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「エンタテイメント論」(198)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論


第 2 部 エンタテイメント論の本質

7 本質
●筆者から去って行った人々
 筆者は「柔らかい仕事」をしていた時だけでなく、「固い仕事」をしていた時も、見下され、蔑視された。「その時」とは、筆者が新日本製鐵(株)を退職し、(株)セガ・エンタープライゼス(現在のセガ社)に転籍した時であった。筆者と親しく付き合ってきた商社マン、銀行マンなどは、筆者が新日鐡を「首」になり、「不良の溜まり場のゲームセンター」を運営するセガ社で働き出したと噂した。

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 しかし筆者は「首」になった訳ではない。米国系の某ヘッドハンター会社からヘッドハントされ、セガ社に於いて新日鐡で達成できなかった事、やりたかった事がやれると分り、新日鐡を離れる事にした。定年の遥か以前に、無理を言って取締役を辞めさせて貰い、セガ社に転籍したのである。

 この噂は瞬く間にアチコチに広まり、噂を聞いた彼等は「手の平を返す」様に筆者の前から次々と姿を消した。エンタテインメントを見下し、蔑視する彼等の本心、本音が分った。

 セガ社に転籍した筆者は、新しい仕事と新しい人生をスタートさせた。同社の中山社長はセガに今迄に無い新しいタイプの「セガ式テーマパーク」を作って欲しいと筆者に要請した。筆者は本パークの基本コンセプトを必死で考えた。新しい部下達と共に決死の覚悟でその実現に挑戦した。

●セガ社のゲームセンターなどのエンタメ施設は、人々から見下され、蔑視されてきただけでなく、
法律の世界でも同じ扱いを受けていた(風俗営業法の適用)。

 日本の多くの人は次の事を知らない。それはセガ社のゲームセンターなどのエンタメ施設が不良の溜まり場と評価されている事だけでなく、セガ社が作ってきたエンタメ施設または今後作るエンタメ施設は全て「風俗営業法」の対象施設と扱われている事である。筆者も此の事を知らなかった。此の事とは、筆者が此れから作り上げる「セガ式テーマパーク(ジョイポリス)」は、ソープランドなどの「風俗営業をする施設」と同じ扱いを受けている事を意味するのである。

出典:法律
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 筆者はショックを受けた。また強い憤りを感じた。そもそもセガ社は、そのエンタメ施設で風俗営業又はそれに近い営業を一切していない。また賭博行為に相当するパチンコ店と異なり、セガのエンタメ施設では「ゲーム」を楽しむだけの施設である。何故、同じ扱いを受けねばならないのか? 不良が集まるからか? エンタメを見下し、蔑視する考え方が背後にあるからだ。

 風俗営業法の対象施設では、未成年者は利用できない。夜12時以降は営業できない。施設運営に関して警察の定期又は不定期(突然)の検査を受ける。検査結果で指示をされれば、指示に直ちに従わねばならない等である。もし違反が判明すると直ちに「営業停止処分」を受ける。

●セガ式テーマパークは「今のまま」では100%失敗する。
 セガ式テーマパーク(ジョイポリス)がソープランドと同じ扱いを受ける施設と噂されれば、子供、未成年者、特に家族は来なくなる。「今のまま」では、セガ式テーマパークは100%失敗する。誰でも楽しめる「セガ式テーマパーク」を作るには是が非でも風俗営業法の適用除外を実現せねばならない。また「今のまま」では筆者を見下し、蔑視し、去って行った連中の「思う壺」となる。何としても彼等を見返したかった。

 風俗営業法の適用除外は筆者の最優先の仕事になった。そして監督官庁と適用除外の話し合いを何度も粘り強く続けた。しかし全て拒絶された。多くの弁護士に相談した。ダメだった。部下達も考えてくれた。ダメだった。セガ社長に、セガの役員に、多くの社員に何度も相談した。ダメだった。

 幾ら頑張っても解決策を見出す事はできず、眠れぬ悪夢の日々が続いた。悔しかった。情けなかった。どうしようもなかった。悩みに悩んだ日数は覚えていないが、7~8か月は続いた様に記憶している。越えられない高い「岩壁」が筆者の前に立ち塞がった「夢」を何度も見た。

出典:岩壁
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●悩みに悩んだ末、或る日、「はっ!」と閃き、直観した「或る事」
 閃き、直感した「或る事」とは、当局の裏を掻く事、当局が容認せざるを得ない事実を見付けて適用除外を迫る事、そしてディズニーランドの事だった。

出典:閃き
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 或る事に気付くと、「何故今迄、気付かなかったのか?」と自分を責めた。しかし其の時も筆者以外の誰も気付いていなかった。だから仕方がなかったと思い直した。

 ディズニーランドの事とは、ディズニーランドがエンタメ施設でありながら風俗営業法の対象にそもそもなっていない事であった。ならば適用除外の方法は簡単である。セガ式テーマパークをディズニーと似せて作れば、当局は容認せざるを得ない。「やった!」と思った。

