協会理事コーナー
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「海外危機管理について思うこと」

三菱化学エンジニアリング株式会社 山名 昇 [プロフィール] :6月号

 このテーマについて考える時、まずは最初に日揮さんのアルジェリア人質事件を思わざる訳にはいきません。事件からすでに数ヶ月が経ちましたが、改めて海外の砂漠に散った方々のお悔やみを申し上げます。さぞや、無念だったろうと思います。
今後も、危険地域で日本企業が活動することが多くなると言う前提で申し上げるなら、少し悲観的なことを言いますが、戦争や紛争が無くならないのと同じで、残念ながらアルジェリア人質事件と同じ様なことはいずれ何処かで繰り返されると思います。ただ、危険率、被害度合いを下げる努力はすべきですし、それは可能だと考えます。
今後の海外プロジェクト建設を考えた場合、もう安全な場所など何処にも無い様な気がします。ある意味、最初から安全な場所などは無く、今までは他の仕事もあり、避けてこられた。しかし、これからはより未開拓の地、特に最後の市場と呼ばれるアフリカへも遅かれ早かれ参入する企業が多くなるのではないか。地理的に近く旧宗主国の欧州企業が幅を利かせてはいるものの、石油・天然ガスなど多くの資源があり、そこに技術力もあり、細かい所に気配りができる日本企業の参入機会も大いにあると思います。世間で言われる様に、まずは中国一辺倒の流れが変り、アジア新興国(フィリピン・カンボジア・ミャンマー・バングラディシュ等)への進出が先とは思いますが。
言うまでも無く、海外の何処へ赴くにしても危険は付き物です。その危険がどの程度なのかを調べ、対策はどのようにすべきかなどを考え管理することこそが海外危機管理だと思います。先の人質事件などは滅多に起きることではありませんが、犯罪や事故に巻き込まれたり、病気や自殺などは多いと聞き及びます。それに対する予防・準備・対応・再発防止などを企業として体系立てておくべきことが肝要と思います。ただ、危機管理は限りがありません。ここまでと言うことが無いのである程度の所で懸ける時間と費用を考え、備えるしかない一面もあります。自然災害の発生は人知の及ぶ所ではありませんが、病気・自殺等はメンタルも含めた健康管理、犯罪・政変・暴動などは情報収集等で、少なからず未然に防ぐことが可能です。自分の体・命は自分で守るのが鉄則ですが、個人が出来ることには限りがあり、従業員を守る企業が採るべき海外危機管理として出来る限り予算と人員を割いて頂きたいものです。
次に個人の地力を上げていくことが危険回避に繋がると考えていることをお話します。まず何よりも言葉を身に付けましょう。英語だけでは無く、出来れば現地の言葉も少しは話せるようになりましょう。事故や事件に遭遇しても相手の言っていることが理解でき、自分の気持ちが伝えられれば、かなり対応は違うと思います。可能な限り、文化・風習にも慣れ、理解することも大事なことと思います。
色々と述べて参りましたが、やはり最大の海外危機管理は個人の「心掛け」にある様に思います。どれだけすごい管理体制を作り上げていても個人が危険地帯に足を踏み入れたら危機を招いてしまいます。できる限り危険からは身を遠ざける心掛けが大事です。また、メンタルを含む健康管理にも心掛ける必要があるでしょう。「自分だけは大丈夫」は有り得ません。全ての海外赴任者・出張者が慎重に生活され、任務を全うして元気に帰国されることを切望してやみません。

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