PMプロの知恵コーナー
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PMBOK第8版からプロジェクトマネジャーは何を学ぶのか
―AI時代における「あり方」への転換と価値創造―

竹腰 重徳 [プロフィール] :6月号

 近年、プロジェクトを取り巻く環境は急速に変化しています。不確実性の高まりに加え、生成AIの進展により、業務の進め方そのものが大きく変わりつつあります。計画作成や情報整理、進捗管理といった従来プロジェクトマネジャー(PM)が担ってきた業務の一部は、AIによって効率化・自動化されるようになりました。このような時代において、PMに求められる役割は何か。この問いに対する一つの方向性を示しているのがPMBOK第8版であると考えられます。

 従来のPMBOKでは、プロセスや手法が中心に据えられていました。PMは、計画、実行、監視、コントロールを適切に進める「管理者」としての役割が強調されていました。しかし第8版では、その前提が大きく見直されています。まず「マインドセット(心構え)」が提示され、その下に原則や実務が位置づけられています。これは、プロジェクトマネジメントの本質が「やり方(How)」ではなく、「どう考え、どう判断するか」という「あり方」にあることを示しています。特にAI時代においては、この転換の意味はさらに重要になります。AIは「正解らしいもの」を高速に提示することは得意ですが、「何が本当に価値なのか」を判断することは人間に委ねられています。したがって、PMには、単に手順を実行する能力ではなく、価値に基づいて意思決定を行う力が求められるのです。

 PMBOK第8版では、マインドセットは三つの側面から構成されています。それが「プロアクティブ(先見性)」「オーナーシップ(当事者意識)」「バリュー・ドリブン(価値駆動)」です。

 まず「先見性」は、将来を見据えて先に行動する姿勢です。AIは過去データに基づく予測を行うことはできますが、不確実な未来に対して意味づけを行い、判断するのは人間の役割です。PMは、AIの示す情報を参考にしながらも、全体最適の視点で状況を捉え、先を見据えた意思決定を行う必要があります。また、品質を後から確認するのではなく、最初から設計に組み込むという考え方も、AIとの協働において重要になります。

 次に「当事者意識」は、責任あるリーダーシップと自律的なチームづくりを意味します。AIが意思決定を支援する場面が増えるほど、「最終的に誰が責任を持つのか」という問いはより重要になります。PMは、自らの判断に責任を持ち、その背景を説明できることが求められます。また、AIを活用しながらも、チームメンバーが主体的に考え行動できる環境を整えることが重要です。人とAIが協働する時代においては、信頼と自律性に基づくチームづくりが、これまで以上に重要になると考えられます。

 そして「価値駆動」は、成果物ではなく価値に焦点を当てる考え方です。AIは効率性を高めることには優れていますが、その成果が本当に意味のある価値につながっているかどうかは、人間が判断しなければなりません。プロジェクトが組織の戦略や社会にどのような価値をもたらすのかを問い続けることが、PMの重要な役割となります。また、環境や社会への影響といった持続可能性の視点も、AI時代においてますます重要性を増しています。

 これら三つのマインドセットに共通しているのは、「判断の質」を高めることにあります。従来は「正しい手順に従うこと」が重視されていましたが、AI時代においては「その状況で最も価値ある判断は何か」を考える力が不可欠となります。AIが提供する情報を活用しつつも、最終的な意思決定は人間が担う。この役割こそが、これからのPMに求められる本質であるといえるでしょう。

 PMBOK第8版が示しているのは、スキルや手法を超えた「思考のあり方」の重要性です。AIが進化するほど、人間に求められるのは判断力と価値観です。PMは、AIを活用しながらも、その上位に立ち、価値を創造する存在である必要があります。これらのマインドセットで日々の実務の中で実践することが、プロジェクトの成功だけでなく、自身の成長、さらには組織の持続的発展につながっていくのではないでしょうか。

参考文献
(1) PMI、PMBOK-V8、PMI、2025

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