PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (138) (課題解決と問題解決)

向後 忠明 [プロフィール] :4月号

 今月号は、筆者がこれまで、プロジェクトで試行してきた自分なりの論理的思考法、すなわちKT法と各種の関連フレームワークの組み合わせについて話をしてみたいと思います。
 
 ここでは「新しい事業を作る」「技術革新への対応」「現状より高い生産性への対応」等、経営者や起業家の立場での考えだけでなく、現場に近い立場での考え方で、全体像の状況把握を行い、対応策を検討し、具体化し、プロジェクトとして、実行するまでの手順とその方法について話をします。すなわち、P2Mのスキームモデルで示されていることを現場に近い立場で使命(テーマ)に求められているコンセプトの本質を理解し、その対応策を具体化し、プロジェクト化するまでの思考法についてKT法と各種の関連フレームワークの組み合わせで説明します。
 
 まず、最初にKT法についての話をします。筆者がこの手法を知ったのはエンジニアリング会社における社内研修であり、この時はEM(Effective Management法)と称されていましたが、基本はKT法と同じです。
 
 この手法に示す概要を前月号よりさらに具体的に説明すると下記のような4つの思考領域からなっています。
 
状況把握 (SA) 現状把握と問題抽出 何が起きたのか状況を整理し、問題を明確化する。
問題分析 (PA) 問題の明確化と
原因究明
なぜ問題が起きたのか不都合な事実の原因を究明する。
決定分析 (DA) 目標設定と最適案決定 どのように対応すべきか、適切な手段を選び行動するための仮設設定をする。
潜在的問題分析 (PPA) リスク想定と対策計画 何が起きそうか、また将来分析等を行い決定分析の確認を行う。
 
 この4つの思考領域は人間のデザイン思考と論理的思考の組み合わせであり、すでに前月号で話をしたように「クリエイティブ」と「ロジカル」の組み合わせからなっています。
 
4つの思考領域
 
  • 直観 : 個人の趣向・デザイン・感性の分野(クリエイティブ)
  • 論理 : 論理的思考でありビジネスで直面する大半の分野で使用(ロジカル)
  • 経験 : 実際に自分で実行したり見たり聞いたり行動したこと。経験によって得られた
         自分の中の法則
 
 直観は「ひらめき」の分野で、特定の人が特定の分野で発揮でき、豊富な知識と経験が個人の頭脳に馳駆された結果のものです。(クリエイティブ)
 直観は人間の右脳の働きにかかわる能力であり、読者がこの域に達成するには困難を要すると思います。それを克服するには、まず経験から得られた自分の中の法則の最大利用と状況分析における識者、経験者、そして課題提出者から、対象の内容についての知識を得るため恥じることなくすることが重要と考えます。すなわち、コミュニケーション能力といったものが重要な要素となります。
 「聞くは一時の恥、聞かざるは一生の恥」というように、日本人は「恥」の文化を脱ぎ棄てる必要があります。さらに重要なのは実プロジェクトや各種業務での多くの経験や知識そしてその展開力が重要となります。
 また4つの思考領域の関係図を自分なりに実業務を通して開発した筆者のこれまでのやり方を以下に示します。
 
4つの思考領域の関係図
 
 設定された使命またはテーマの状況分析の結果、そこから明らかになった問題とその原因を「なぜなぜ」を繰り返し、明確にし、仮説設定を行い、その仮説が正しいかどうか実行現場の組織の能力判定から実行上のリスクの回避可能性やその回避による将来性を考え意思決定をする。
 上図に示すように思考領域の中心は状況分析であり、これは日常直面する経営や管理活動を適切に把握し、問題の所在を押さえ、使命(テーマ)に内在する課題を明確にすることから始まります。錯綜し、混とんとした状況から得られた課題を「何をどこから分析し、どこから手を付けるか?」を考え、直面する状況を把握し、使命として与えられた課題を明確化する。
 「もし、あなたがプロマネとして与えられた使命を解決する立場になったらどうするか?」この場合かなり迷いますが、まずはプロマネとして自分なりの判断で「与えられた使命に内在するコンテンツ」を理解し、固定概念にとらわれず客観的に直面する状況の全体像をつかむことが必要です。
 なお、状況分析に入る前に、ゼネラルなプロ136において説明した下記の事例を生産性という観点からみると、筆者は次のように考えてみました。
 
  1. ①確実に見通せるソリューション (技術革新などの方向の見えるトレンド)
  2. ②ほかの可能性のあるソリューション (現状からの脱皮、多様性への対応)
  3. ③可能性の範囲が見える将来 (新規技術による既存業務のイノベーション)
 
 すなわち、③に示す対象はかなり高度な要素を含んだものとなり、市場、人、組織、投資等々の企業経営にかかわる課題となり、特定の人が特定の分野で発揮でき、豊富な知識と経験が必要となる分野である。
 それに比較し、①及び②には業務の効率化といったどちらかというと技術的要素が多く含まれます。例えば、効率的生産設備の採用、DXによる業務の効率化、新技術導入によるマーケット等の状況分析となります。このケースの場合の検討は比較的先が見通せるので顧客や社内でもテーマ設定は容易となります。
 しかし、どちらの場合も、プロマネや管理者にとって、①②そして③のような突然降って湧いてくるような大きな使命や概要がハッキリしない状況の中から、具体的に取り組み課題を設定するような仕事は難しいと思います。
 そこで、このような不確定要素を含む使命(テーマ)に対しては、そこに内在するバラバラな、そして活用されていない情報を整理し、情報の共有化を行い、現状把握することから始めます。
 そして、現状把握からそこに潜む問題を発見し、その問題の発見と原因究明により課題抽出(仮説課題)を行います。
 ここで得られた仮説課題に具体的にどのように対応するかといった解決策の案の作成と選択が必要となります。また、対応するにあたってリスクはないか等々の分析も行い、問題があれば最初に戻り、再検討の必要が出てきます。

 このように、これからのプロマネには自社内における社内案件や顧客からの不確定案件を対象とした使命を論理的思考によりアプローチできる習慣をもって行動できるようになることが必要です。
 すなわち、プロジェクトマネジメントのステップであるPDCAサイクルに乗せるために必要な具体的プロジェクト実行要件やプロジェクト目標の設定ができるようにならなければなりません。

 来月号では論理的思考の手順に従って、その詳細を説明します。

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