PMプロの知恵コーナー
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PMプロフェッショナルへの歩みー6

向後 忠明 [プロフィール] :5月号

 WBS手法やEM法に基づく問題解決をこれまで海外プロジェクトを中心に実践利用してきました。その対象プロジェクトは規模及び特性によって中身も千差万別であったが十分その効果を発揮することができました。そして、これらのプロジェクトを通してプロジェクト全体の流れとそこに発生する問題等の予測もできるようになってきました。このようにいくつかのプロジェクト実践を通してWBS手法の実践やEM法に基づく問題解決法を習得してきましたがさらに本格的なビッグプロジェクトでこれまで習得した知識を利用する機会がやってきました。

 このプロジェクの顧客は日本であり設備建設場所は海外といったもので顧客にとっては初めての海外進出で社運を賭けたプロジェクトです。あまりにも規模が大きく、それもこれまでの石油精製プラントではなくエチレン製造といったさらに高度な技術を必要とする製造設備であり、金額も数千億円に近いものでした。

 筆者にとっては初めての巨大プロジェクトです。その上、本島から離れたインフラ設備の全くない陸の孤島(本島から2kmほどの距離のある島)に設備を建設するプロジェクトであり、会社としても筆者にとっても初めての経験でした。

 本プロジェクトは、大きく見ると製造設備(エチレンプラント)とそれをサポートする各種付帯設備から構成されるものでした。このエチレン製造プラントの建設では国内においては顧客も当社も多くの経験を持っているので本プロジェクト実施にはあまり問題ないように考えていました。しかし、このプロジェクトへの参加依頼を受けたときはこのプロジェクトの大きさもそうですが本島から2Kmも離れた何もない孤島にこのような近代的な設備やシステムを建設するにはどのようにするのか、筆者としても何から手を付けて良いか迷うばかりでした。本件は会社としても規模の大きさからトップマネジメントの案件として考えられ、また顧客はこのプロジェクトをエチレン製造設備(オンサイトPJ)とそれを支える付帯設備(オフサイトPJ)の2つのプロジェクトに分けて発注することで考えていたようです。
 特にこのプロジェクトの契約要件も上記の2種類に分かれオンサイト設備は顧客要件や条件は明確になっているが、それをサポートするオフサイトの顧客要件や条件は全く不明の状態でした。
 そのため、受注活動においては、顧客要件や条件が明確であるオンサイトはこれまで通りの一括請負条件による競争入札となり、顧客要件が不明確であるオフサイトについては、インフラの全くない無い孤島での設備建設、そして海外での活動を考えると、顧客要求の一括請負(ランプサム契約)には各社もしりごみの状態であったようです。
 このようなオフサイトプロジェクトについては先に学んだEM 法の手法を使うことでその課題解決に全力を尽くすことにしました。すなわち、現地調査や本プロジェクトでの懸念事項調査そして顧客との合意形成による基本設計等々が決まるまでを実費精算契約とし、基本事項が固まり次第、ランプサム契約とする提案をしました。
 そのため、顧客との合意形成までは実費精算での契約で、このプロジェクト完成までいくらかかるのか不明であるが、顧客側も予算をきめる必要もあることから、会社もこれまでの実績から最大XX億円になると提案し、これをシーリングプライスと称し、どのような事態になってもこれを越えないとの約束の上契約することになりました。
 もちろん、競合他社にも顧客は同じことを要求したと思いますがわが社の単金とシーリングプライスが妥当な金額だったためか、それが受注に結び付きました。ここで初めて5年前に研修を受けて学んだ課題解決型アプローチ知識が役に立つことになりました。
 上記に示した実費精算+ランプサムwithシーリングプライス方式といったアプローチ手法は顧客要求が不明確のプロジェクトの場合には今後も大いに利用できると思いました。なぜなら、この方法は顧客にとっても請負側にとってもWin-Winの関係で契約が可能となると思うからです。もちろん、シーリングプライスと契約条件(特にスコープ)は状況によって変えられるようにすることも可能です。このプロジェクトでのこの種の契約方法はこれまでの筆者の経験ではなかったので将来のプロジェクトの契約知識の一端となりました。
 一方、このプロジェクトの特徴は許認可を与える当事国(S国)にとっても初めてのものであり、これまでの国内でのプロジェクトではあまり経験のない、各種許認可条件についての不慣れな問題も多く発生しました。S国も危険物や各種設備建設にかかわる許認可の条文改定なども必要となると言われていました。
 ここまでが本プロジェクトの前置きの話であるが、筆者の担当であるオフサイトを中心に話をしていきます。

 オフサイトの業務範囲は原料及び製品貯槽群、桟橋や原料受入れ設備、道路・交通信号設備、排水、設備冷却用海水取水設備、ボイラー及び給水設備、海底ケーブルや受電設備、各オンサイトへの冷却海水・水・原料供給設備、製品出荷設備、建屋(事務所、食堂、社員寮及び必要備品)、消防署や消防施設及び生活関連設備(排水、下水等)、電気通信等々、オンサイト設備が稼働するに必要な各種設備のことです。

 筆者にとってはこれまでのプラント建設においては上記設備の設計、経験はあるがほとんどのケースは既設プラントエリアへの製造設備の増設であり、このような設備を新たに陸の孤島に建設することは初めての経験であり、このような各種設備の組み合わせによって生ずるオンサイトとのインターフェース調整を含め、これらを統合的にマネ―ジメントするにはスコープの見える化が必要となります。そこで有効なのがすでに前月号でも説明のWBS手法です。ここでも昔取った杵柄ではないですが多いにこの手法が役立つことになりました。このような顧客要求や条件が不明確で巨大でかつ複雑なプロジェクトクトへの初期段階における契約やそれに伴うプロジェクト遂行上の知識の多くをこのプロジェクトを通して学ぶことができました。この知識はその後のプロジェクトの実践でも多いに役立つことになりました。すなわち:

 「PMプロフェショナルとしての条件:
 PMプロフェショナルの役割は幅広く、国内及び海外の双方のプロジェクトを与えられたミッションの基本構想からプロファイルによりそこにある問題を発見、そしてその解決策を整理し、企画書またはマスタープランに落とし込み、そこに示された計画や目標を最後までプロジェクトマネジメント手法により達成するといったプロジェクト推進力を併せ持つ人材と考えました。」


 この大きなプロジェクトを無事終了したこの時点で、筆者が上記に示すようなPMプロフェショナルとしての条件はすべてクリア―したと自分自身勝手に思っていました。しかし、それからいくつかの海外におけるプロジェクトをPMとして従事し、数年たってからですがこの過信を挫くような出来事が発生しました。

 それは、これまでの石油化学関連プラント事業の業績に陰りが出てきたため新たなビジネス分野への模索とそれに向かっての機構改革が取りざたされるようになったことです。すなわち、この当時は自社に限らず、あらゆる業界、そして組織に変革を求める機運が求められようになり、新しい環境に立ち向かう必要があると会社経営陣にも求められるようになってきました。

今月は以上です

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