例会部会
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第178回例会レポート

例会部会長 枝窪 肇: 11月号

 日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、9月に開催された第178回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日時: 2013年9月27日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「リーダーシップ力を磨くために ~期待行動を導くための考え方と技術~」
講師: マーシュブローカージャパン株式会社(クライアントエグゼクティブ) 大野 紳吾氏

 今回の例会には、マーシュブローカージャパン株式会社の大野紳吾氏を講師としてお迎えしました。大野氏は大学卒業後に国内の総合建設会社に入社し建設プロジェクトにおける施工管理業務に従事された後、米系エンジニアリング会社のBechtel社に転職。中東の大型建設プロジェクトで多国籍編成のプロジェクトチームのPMとしてメンバーを取りまとめた経験があり、現在の会社では建設プロジェクトに関するリスクアドバイザリーと保険ブローカー業務に従事されています。今回の例会ではそうした経験を交えながらお話を伺いました。

 冒頭で、中東の大型建設プロジェクトでの大野氏の実体験から「して欲しいことをしてくれない」「やられたら困るようなことをする」という人の例が紹介されました。
 今回の例会は、そういった『困った人たち』にどのように対処していこうか?という内容でした。
 それでは以下に、講演の概要をご紹介します。

○困った人たちの対処法
 「困っているのは自分の方だけで相手は困っていない」というときに、『困った人』に自分からお願いするにはどうすれば良いでしょうか?これを考えるためのキーワードが「問題行動」と「期待行動」です。
問題行動:相手がとる困った行動
期待行動:相手にとってほしい行動
 問題行動をやめさせたいときには、まず相手が問題行動をとる理由を、事実に基づいた客観的な分析によって知る必要があります。その上で新しい要因を加えて、こちらが期待する行動をする(あるいはしなくなる)よう、動機づけします。
 行動の種類は設定された目標で決まります。例えば1カ月のノルマが5万円と500万円とではどのように行動するかが変わります。また、行動をするかどうかの確実性は、設定された報酬(お金だけでなく精神的な喜びも含む)で決まります。

○期待行動を導く考え方
 期待行動を導き出すプロセスは次の4ステップになります。
1. 問題行動を分析する:相手はなぜそうするのか?
2. 期待行動を計画する:明確な目標と報酬を設定する。
3. 期待行動を伝える:伝えなくては行動してくれない。
4. 期待行動を定着させる:再び問題行動をとらないようにする。

○リーダーシップについて考える
 マネジメントとリーダーシップは違うものです。マネジメントは既存のシステムの運営を継続する能力であり、リーダーシップは組織をより良くするための変革を実行する能力です。マネジメント的思考によれば、既存システムを崩壊させるかもしれない困った人は排除したほうが良いですが、リーダーシップ的思考によれば、問題が何か、現状をどう変えていくかを考え、困った人に対して働きかけます。
 リーダーシップに必要な3つの能力は
1. 目標を設定する能力
2. 目標達成の方法を示す能力
3. 周囲の人を巻き込み引っ張っていく能力
の3つであり、私は特に3番目が重要だと考えているので、これをどのように身に付けるかを、期待行動をとらせる手法を用いて説明します。
例 ) 問題行動=部下が先月3回、出社時刻から15分遅刻した
ステップ 1 :問題行動を分析する
  主観性や推量を省いて部下が問題行動をとるきっかけを複数列挙する
「朝寝坊」「電車の遅れ」「子供を幼稚園に送りに行った」
  問題行動によって起こる結果(利益でも不利益でも良い)を複数列挙する
「上司に注意される」「評価が下がる」「十分な睡眠と快適な寝起き」「子供との時間」
  その結果がすぐに現れるか、必ず現れるかを○か×で判定する
問題行動の理由となるもっとも強い動機は、すぐにと必ずの両方が○になる。
上司の注意 ⇒すぐに:×、必ず:×
評価が下がる⇒すぐに:×、必ず:×
十分な睡眠 ⇒すぐに:○、必ず:×
子供との時間⇒すぐに:○、必ず:○
ステップ 2 :期待行動を計画する
期待行動には種類が3つあります。
問題行動をやめる
  きっかけをなくす
  不利益を与える結果を変える、加える
例 ) 上司がモーニングコールをする。遅刻したらすぐに必ず上司から注意する。
出来ないことができるようになる
  きっかけを追加する(明確な指示、ルールの変更、知識や技術力向上のための研修など)
例 ) 子供送迎をフレックスタイム制度で対応する。
出来るのにやらないことをさせる
  結果を変える、加える
例 ) 家を早く出たら電車で座ることができた。
ステップ 3 :期待行動を伝える
期待行動を伝える前に、問題行動の原因が自分自身にないか、自問自答してください。
『目標』がなければ、行き先を見失う:目標を与えているか?
『能力』がなければ、期待以下の結果になる:能力を超えた期待をしていないか?
『支援(人・金)』がなければ、不満が募る:やれと言うだけでサポートをしていない?
『報酬』がなければ、進まない:報酬(金銭・褒めること)は与えているか?
相手にきちんと伝わっているか、相手が確実に理解しているかを確認する必要があります。
また、相手が受け入れやすい伝え方として以下の3つを意識します。
  1. 続けて欲しい行動を褒める
  2. 事実に即した問題行動を伝える
  3. 未来のポジティブなイメージを伝える
ただし、相手に伝える際、3つ全てを言えないこともあります。そんなときは1,2,3の順番を守ることが大切です。
ステップ 4 :期待行動を定着させる
新しい行動が習慣化するまでには、最低でも4週間かかるとも言われます。
つまり、せっかく相手が期待行動をするようになっても、習慣化せずに問題行動に逆戻りしてしまうことがあるのです。それを防ぐために以下の確認を行います。
  1. 目標と報酬をきちんと理解しているか確認
  2. 計画したきっかけと結果が機能しているかを確認
  3. 新たなきっかけや結果がでてきてないか確認

○リーダーシップを磨くために(まとめ)
 本日はリーダーシップについて考えてみました。先ほども言ったとおり、マネジメントとリーダーシップは違うものです。優秀なマネージャーはマネジメントだけでなくリーダーシップも持ち合わせています。そして、リーダーシップの能力は学ぶことで習得できます。
 それから、リーダーに必要な3つの能力のうちの1つである「周囲の人を巻き込み引っ張っていく能力が大切であり、これを使うことで、相手の問題行動を期待行動に変えられるという話をしました。
 まずは明日にでも、是非実行に移してみてください。

 以上が今回の例会の概要です。最後に、複数の参考資料が紹介されております。興味をもたれた方は、協会ホームページの「PMAJライブラリ(例会・関西例会)」のページに、発表資料をアップロードしていますのでご参照いただければと思います。

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