう。

プラスのリスクの最大化とマイナスのリスクの最小化

PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。
また、PMシンポジウム2026において「B-10 アジャイルをチームから組織へ
~日本の特性を生かす組織アジリティの向上~」
を動画配信します。

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