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「アジャイルのコミュニケーション」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 7月号

 アジャイルは変化を前提にしているため、変更に対してコスト(手間)がかかる文書による形式知より、変更に対して柔軟な対話による暗黙知を尊重している。そのため、対話によるコミュニケーションをする機会を組み込んだしくみを確立している。アジャイルの考え方としくみにおけるコミュニケーションおよび、若手への効果とPMへの活用について述べる。

1. アジャイルマニフェストにおけるコミュニケーション
 アジャイルマニフェスト(アジャイルソフトウェア開発宣言)で提示する4つの価値の最初が「プロセスやツールより個人との対話を」である。プロセスやツールはPC画面に向き合うことが多いので、活動する人の視野を焦点として、私は、「PC画面より対面で対話を」と意訳している。
 また、アジャイルマニフェストの背後にある12の原則のうち2つがコミュニケーションについての原則であり、以下に示す。
  • 原則6 : コミュニケーションは直接対話で!
     アジャイルが適用される不確実性が高い環境では、目的、希望、心配ごとなど、正確な表現が難しい情報のコミュニケーションで誤解が起き易い。対面での対話によりお互いの意図を理解し易くなり、誤解が起きても、対話で気づくことができる。メラビアンの法則によると直接対話でのコミュニケーションを100%とすると文書では7%しか伝わらない。直接対話が、文書のメッセージの内容以外に、口調、間、視線、表情、態度など様々な要素により伝えることができ、さらに、図や表を手書きによる説明も容易なためである。
  • 原則7 : 進捗も品質も現物で!
     安定した環境においても設計書で合意した仕様を実現してみると仕様誤解が発覚することがある。アジャイルが適用される不確実性が高い環境では、誤解が生じる可能性が高くなり、計画変更も増加する。従って、進捗と品質は計画通り進んでいるかではなく、求められている価値をどれだけ実現できて市場にリリースできる程度の品質を満たしているかを判断することである。そのためには実際に使って多様な視点で評価することが重要になる。
 上記の価値と原則は変化に対しての対応力が高いソフトウェア開発から適用され始めたが、全ての業種・業務の不確実性が高いプロジェクトで適用できる。

2. スクラムにおけるコミュニケーションの好機
 アジャイルの代表的手法のスクラムではコミュニケーションしなければならないイベントを定義している。4つのイベントにおける対話について示す。
  1. 1) スプリントプランニング
     1~3週間で固定したスプリント(以降、2週間として説明する)でどの要求を実現するかを決めたスプリントゴールとスプリントの2週間で実施すべきタスクと工数を見積もる。この時点では誰がどのタスクを実現するかわからないので、全員が全タスクを見積り合意するためにプランニングポーカーを適用する。1つのタスクについて全員が見積り、該当する工数のカードを一斉に出す。一番少ない工数と一番多い工数の人がその理由を説明する。その後、再度見積もり一斉にカードを出し、全員が同一になるまで繰り返す。全てのタスクについて行うので、自分の見積り根拠を説明する機会がある。
  2. 2) デイリースクラム
     全員が①前回以降完了したタスク、②次回までに着手するタスク(この時点でタスクの担当が決まる)、③困っていることを毎朝発信する。不確実な環境なので、困っていることは必ずあるはずである。困ったことを発言しなければならない機会を毎朝に設定している。
  3. 3) スプリントレビュー
     完成した要求の成果物を利用者に触ってもらい、フィードバックを得る。自分の理解を説明して検証できる好機を設定している。
  4. 4) スプリントレトロスペクティブ(ふりかえり)
     2週間のスプリントの行動でKeep(継続したいこと)、Problem(後悔していること)、Try(次回までに実施したいこと)を全員が一つずつ順番に宣言していく。チームを成長させる好機を全員が発信して検討する機会を設定している。

スクラムにおけるコミュニケーションの好機

 また、アジャイルのもう1つの代表的手法のXPのペアプログラミングでは、1人がもう一人に作業を説明しながらキーボードで作業する。これは、秒単位のレビューであると同時にスキルの継承の好機である。

3. 若手への効果とPMへの活用
 ウォーターフォールを経験してアジャイルを始めた多くの若手が元気になる。その理由を尋ねると「たくさん会話ができるから」と答える。「え、ウォーターフォールでもたくさん会話できるでしょう」と尋ねると、「できませんよ。皆さん、お忙しそうでお声を掛けることができませんでした。1週間に1度のミーティングも予定どおりならそれで終わりでした。レビューでは指摘のみでした。効率的な最小限の会話でした。」と答える。
 「会話できると楽しい?」と尋ねると、「楽しいです。面白いです。」と答える。おそらく、会話により若手の承認欲求が満たされるのだろう。マザーテレサは、「愛の反対は憎しみではなく無関心です」と言い、いじめ問題で「シカト」と呼ばれた無視が指摘される。効率を追求して形式知の文書を尊重することも有効であるが、不確実性が高いプロジェクトでは対話による暗黙知とその対話により醸成されるメンバーのモチベーションに注目することも重要である。
 私のPMの師匠であるジョン・パットン氏(ケイデンスマネジメント社創立者)は、研修や講習の最後に必ず「人と人を最短距離にするツールはスマイルである」と言っていた。怒った表情のPMに小さな気づきを語ってくれる人は少ない。PMは「スマイル」により様々な人との距離を最短にして小さな気づきを語ってもらえるようにすることがリスク認識に有効であるためである。アジャイルに組み込まれている、小さな気づきを対話できるコミュニケーションをPMとして活用してください。

PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。
また、PMシンポジウム2026において「B-10 アジャイルをチームから組織へ
~日本の特性を生かす組織アジリティの向上~」
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