PMプロの知恵コーナー
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PMプロフェッショナルへの歩み―18

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

スリランカに正式に赴任する前に一週間ほど時間をもらいこの国に関する本を買い、その歴史や現在問題になっている現状などを調べてみました。
 その結果、1955年頃バンダラ内閣がシンハラ語を公用語にし、シンハラ族中心のシンハラオンリー政策をとり、もう一方のタミリ族を中心とした人達にはこの政策が彼らにとってはあらゆる面で不都合が生じ、結果的に彼らの生活圏が奪われることになり、これが原因でタミル・イーラム(LTTE)といった反政府組織ができシンハラ族との争いが始まり内戦となり、いまだにその状況が続いていることがわかりました。
 前回のスリランカ出張の際、空港での厳しい税関検査、空港内及び道路沿いでの多くの兵隊そして会社入場時での車の車体下部の検査等々の厳しい事情に納得しました。
 なお、シンハラ族もタミル族もそれぞれの言語を持つが、政府内及びビジネス界では植民地時代に統治者であったイギリス人の英語が共通言語であり、多くのスリランカ人にも英語が通じることで少し安心しました。
 このような背景を持った国への赴任は筆者のこれまでのプロジェクト経験で初めてであり、その上、業務範囲も本社及び各電話局をも含む総務、人事、法務、調達、労務管理、設備管理といったこれまで経験したことのないものでした。そして、生活空間として与えられた場所はスリランカのジャイクヒルトンという30階建てのヒルトンホテルグループの系列ホテルであり、施設(プール、スカッシュ、飲食店、娯楽施設)もかなり豪華なもので、筆者の部屋は25階の200㎡程度で女中部屋も併設しているといったものでした。
 翌日に車が迎えに来て早速CEOと会長に着任挨拶を行い、その後、筆者にあてがわれた事務所に案内されました。ここでもまたびっくり、秘書が男女2人で隣の部屋にはセキュリティーオフィサーが控えていて、以前のインドネシアプロジェクトでの筆者の本部長室より広く、びっくりしました。
 このような環境下で早速仕事を始めることになったのですが、まずは現状の仕事の内容について前職の役員が「何をどのようにしていたのか?」と思料し、秘書の2人からのヒアリングから始めました。
 その結果は、各部門及び電話局からくる書類のチェックと承認そしてCEO への報告が主なものであり、その書類も各関連部門から毎日数多く、種類も多く、すべてを処理するのは大変ということで、内容の吟味だけに絞り、重要でないものは秘書任せでサインするだけだったそうです。
 何はともあれ、筆者は全社員の関係部門の許認可の責任者であり、契約社員含めて1万人もいるのでその処理数は膨大なものになります。それでも、朝から夕方まで各部門から各種報告や依頼事項が次々と来るのでその処理で一日が過ぎてしまうような状態でした。その書類作業もこれまで通りほとんど秘書任せにして重要な書類だけ自分の目で見てサインをするようにし、優先事項として、この会社の現状調査を自分の目で見るための時間をとるようにしました。
 2~3か月程して業務の処理に慣れた頃、社内及び各電話局を回り、直接社員の現状を目で見て、そして各部門及び局の従業員の意見も聞いたりしてみました。その結果、第一回目のスリランカ出張時に日本人職員から聞いた話よりさらに詳細がわかってきました。
 この企業はまだ公社体質が残っていて、前職の努力にもかかわらず多くの課題を残しているようでした。
 尚、前回でのヒアリングの話と後でわかったことを含めて再掲すると:
  • CEOはじめ担当役員や管理職と労働組合及び現地社員との確執があり、そのため業務に支障が生じて、必要な業務活動が順調に進んでいない。
  • スリランカ国の労働者保護に重点を置いた労働関係規約や法規が問題となっている。そのため民間企業になってからも社内規約がなく、また人事についても不平等なシステムとなっている。
  • 組合の数が管理職組合も含め職種、各階層等33組合もあり収拾がつかないでいる。従業員数:約9000人の企業(契約職員を入れて10,000人以上)で事業所も全国にある。しかし、従業員の行動規範を示した規約が不明確である。例えば遅刻、就業開始時間になっても食堂で食事をしているのが習慣的になっている。要するに時間を守らない。
  • 調達業務での不正や資材・機材の横流し等が多数発生しているが日本人側は誰も監視及び管理をしていない。
 このような状況を放置したままでは「状況の改善を図ることが無理となる」と感じ自分ができることは何か?を考え行動しなければ民営化の意味もないことから、これまで得てきたプロジェクトマネジメント知識と経験を何とか応用できないか考えました。
 まず、プロジェクトマネジメントの 課題解決手法の一つである「物事の解決や発想にて構想する思考方法」をとりいれてみました、
 以前エンジ会社で学習したケプナートリゴ法という思考方法を利用してみると:
  1. ① 状況観察
    観察、情報から何とかしなければ、気になっていること、などの直面する状況からニーズの取り込みをする。
  • 日常、見聞きしたりまたは感じたりすること
  • 違う環境や分野の要求に関する情報の収集
  • 世の中で起きている事象で文化的・歴史的観点からの情報
  1. ② 状況分析
    観観察や情報から何とかしなければ、気になっていること、などの直面する状況からニーズの取り込みをする
 このような前提で会社及び各電話局を回り、従業員の意見をランダムに聞いたりしてこの会社の全体雰囲気をつかむことにしました。そして、その結果を以下のような手順に従ってまとめてみました。

