例会部会
先号  次号

「第164回例会」報告

PMAJ 例会部会 岡崎 博之: 9月号

【データ】
開催日: 2012年7月27日(金) 19:00~20:30
テーマ: 「ニュービジネス立上げ -関係者との合意形成」
自動体外式除細動器(AED)の認可から普及まで
講師: 千葉 訓道 氏/災害復興事業参加準備中

今日『AED』は多数の人に認知され様々な施設に設置されています。本講演は医療機器として認可の取得から普及に至る過程をAEDビジネスの責任者であった千葉様に『関係者との合意形成』という視点で語っていただきました

0. AEDとは
『年間30,000ー40,000人が心臓突然死に遭われています。救命率は5%以下です。』この語りかけから始まりました。

この心臓突然死の人を救うためにはAEDが不可欠なものであることを ”日本版救急蘇生ガイドライン” や ”米国におけるAED普及の歴史” などの資料を通して語られました。
この中で、救命に関わる医療関係者の2つの思いが示されました。
(1) 『心臓突然死の救命率を2桁(10%以上)にしたい』
そのためにはAEDが不可欠である。
(2) 『先進国の中で日本は救命医療はもっとも後進国となってしまう』
2002年の日韓ワールドカップにAEDを間に合わせなければならない。
このような状況下で、AEDの認可と普及に向けた活動が開始された。

第1の壁 行政/学会/業界との合意
認可を取得しなければAEDを設置することはできない。新医療用具の場合、通常の申請では認可に5年ほどの期間を要する。ワールドカップに間に合わないことは明らかであった。粘り強く学会・行政に働きかけた、ビジョンとメッセージを持って。
ビジョン 「日本の救命率をフタケタ(2桁)に!」
メッセージ
「このままでは、日本が世界で救命後進国に」
「日韓ワールドカップにAEDを間に合わせたい」
そして行政と主要3学会(麻酔学会、蘇生学会、救急学会)が動いた。一企業の力では達成しえなかった優先審査への道が開けた。
ワールドカップ開催の2002年に認可を得ることができた。ただし、この時点では一般人(非医療従事者)の利用はできなかった。一般人が使えるようになるのは2004年7月1日の厚生労働省の通達後となった。

第2の壁 内側組織との合意
認可により社内のAEDを見る目が変わったが、既存の病院向けの製品と同じ枠組みでの活動を強いられたことは変わらなかった。
AEDを担当する社内関係者に向けたビジョンとメッセージ。
ビジョン 「日本の救命率をフタケタ(2桁)に!」
メッセージ
「いつかはプロジェクトXに出演しよう!」
「市場リーダーはCSRもリードしよう!」
「救命のニュース、サバイバー(AEDで助かった人)の声を喜ぼう!」
これにより、社内組織の壁に屈することなく関係者の合意が形成されビジネスとして成功する基礎を固めた。

第3の壁 でも怖い!という顧客との合意
今日ではあって当たり前になったAED。しかしAEDが何かをわからなかった当時の担当者を説得して導入・設置してもらうことはそう簡単なことではなかった。
その理由の一つは、医療機器は宣伝広告が禁止されていることである。そのため市民への啓蒙活動を中心とした活動を展開することになった。
啓蒙活動にあたってのビジョンとメッセージ
ビジョン 「日本の救命率をフタケタ(2桁)に!」
メッセージ
「毎年交通事故死の5倍以上!」(心臓突然死で亡くなる人)
「救急現場で1分の遅れが10%救命率を低下させる」
「救急の連鎖に一般市民が参加しない限り、救命率はあがらない」
具体的な活動として、愛知万博のパブリシティ・AEDセミナーでの体験談・市民団体主催のCPR講習会などを通して顧客との合意形成を図ることができた。

まとめ 関係者との合意形成
日本におけるAEDのビジネスは、全員未知の世界であり、前例・確信・しがらみがない。
そのため各自の目先の利益・責任・価値観・理想論がぶつかり合い、それぞれの各論・べき論の渦が発生した。
この状況から抜け出すために『合意』をとることから始めた。安易な合意に陥らないように関係者の目線をより高い位置に引き上げることに注力した。その役割を担ったのが、これまで示したビジョン 「日本の救命率をフタケタ(2桁)に!」であった。
そして皆さん全員が (次の関係者と合意形成を図るとき)、
「目線の高いビジョンの伝道師」となってください!
の言葉で締めくくられた。

感想
PMAJが推進しているP2Mの実践事例だと感じました。とくにプログラムマネジメントにおいて最も大切とされるビジョン「日本の救命率をフタケタ(2桁)に!」がこのビジネスを成功させるために不可欠であったことで、ビジョンの持つ力を実感させてくれました。
懇親会の場で、「最初からきれいなビジョンがあったのでなく、関係者と議論を重ねることでビジョンが固まっていった」ことを聞いて、自分の実感と合致していたので納得いきました。
千葉様、ご講演ありがとうございました。
ページトップに戻る