 此の事を社長に報告した。社長は驚いたが、大変に喜んでくれた。部下達も喜んでくれた。筆者は元・警察庁勤務経験者をセガ社で起用し、筆者の「ディズニーテーマパーク模倣論」で当局との風俗営業法の適用除外を交渉する作戦を練って貰った。その後、彼が内々、非公式で得た感触では「模倣論には拒絶が難しい」と云う事であった。

 その頃は、セガ式パークの「在り方(基本コンセプト)」は未だ見付かっていなかった。しかしその在り方に基づく様々な「やり方」を今後推進する時、ディズニーと似せた施設を作る「やり方」を其れ等のやり方の中に含めて、他のやり方と調和させて本パークを作る。其れ等を当局に実際に見せれば、風俗営業法適用を除外できると確信した。直感は正しい事も分った。

●セガ式テーマパークをディズニーランドに似せた「超ミニ・ディズニーランド型」の設計&建設
 セガ社は以前から「室内型のエンタメ施設」のみを作ってきた。しかし今回はディズニーランドに似せて作る必要から「屋外型のエンタメ施設」を作る事にした。早速、社長の了解を得て最適候補地選びを開始した。

 最適な立地(サイト)を全国レベルで如何に探索するか? 一定の広さの土地を如何に見付けるか? 当該候補地で集客性、事業性、安定性、発展性などを確保できるのか?など多くの観点からの検討を行った。

 立地候補地として社長ほか多くの社内関係者は、「東京都内」を推した。しかし筆者は東京都内は時価が高く、広い土地が入手し難いなど問題がある。其の為、地方都市を推した。反対論が湧き起った。しかし筆者は反対論に挫けず、探索を続けた。その結果「横浜市がベスト」と主張した。更に探索した結果、横浜市の山下公園の近くに最適の土地まで見付け出す事に成功した。
 筆者は新日鐡MCAユニバーサル・スタジオ・プロジェクトの開発で多くの「経験知」を得た。また反対されても「自説主張の重要性(★)」を体得した。これ等はセガ・テーマパークの開発に多いに役立った。筆者はその後も「横浜説」を主張し続けた。遂に社長の承認を獲得した。

 ★ユニバーサル・スタジオPJTでは開発当初からMCA社は、「ハリウッドに似ている」として千葉県の君津市に新日鐡が保有する土地(君津市サイト)に同パークを作ると決めていた。MCA社も、新日鐡も、君津市サイトは東京圏に属する為、集客性、事業性、安定性、発展性などを確保できると考えたからだ。

 ★しかし筆者は本PJTを開発する過程で「君津市サイト説」に疑問を抱いた。その理由は、①「東京湾横断道路」に鉄道が無いため多数の人を対岸の千葉県木更津市とその隣の君津市に運べない事(此れは大変な計画ミスと判断する)、②東京都心から千葉県の各市への道路網が未整備&未発達な事、③第2ディズニーランドが計画中で実現すると本PJTの集客が奪われる事、④筆者が密かに見付けた新日鐡の堺市の新日鐡堺製鉄所に隣接する埋立地、所謂「堺市サイト」が君津市サイトより事業採算性、戦略性などで優れている事、⑤大阪市、大阪府、関西圏の人々は本テーマパークに興味を持ち、数多く来園する事を、これまた密かに某調査機関で調べさせて、判明していた事などであった。

 ★筆者は「堺市サイト説」を基とした本PJT計画案を新日鐡社長に提案。しかし堺市サイトに大反対した。MCA社長も、両社の関係者も全て大反対。しかし筆者は「堺市サイトの方が成功する」と首を賭けて主張を続けた。一時、本PJTの総括責任者を外されそうになった。しかし紆余曲折の末、頑張った結果、最終的には堺市サイトの説得に成功した。

出典:ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
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 現在のハリーポッターで有名な「大阪USJ」は、大阪市此花区に在る。其の地区は、筆者が首を賭けて必死で説得した「堺市サイト」の土地、即ち新日鐡堺製鐵所に隣接する「埋立地」から北に10数キロ、車で10数分の処にある。MCA社は新日鐡で出したPJT成功証明と堺サイト説を基に大阪市と組んで「大阪USJ」を実現させた。筆者の「堺市サイト説」の主張と大阪圏、関西圏でテーマパーク事業が「成功するとした主張」は、歴史的に正しかったと証明された。大阪USJは筆者と筆者の部下達が事実上作ったと内々自負している。

 筆者がユニバーサル・スタジオPJTを開発して得た「経験知」や「自説主張主義」は、セガ式テーマパークの候補地を地方都市で探させたり、反対されても主張を続ける習性を身に付けさせた様である。次号では風俗営業法の「適用除外」を如何に実現させたか? 「超ミニ・ディズニーランド型のジョイポリス」を如何に作ったか? 具体的に解説したい。

つづく

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