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「エンタテイメント論」(54)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

4 涙
●「涙」とは何か?
 「働らけど 働けど猶、我が生活(くらし) 楽にならざり。ぢつと手を見る」の歌を残した歌人「石川啄木」は、「涙は、心の幹をしぼった樹脂だ」と語った。

 誠に残念なことであるが、古今東西「Working Poor」で「涙」を流す人は多い。また悲しみ、怒り、絶望などによって「涙」を流す逸話は、「笑い」の逸話より遥かに多いことだ。先月号までの楽しい「笑い」のテーマから一転して今月号から暗い「涙」のテーマに移った。許して欲しい。

 「ロシア・プーチン大統領の涙」と「今にも涙を流しそうな泣き顔の犬」を掲載した。この対比によって筆者が何か政治的な皮肉を述べ様とした訳ではない。言いたいことは他にある。

mychinaviews.com xinminc.wordpress.com
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●動物は笑わない? 涙を流さない?
 既述の通り、すべての動物は、笑う訳ではない。しかし笑う動物は、悲しみ、吠え、泣く以上、「涙」も流すと言いたい。

 「動物は笑わない。涙も流さない」、「笑い、涙を流すのは高度な知能を持った人間のみである」と考えるのは、人間の思い上がりではないか。笑う動物の存在が医学的に証明された以上、「涙」を流す動物の存在も証明されるのではないか。

●笑いと涙の関係
 「笑う」ことの反対は、「涙」を流すことである。人間に関しても、動物に関しても、前者だけが存在し、後者は存在しないと考えるのは理に適わない様に思う。

 そもそも「涙」は、どの様な原因で流すのか? どの様な時に流すのか? どの様な種類があるか? そして「涙」は、どの様にエンタテイメントと関係するのか? などを本号以降で論じてみたい。

●「涙」の原因、流れる時、その種類
 先ず「涙」を流す原因とは何か? それは、常識的に考え、一語で言えば、「喜怒哀楽」であろう。しかし喜怒哀楽という精神面だけが原因であろうか。

 激痛、吐き気、目の損傷、あくびなど肉体面の原因もある。また「俳優」が、如何なる感情を背後に抱いていたとしても、映画、TV番組、演劇などのエンタテイメントの場で「涙」を流すというバーチャルな原因もある。更に偽りの「涙」を流し、相手を欺いたり、牛耳ることもある。「涙」とは、「笑い」と違って何とも複雑で、不可解なものである。
出典:いろいろな表情(涙は、泣く以外でも流せるもの)www.dreamstime.co 出典:いろいろな表情
(涙は、泣く以外でも流せるもの)
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 「涙」は、精神活動や肉体活動のいずれに於いても、個体毎の、ある閾レベルを超えた時点から流れ始める。そして最高閾値で最大になり、ある時間の長さで続くものである。そして「涙」を引き起こす喜怒哀楽の感情は複雑であり、「涙」の種類も多い。

 具体的に言えば、①オリンピックで金メダルを獲得し、世界から称賛され、感激して流す「涙」、②自分の「夢」を達成し、自己実現の喜びで流す「涙」、③裏切られて怒り、悔しさで流す「涙」、④事業に失敗し、落胆し、失望し、無力感や劣等感の襲われ、絶望の中で流す「涙」、⑤愛する人に捨てられ、寂しさと孤独で流す「涙」、⑥人を殺め、人を傷つけ、罪の意識で流す「涙」などである。

●ウイリアム・H・フレイ博士の「涙」の研究
 米ミネソタ大学の脳神経学者「ウイリアム・H・フレイ」博士は、「涙」に関する興味深い調査研究を行った。

 それは、①人間がどの様な原因で「涙」を流すのか? ②どの様な割合で流すか? ③「涙」を流すのは、人間だけなのか? である。
出典:William H. Frey II, Ph.D 米ミネソタ大学HP 出典:William H. Frey II, Ph.D
米ミネソタ大学HP

 同博士は、1985年に「感情的な涙(Emotinal Tears)」の原因と割合を調査した結果を発表した。それは、①悲しみ50%、②喜び20%、③怒り10% ④その他20%(心配、恐れなど)であった。

 日本でも「涙」に関するさまざまな研究が行われる。筆者はそれらを詳細に調べる時間的余裕がなかった。そのため調べられる範囲で、最近の調査結果を集め、平均化してみた。その結果は、①悲しみ47%、②喜び13%、③怒り20%、④その他20%であった。