  1. 事実前提から見る。
     スリランカ国はいまだ内戦中であり、財務事情も悪く公営事業の民営化や各国からの投資事業に力を入れているが多くの場合、労働運動が激しくなり、その運営に支障が生じ、中には撤退を考えている会社も出始めてきている。
  2. 観察事項としてはすでにヒアリングで下記のような状況
  • CEOはじめ前担当役員が労働組合からつるし上げにあっていた、そして業務に支障が生じている。
  • 労働関係法規が労働者保護に重点を置いたものになっている。
  • 組合の数が管理職組合も含め職種、各階層等33組合もある。
  • 従業員の行動規範を示すものがなく、遅刻、就業開始時間になっても食堂で食事、挙句は調達業務での不正や資材・機材の横流し等々の問題が発生している。
  • 人事の評価基準での不満(特に管理職への昇格基準)
  1. 状況分析をしてみた
  • この国の労働法の内容を知る必要がある。法務担当との検討が必要と考えた。
  • この国は長い内戦の状態であり、この国の人達はいつも緊張した状態にある。
  • 組合との団体交渉がスムーズにいかないケースが多く、場合によってはストライキが起きて会社役員が雪隠詰めになることもあった。
  • 従業員の規範を遵守する対策のためのきめ細かい就業規則の作成及びITを活用した入出管理の必要性がある。
  • 不正行為の発見と検討を行う懲罰委員会の設置の必要性を考えた。
  • 技術系及び財務系大学出身者以外の管理職への道の途絶が制度化されている。
  1. 状況から見ての課題定義
  • 以前の労務担当役員が従業員及び労働組合に対して日本の習慣や対応の仕方を押し付けたのではないか?
  • 日本の習慣の押し付けがかえって従業員の反発を買っているのでは?
  • 管理職組合があるので事業運営の重要事項もこの組合を通して他の組合や従業員にすぐに伝わって組合との協議はいつも不調で終わっている。
  • 日本人役員の信頼が崩れ、以前より従業員の勝手な振る舞いが増えた。
  • 懲罰委員会、厳しい就業規則、人事制度(特に管理職への昇格)、ITによる厳格な管理はさらに問題を大きくすることになる。
  • 問題の本質は「日本人役員や管理者に対する不信感とこの国の内戦状態からの閉塞感」にある。
  1. 課題解決への対策
  • 日本側の役員、管理職、職員に対する不信感の払拭及び信頼感の回復
  • 不正な業務の識別対応のためのCEO 及び新CAOを中心とした組織(懲罰委員会)の創設
  • 人事制度の改変(学卒及びその卒業学科別による管理職昇格問題の差別改変)
  • 緩んでいる従業員の規範整備のための就業規則の改変と厳罰化
  • 労働組合対策(団体交渉)を落ち着いた状況にするための準備と冷静な対応のできる雰囲気作りの確立)
 上記の問題解決に際しての実行委員会をCAOの責任で実行することで個別に対応するということでCEOの承諾を得て活動することになった。

 来月号はこの活動の内容と結果について話を進めます。

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