PMプロの知恵コーナー
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PMBOK第8版がもたらすテーラリングの新時代

竹腰 重徳 [プロフィール] :8月号

1.はじめに
 近年のビジネス環境は、かつてないほど変化が激しくなり、プロジェクト開始時に、作成した計画が、数か月後には通用しなくなるような時代になりました。市場環境の変化だけでなく、生成AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化によって、プロジェクトの前提条件そのものが実行中に変わることも珍しくありません。このような時代において、あらかじめ決められた標準プロセスを忠実に実行するだけでは、必ずしもプロジェクトの成功を保証できなくなっています。むしろ重要なのは、変化する状況に応じて最適な進め方を柔軟に設計し続けることです。PMIが2025年に発行したPMBOK第8版は、プロジェクトの重心を「標準プロセスの適用」から「価値創出のための設計」へと移したとも言えるでしょう。こうした時代背景を色濃く反映しています。その中心的なテーマの一つが「テーラリング(Tailoring)」です。PMBOK第7版でもテーラリングは重要な考え方として位置付けられていました。しかし第8版では、その意味合いが大きく変化しています。テーラリングは単なるプロセス調整ではなく、プロジェクトの成功を左右する設計活動そのものとして扱われるようになったのです。

2.テーラリングは「プロジェクト設計」へ進化した
 PMBOK第7版では、テーラリングは12の原則の一つとして位置付けられていました。プロジェクトの状況に応じて手法やプロセスを調整するという、いわばPMの心構えとして扱われていたと言えます。しかし、第8版ではその位置付けが大きく変化しています。第8版ではテーラリングのために独立した章が設けられ、具体的な実践方法が詳しく解説されています。これはPMIが、テーラリングを単なる補助的な活動ではなく、プロジェクト成功の中核となる活動と捉えていることを示しています。テーラリングとは、プロジェクトの目的、成果物、関係者、組織環境、不確実性、複雑性などを踏まえながら、開発アプローチ、ライフサイクル、プロセス、ツール、技法を選択・調整する活動です。重要なのは、「標準をどう適用するか」ではなく、「プロジェクトに最適な進め方をどう設計するか」という発想です。

3.テーラリングを成功させる「4つのステップ」
 テーラリングは経験や勘だけで行うものではありません。第8版では、プロジェクトの状況を体系的に分析し、最適な運営方法を設計するための実践的なプロセスとして整理されています。そのために示されているのが、次の4つのステップです。
  1. ① 初期アプローチの選択-予測型、適応型、ハイブリッド型
    プロジェクトの特性(不確実性の高さ、技術の習熟度、要件の明確さなど)を分析し、予測型(ウォーターフォール)、適応型(アジャイル)、あるいはそれらを組み合わせたハイブリッド型のどれをベースにするかを決めます。
  2. ② 組織向けのテーラリング-標準との整合
    自社のPMOなどが定めている標準ルールやガバナンスとプロジェクトの特性を調和させます。組織のコンプライアンスを守りつつも、プロジェクトのスピードを殺さない絶妙な境界線を見極めます。
  3. ③ プロジェクト向けのテーラリング-状況に合わせ設計
    製品あるいは成果物の特性、プロジェクトチームのスキルや場所などの状況、組織文化に合わせて、プロセス、開発アプローチ、ライフサイクル、ツールおよび技法を選択・調整します。
  4. ④ 継続的な改善-環境変化に合わせて見直す
    第8版で特に強調されているのが、テーラリングは一度決めたら終わりではないという点です。プロジェクトを取り巻く環境は常に変化します。新たなリスクの発生、顧客要求の変化、チーム構成の変更、生成AIなど新技術の登場によって、当初最適だった方法が最適でなくなることもあります。そのためPMは、定期的に現在の進め方を見直し、必要に応じてプロセスや運営方法を再設計しなければなりません。テーラリングとは、プロジェクト開始時の活動ではなく、価値創出のために継続的に行うマネジメント活動なのです。

4.おわりに
 第8版におけるテーラリングで強調されていることは、プロジェクトマネジメントが「手続きの管理」から「価値創造の設計」へと進化していることを示しています。第7版ではテーラリングは原則の一つとして示されていましたが、第8版ではプロジェクト全体を設計するための実践的な活動として体系化されました。さらに、その活動を継続的に見直し改善することの重要性も強調されています。不確実性が高く変化の激しい現代において、過去の成功パターンや組織の標準プロセスだけに依存することは困難になっています。PMには、状況を正しく診断し、その時々で最適な方法を選択し続ける能力が求められます。第8版が私たちに伝えているメッセージは明確です。PMは「標準を守る管理者」ではなく、「価値を創造する設計者」でなければならない。そしてテーラリングとは、単なるプロセスの調整技術ではありません。プロジェクトの目的と価値を見失わず、その実現に向けて最適な方法を考え続けるプロジェクト設計者です。これからのPMに求められるのは、決められた型を守る能力ではなく、変化する状況の中で価値創出に最適な型を創り続ける能力なのです。

参考文献
1. PMI、PMBOK-V7、PMI 2021
2. PMI、PMBOK-V8、PMI 2025
3. PMI、Artificial Intelligence in Project management、PMI

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