理事長コーナー
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Amazonという怪物

PMAJ理事長 光藤 昭男 [プロフィール] :1月号

 今のネットショッピングは便利だ。自宅に居ながら欲しいモノがすぐに手に入る。私は、重たいモノ、本、ワイン・ビール類から始めた。本の販売のビジネスからスタートしたAmazonは便利だった。ところが、そのAmazonのサービスは、今や個人の生活サービス全般に参入してきている。かつ、Amazon は日々増殖している。最近では、ビジネス分野にも拡大している。

 繰返しになるが、Amazonは単なる物品の販売のサイトではない。特に、「Amazonプライム(Prime)」会員に顕著だ。その年会費は、日本では\3,900、米国だと$99だ。プライム会員となると、注文品のほとんどが無料の翌日配送となる。よくあるポイントも付かない方が多い。「プライム」でもっと利便性が高く、重要なのは、Amazonの提供するサービスの全般を楽しむための権利が得られることである。日々増えている多彩なプログラムやサービスが利用できるようになることを意味する。

 Amazonは、物凄い勢いで増殖している。「プライム」の特典の一部をAmazonのホームページから拾ってみる。
 ―「配送特典」)(上記)で、「お急ぎ便」、「日時指定便」が無料提供。
 ―「プライム・ビデオ」では、追加料金なしで、特典対象の映画、TV番組が見放題。
 ―「プライム・ミュージック」は、100万曲以上が聴き放題。
 ―「ツイッチ・プライム」では米国Twitch提供のゲームコンテンツが無料。
 ―「アマゾン・フォト」は、写真等が無限に自動保存。他のSNSとコンテンツ共有可能
 ―「Kindleオーナーライブラリー」では、指定タブレット本が無料。
 ―「プライム会員限定先行タイムセール」は、30分早くお得なタイムセールに参加可能
 ―「Prime Now(プライム ナウ)」は、専用アプリで、最短2時間で欲しいモノを配送
 ―「Amazonファミリー」のプライム会員なら子供製品がお得便で15%オフ

 他にも「Prime Reading」、「Amazon Music Unlimited」、「Dash Button」など羅列されている。更に、「Amazonパントリー」や「Amazonフレッシュ」は、食品・日用品、生鮮食品・専門店グルメの直配送がある。「Prime Pets (プライムペット)」は、ペット関連商品を10%オフで販売する。プライム会員のメニューは増え続けている。個人生活の大部分をカバーするサービスを提供する怪物企業になってきている。

 上記は、B2Cに関するサービスであるが、B2Bにも力を入れている。「AWS(Amazon Web Service)」というクラウドサービスがそれだ。元々、社内ユースで作ったプラットフォームだったクラウドサービスを、現在では顧客からのアウトソーシングとして受注している。売り上げは、Amazon全体の1割にも満たないが、営業利益では、60%に迫っているという稼ぎ頭だ。

 創業者のジェフリー・プレストン・ベゾス(Jeffrey Preston Bezos)は、「失敗する場を探しているならAmazonに限る」と言っている。挑戦には失敗がつきものであるが、その挑戦がイノベーションを生むことを良く理解しているからだ。しかし、Amazonは、イノベーションに取り組む際の失敗に対する許容度の高さも並外れている。利益はいつでも出せる、挑戦に資金を投入する、という経営姿勢を貫いている。その結果、Amazonの次の新サービスとして何を出してくるか予測することは難しい。戦略的に今までのビジネスとは異なる視点からイノベーションを起こす能力があるためだという。いわば、ビジネスと実験を同時並行で進めているといえる。その能力と資金力は過去に例を見ないそうだ。

 ビジネスモデルの観点から見てみる。大きな方向は、IT利用のデジタルビジネス分野での戦いだ。先に綿密な計画があり、その計画にそって仕事を進めてゆくWater Fall型のビジネスモデルでないことは自明だ。大きな方向性のあるビジネスの流れの中で、日々思いついたアイディアを次々と実験し、トライし、失敗しても修正し、挑戦して、ビジネスを創り上げてゆく、いわゆるAgile型のビジネスモデルだ。ベソスのリーダーシップのもと、フラットなクラウドサービスを活用し、どのような管理構造で事業を展開しているのか、イノベーションをどう評価し次の展開に結び付けているのかなどマネジメント面から研究してみる価値がある。

以 上

注: 『連載「小売再生―リアル店舗はメディアになる」アマゾンが張り巡らす"毒蜘蛛の巣"の恐怖~返品も赤字も失敗も恐れない怪物~(プレジデントオンライン2018.6.15)』より(ダグ・スティーブンス著、斎藤栄一郎訳『小売再生―リアル店舗はメディアになる(プレジデント社)』の一部を再編集した記事)

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