P2M研究会
先号   次号

2012年度 東京P2M研究会活動報告 -水ビジネスの研究-

水ing株式会社 内田 淳二 [プロフィール] :4月号

はじめに
社会が発展・成長を遂げ、成熟期を迎えた今日にあっては、治水・利水という行政分野や、地域に根付いた行政区画に囚われない地域の水循環システムの持続可能性への貢献が「水イノベーション」と捉えられており、各所において様々な研究成果の発表が行われている昨今である。(例:水イノベーション2012、InterAqua2013等)
本稿では、これらの発表会で得られた最新の知見を加えて水ビジネスの現状と取り組むべき課題の紹介をシリーズでさせていただくこととなった。今回は水ビジネスの市場の概要についてお伝えする。

水ビジネス市場について
(図1) 世界の水ビジネスの対象は、生活用水・工業用水などの利水事業で2025年に86.5兆円の市場規模を有するといわれている。新規の浄水設備等の設計・建設プロジェクトが48.5兆円、既設設備の管理・運営サービスプロジェクトで38兆円が内訳である(図1参照)。図1は、事業分野別にEPCとO&Mの市場予測がまとめられたものであり、上水下水事業分野は、ボリュームゾーンと呼ばれ、市場の大半を占める。対象地域は成長するアジアであり東南アジアの途上国や中国・インド等の新興国が含まれる。一方、工業用水・排水、再利用水ならびに海水淡下水水化事業は、市場規模は、それほどでもないが、多種多様な産業排水の処理実績を持つ日本企業の強みが生かせる分野であり、エネルギーコストが割安な中東の資源国などが対象で成長ゾーンと呼ばれている。

(図2) (図2)は、現下の水ビジネスの対象分野を水源地ならびに流域との関係を含めて可視化したものであるが、水資源の維持・管理を対象とする事業分野はビジネスの対象とはされていない事が判る。

世界の水問題とは?
世界の水問題は、国連「ミレニアム開発目標」で掲げられた8つの目標すべてに深く関わっており、水問題の解決は国際社会が持続可能な発展を遂げる上での最重要課題であるとの認識が拡がっている。 (図3) 2000年、ニューヨークで開催された国連ミレニアムサミットで世界から貧困を撲滅する為、2015年までに達成するべき8つの目標を決めた。国際社会は、この目標達成に向けて活動しており(図3)は、2010年に発表された中間レポートにもとづいて作成された目標達成度の評価表である。目標7では、「安全な飲料水」と「基礎的な衛生施設」を持続可能な形で利用できない人々の割合を半減させるとしており、飲料水については一部地域を除き目標達成の目処が立っているが衛生施設の整備で立ち遅れが目立つと報告されている。

偏在する水資源 -足りない水と多すぎる水、グローパル水循環基礎知識-
地球上に存在する水のうち97.聞は塩水であり、淡水はその内2.5%で再生可能な循環資源である河川・湖沼等は0.01%に過ぎない。(図4)参照
(図4)
(図4)
世界の人口が増加すると、生活用水に加え、農作物生産拡大に伴う農業用水の需要が拡大。また、経済活動が活発になることで工業用水の需要も拡大する。増大する水需要に対して、水資源が十分に確保されていれば問題は深刻ではない。が、しかし水は地域的・時間的な偏在性が非常に大きな資源、であるがゆえに地球規模での問題に発展する。図5は、1995年の世界各地の水資源の利用状況と2025年の予測を可視化したものである。水資源の偏在性が良く判る。
(図5) (図5)
(図5)
図5の見方:各国・地域の年間水使用量をそれぞれの人口で除した値で、各国・地域の水資源涵養状態が濃い赤茶色(極端な水不足)から濃い水色(良好な涵養状態)であらわされている。一人当りの年間水使用量が1700m³を境にして水ストレス状態か否かの目安とされている。(出典:UNEP)
中国北部・インド・中東・北アフリカ・アメリカ南西部・オーストラリア東部等で、降水量が少なく物理的理由で高い水ストレス状態にある。なかでも中国・インド・中東は人口増加・経済成長に伴い水不足が深刻な問題になってきている。

次回は、『日本の水道事業の現状と今後の課題について』を予定します。

ページトップに戻る