●肯定的涙と否定的涙
 上記の通り、同博士の調査研究の数値と日本の調査結果の平均値は、極めて近似した。それは、残念なことであるが、多くの人々が「喜び」によって流す「涙」の割合が極めて少ないことを証明している。

 この両調査結果に、誰もが自分の人生に於ける「喜び」の経験を当てはめてみれば、納得がいくだろう。成功に感激し、涙したこと、他者に深く感謝し、涙したこと、人生最高の栄誉を得て、感涙したことなどの「肯定的涙(Positive Aspect Tears)」を流したことは、一般的にそれほど多くはなかったであろう。

 一方裏切られ、騙され、失敗させられ、怒りで涙したこと、人生最大の悲劇に遭遇し、絶望で涙したこと、愛する肉親を失い、深い悲しみで涙したことなどの「否定的涙(Negative Aspect Tears)」を流したことは、一般的に数多くあるだろう。

 同博士の「涙」の研究は、更に興味ある事実を明らかにした。それは、「涙」を流した結果、「気持ちが落ち着いた」と答えた被験者の男性の割合が70%、女性が90%ということであった。「涙」を流すことは、精神的に良い効果をもたらすことが明らかになった。日本でも「涙」を流すことによる医学的、精神的効果について様々な研究がある様だ(別途の機会に説明)。

●笑いと涙とエンタテイメント
 「笑い」の研究や「悲しみ」の研究は、「エンタテイメント論」に極めて重要なことを示唆している。それは、「エンタテイメント」の使命であり、①一人でも多くの人に「否定的笑い(Negative Aspect Laughter)」ではなく、「肯定的笑い(Positive Aspect Laughter)」をリアルで提供すべきこと、②「肯定的涙」と「否定的涙」をバーチャルで提供すべきこと、である。
出典: Laughter & Tears(エンタテイメントの本質)dreamstime.com/stock-photo image
出典: Laughter & Tears(エンタテイメントの本質)
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 「否定的笑い」とは、芸もない、刹那的なお笑い芸人を観衆が蔑んで笑う時の「笑い」をいう。「肯定的笑い」とは、芸のある、本物のエンタテイナーが観衆の「理性と感性的」に同時同質に訴え、観衆が「本気と本音」で笑う時の「笑い」をいう。

 「肯定的涙」は、エンタテイメントの世界では、エンタテイナーの本人がアカデミー賞の様なものを受賞しない限り、リアル(本当に)に体験できない。しかし観衆は、映画、TV番組、演劇などのバーチャル空間では「肯定的涙」も「否定的涙」も体験できる。

 観衆が「否定的涙」をバーチャル空間で流すことは、彼らの精神的悩みを解消させる効果がある。また観衆が「肯定的涙」をバーチャル空間で流すことは、彼らに精神的高揚を引き起こし、自らの目標、志、そして「夢」の実現に挑戦させる効果がある。

●動物の「涙」の研究
 同博士は、「動物が涙を流す」ことを調査研究で報告している(1985年 「Crying: The Mystery of Tears」 by William H. Frey, Ph.D. with Muriel Langseth. Minneapolis: Winston Press.)。

 動物が涙を流したことの研究とは、以下の通りである。
セシル・レイノルズの「犬」の調査研究(1925年)
ロナルド・M・ロックリーの「あざらし」の調査研究(1966 Grey Seal, Common Seal)
ジョージ・W・ステラ―の「ラッコ」の調査研究、ジョン・E・ハークネスとマーセラ・D・リッジ・ウエーの「ラボのネズミ」の調査研究(1973年)
ディアン・フォスィーのゴリラの調査研究(1083年 Gorillas in the Mist)などである。
 しかし同博士は、動物が「涙」を流す原因は他に理由がある。「感情的な涙」は流さないと疑問を提示している。

 < 涙を流す動物達 >
出典:泣き顔の犬 deepakvasudevan.blogspot.co 出典:泣き顔のアザラシ insidescoopsf.sfgate.com 出典:泣き顔のラッコ lair2000.net
出典:泣き顔の犬
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出典:泣き顔のアザラシ
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出典:泣き顔のラッコ
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出典:泣き顔のラボ・ラット blogol.hu 出典:泣き顔のゴリラ www.taronga.org  
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つづく
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