PMプロの知恵コーナー
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「エンタテイメント論」(55)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :10月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

4 涙
●肯定的涙と否定的涙
 前号で述べた通り、「肯定的涙(Positive Aspect Tears)」は、リアルな世界では、スポーツ選手が苦難の末、晴れのオリンピックの舞台で金を獲得できた時、苦労の末、目指す大学に合格した時、アカデミー賞で主演女優の栄誉に輝いた時などに落とす「涙」である。

 またそれは、映画、TV番組、演劇などのバーチャルな世界では、観衆が主人公に「感情移入」し、主人公と共に難関に挑む。そして遂に彼の長年の「夢」を達成し、共に「感涙」にむせぶ時に落とす「涙」でもある。

出典:涙とは何か? www.fiestcovers com

 更に「肯定的涙」は、何かを成し遂げた場合にだけ涙する訳ではない。人への深い愛に接した時、愛する人を生涯思い続ける永遠の愛の存在を知った時などにも、多くの人々は、我身の人生に照らし合わせ、共感し、感動し、落とす「涙」でもある。この「涙」は、実に偉大な働きをする。

 一方「否定的涙(Negative Aspect Tears)」は、自ら失敗したり、他者から裏切られたり、騙され、失敗させられたりした時、後悔や怒りなどで落とす「涙」である。またそれは、人生最大の悲劇に遭遇し、絶望した時、愛する肉親や恋人を失い深い悲しみに陥った時などにも落とす「涙」である。この「涙」は、「肯定的涙」ほどの働きはしない。しかし涙した本人の考え方や人生への姿勢に依って大きい働きをする。

●肯定的落涙と否定的落涙の場面
 肯定的涙を落とすこと、言い換えれば、「肯定的落涙(らくるい)」をする「場面」は、我々の周囲に数多く存在する。

 密かに一人で「喜び」に涙する場面が先ず考えられる。それ以外での「肯定的落涙」の場面とは、①人と人との対話の場面、②目前で感動的場面を繰り広げている人を目撃する場面、③直接対話場面や感動目撃場面をラジオ放送、TV放送などの「メディア」を通じて視聴(録音又は生中継)する場面、④映画、TV番組、音楽などのエンタテイメント・コンテンツを劇場や家庭で視聴する場面等である。①~②は「直接的・肯定的落涙」、③~④は「間接的・肯定的落涙」と言い換えることが出来るだろう。「こんなクソ面倒な定義など知りたくない」と思わないで欲しい。エンタテイメント論を理解し易くするための定義である。

 「否定的落涙」をする場面とは、「肯定的落涙」と同様、我々の周囲に数多く存在する。それは、一人落涙場面以外に、対話場面、目撃場面、メディア視聴場面、エンタテイメント視聴場面などである。そして「直接的・否定的落涙」と「間接的・否定的落涙」がある。

出典:喜びの涙 www.sodahead.com 出典:悲しみの涙 aeonex.wordspress.com

●肯定的落涙は「成功の涙」
 肯定的落涙は、既述の通り、偉大な働きをする。困難な仕事をやり遂げたこと、競技に勝利したこと、「愛」を成就させ、深い愛を捧げたこと、そして「夢」を実現させ、成功させたことに依って自らが又は他者が喜び、感激、感動し、涙する。この涙する原因に大きい働きがあるからだ。

 この落涙は、その人の記憶に鮮明に残り、深層心理の基盤にまで染み込む。その結果、本人は、新たな喜び、感激、感動を求めて、多くの事象に積極的に接し、肯定的且つ新しい考え方を受け入れ、明るく、楽しく行動する様になる。この様な結果を生み出す「涙」を一語で表現すれば、「成功の涙」である。

●否定的落涙は「失敗の涙」
 否定的落涙も、肯定的落涙ほど大きい働きはしない。しかし男性の70%、女性の90%が「泣いた結果、気持ちが落ちついた」という精神鎮静機能があることを前号で述べた。それだけだろうか?

