組織アジリティSIGコーナー
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「アジャイルの予算管理」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 6月号

「アジャイルは総額がわからないから日本には向かない」と言われることがある。これは、コストと期間を固定にして要件を可変にするアジャイルの基本と矛盾する。また、日本を理由にしてアジャイルを除外するのではなく、プロジェクトの特徴を分析して開発アプローチを選択することがPMに求められている。アジャイルの見積りと日本での入札案件で実践したアジャイルの予算管理について紹介し、AIなど激しい変化と仕組みの制約を両立させた成功への工夫について述べる。

1. アジャイルの見積り
 PMAJ編の書籍「アジャイル開発への道案内」で提示している通り、ウォーターフォールが要件を固定としてコストと期間を見積ることに対して、アジャイルはコストと期間を固定に要件を可変にする。企業の戦略に基づく価値への投資からコスト(総額)が設定され、価値のビジネス環境・市場への有効性から期間(納期)が設定される。
 PMBOKに記載のとおり、アジャイルは、要求事項の不確かさと変動性が高く、プロジェクト期間を通じて要求事項が変わる可能性が高い時に役立つ。不確かさと変動性が高い要求事項に対して、ウォーターフォールのように事前に大部分を計画してしまうと、大きな手直しが発生する可能性が高い。アジャイルでは、段階的詳細化を使って計画を練り直し続けるローリングウェーブ計画法を適用する。
 事前に大まかに要求事項を捉えるため、ウォーターフォールのように時間工数による絶対値の見積りではなく、要求事項(ユーザーストーリーとイネーブラー)に対して相対見積りを行う。相対見積りとは、まず、確度が高く、小規模の要求事項を2として基準とする。次に、各要求事項を見積り、この値をストーリーポイントと呼ぶ。最後に、要求事項と見積もったストーリーポイントを優先順位順に要求一覧(プロダクトバックログ)に並べる。
 段階的詳細化にクラムのスプリントプランニングを適用する。まず、優先順位付けされた要求一覧からチームの要求消化速度(ベロシティ)のストーリーポイント数に基づき、固定の期間であるスプリント(例:2週間)終了時にリリースする要求をスプリントゴールとして設定する。次に、スプリントゴールを実現するためのタスク(WBS)を設定する。そして、各タスクのコストを時間工数で見積る。最後にチームで計画を合意し、日々の朝会(デイリースクラム)でメンバーにタスクを割り当て実行する。
 要求事項のストーリーポイントとタスクの時間工数を見積もる時、プランイングポーカーを適用する。重複しない数字の書いたカードを用意する。全員が1つ要求事項またはタスクについて見積り、該当するカードを一斉に提示する。一番低い数字と一番高い数字を出した人が理由を説明する。この説明で、誤解や提案を発見でき、メンバーが個別に持つスキルやノウハウをチームで活用できる。再度、全員が説明を参考に見積り、該当するカードを一斉に提示する。2~3回繰り返して見積りを決定する。

2. アジャイルの予算管理
 要求事項の不確かさと変動性が高いが、概ね全体規模がわかり、予算を策定できる入札可能なプロジェクトがある。要求事項の不確かさと変動性が高く、プロジェクト期間を通じて要求事項が変わる可能性が高いので、アジャイルを選択した場合について紹介する。
 まず、従来と同等に機能見積りを行い、完成時の全体規模と予算を割り当てる。
 次に、各要求が実現する機能見積りの部分をできる範囲で設定する。(ローリングウェーブ計画法の適用が可能である)
 そして、スプリントゴールにより達成した要求分の能見積り分を減算して、機能毎の残予算を把握する。
 これにより、要求の価値だけでなく、予算残を考慮した優先順位付けが可能となり、予算での期待値と新たな価値の発見を両立させた予算管理を実現できる。

アジャイルの予算管理

 もし、予算の期待値以上の価値の可能性(プラスのリスク)を発見できた場合、スポンサーにエスカレーションしてマネジメント予備から新たな予算を変更管理プロセスにより得ることも早期に可能となる。

3. 成功のための工夫
 PMBOKで開発アプローチとして予測型(ウォーターフォール)に加えて、適応型(アジャイル)とハイブリッドが採用されたのは、プロジェクトが持つ独自性に対して万能な開発アプローチが存在しないことを示している。逆に、これは、予測型、適応型、ハイブリッドの特徴を理解してプロジェクトの独自性を分析することによりプロジェクトを成功させるための工夫はたくさんあることと、リーン・アジャイル・マインドセット(考え方)の継続的改善をPMとしての工夫を適用できる好機が存在することを示唆している。AIなどの進化が激化していく環境におけるプロジェクトの成功を期待されるPMとして、「今日が最悪」(明日を今日より良くする」)「60点でよい」(まず、始める)など日本で実践されてきた知恵を活用していくことが期待されている。

PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。
また、大手SIerの多くの経営層が「アジャイルはビジネスの問題」と気づいたPMAJ編の書籍「アジャイル開発への道案内」研修を6月5日に開催予定です。ご参加を検討ください。

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