 困難な仕事をやり遂げられなかったこと、競技に敗北したこと、「愛」を成就できず、深い愛を捧げられなかったこと、騙され、裏切られ、「夢」を潰され、「悪夢」を味わったこと等に依って自らが又は他者が後悔し、恐怖し、怒って涙する。

 この落涙は、肯定的落涙と同様に、その人の記憶に鮮明に残り、深層心理の基盤に染み込む。その結果、何も求めなくなったり、多くの事象に消極的に接する様になる。否定的な考え方を持つ様になり、新しい考え方や行動を受け入れる重要性や必要性を拒む。そして暗く、寂しく行動する様になる。この様な結果を生み出す「涙」を一語で表現すれば、「失敗の涙」である。

●成功の涙と「夢工学」
 前号で述べた通り、「感情的な涙(Emotional Tears)」の原因の47%は悲しみ、怒りは20%、喜びは僅かに13%に過ぎない。言い換えれば、世の中は「失敗の涙」ばかりということになる。しかし誰でも「失敗の涙」など落としたくない。「成功の涙」を落としたい。しかもどちらを落とすかが成功か、失敗かを分ける鍵となる。しからば成功と失敗を分けるモノは何か? 順を追って説明する。

出典:何が成功と失敗を分けるか? www.123rf.com

 「成功の涙」を落とした人は、新しい「考え方」に挑戦し、積極的に「行動」し、「夢」の実現と成功に挑戦する様になる。

 「夢工学」は、「パトス論(理念論=考え方)」と「ロゴス論(技術論=方法論)」の2本柱で構築されている。この「パトス論」の下部理論である「成功論」は、「成功が成功の母」と説く。「失敗は成功の母」という考え方を否定する。その代わり「失敗は失敗しないための母」と説く。

 失敗そのものから成功は生まれない。失敗と真正面から向き合い、失敗を反省することは重要である。何故なら失敗は更なる失敗を防ぐ効果があるからだ。しかし①幾ら失敗しない様にしても、絶対に成功しない。②成功する様にしないと成功しない。成功にはわけがある。③「失敗学」を学ぶことは、「成功学」を学ぶことではない。この3点を筆者は、失敗学の権威者・畑村洋太郎教授に会って確かめてある。なお「夢工学」は、成功のための工学で、夢実現工学でもある。これは、失敗することを当然視している。また悪意の夢破壊者の失敗工作から「夢」を守る「(抗)悪夢工学」は、善意の失敗を防ぐ「失敗学」と棲み分けしている。

 「成功の涙」を落した人は、必ず成功への再挑戦を始める。必ず成功できると信じ、挑戦する。その結果、再度、成功を達成する。成功すると益々成功する。この良循環こそ「成功が成功の母」という所以である。しかし成功に胡坐をかき、油断すると必ず失敗する。これを「成功の復讐」という。気を付けることである。

出典:左:Hey, You can do it www.readyselfeast.com 右:Listen, I can't do it anymore www.impactlab.net

●失敗の涙と「夢工学」
 「失敗の涙」を落とすと精神鎮痛効果がある。しかし重要なことは、泣いた後である。泣いた人がその後、如何に考え、如何に行動するかである。

 悲嘆、落胆、自己否定の「道」をズルズルと歩み続けるか。それとも後悔、恐怖、怒り、否定の「涙」を乗り超え、新たな「考え」や「行動」を起こし、成功の感涙を得る「道」をズンズンと進むか。これは「本人」次第である。しかし誰しも経験があるだろうが、「失敗の涙」を超えることは、辛く、厳しく、多くの困難を伴う。超えるための「エネルギー」が必要となる。

 失敗に屈せず、新たな考えと行動を起こすエネルギーを得るためには、本人の「内なる力(パワー)」が不可欠である。それは、使命感、責任感、希望、目標、命令などによって引き起こされると言われている。しかし余程の強い使命感や責任感などを持たないと「内なる力」は湧き出てこない。湧き出てきても持続できるとは限らない。

 その様な「内なる力」を誰しも欲しいと思う。しかし誰もが持つことが出来るか? そして「肯定的涙」を落とせるか? この疑問に古今東西の多くの「賢者」が答えている。またそれらを集約した「夢工学」も、その答えを提供している。
つづく
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