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「グローバルで通用しているビジネスの常識を学ぼう」 (6)

渡辺 貢成: 9月号

1. 「企業は人なり」の日本、「企業は組織なり」の欧米(その1)
 今回はビジネスの基本中の基本である人と組織の関係を眺めてみます。日本人は「企業は人なり」という言葉が大好きです。グーグルで調べてみますと、経営の神様である松下幸之助が最初に語ったもので、「企業の栄枯盛衰はそこで働く人によって決まり、地道に人材を育成することが繁栄の近道である」という主旨のようです。

 これに反し、欧米の経営者は「企業は組織なり」を信奉しています。日本人はこの言葉が好きではありません。言葉の響きが、「欧米の経営者は人間より組織を大切にする冷酷な人間」と感じるからかもしれません。確かに欧米の経営者は不景気、業績不振で金持ちの株主の利益を優先して、従業員の首を切っていますから、そのように受け止められるのも無理はありません。

 今月はこのテーマを掘り下げて見ます。そして、あなたが社長になったらどちらを選ぶか決めてください。

(1) 「企業は人なり」とは
 この言葉は松下幸之助の成功物語の中で、基本に属する部分の重要な一つと思います。日本は戦後無から出発しましたが、目の前にあった資源は金でも、物でもなく、未開発の人的資源だけでした。日本人は人的資源を育て、企業を育ててきました。そして人間の活躍する「場」を大切にしました。これが企業内での業務遂行のある型を生み出しました。これを図で説明します。

異文化間でのビジネス・組織行動能力 (4/8) 日本の企業の内部を覗いて見ましょう。ここはXX部です。
部長、課長、係長、係員などがいます。組織ですから、職務分掌というものがあります。ここでは何と書いてあるか読んで見ます。
部長は部長としての業務を全うすること
課長は課長としての業務を全うすること
以下同文
A. どうですか何か違和感がありませんか?
B. 違和感がありません。
A. そうですね、日本の会社では職務分掌は簡単にしか書いていません。部長、課長は皆に仕事を与えますが、細かい指示を与えなくても、部下の皆さんは上司の考えをよく理解して仕事を進め、報告しています。上司は報告を聞くことで、部下の仕事が上手く進んでいるか理解します。
B. いわれて見ると、皆さん自主的に仕事をしていますね。
A. 今見ている図は日本が高度成長期に国力を伸ばしたのは何故かと、世界中の人々が不思議に思っていた。林さんというに日本人が、国連の場で「日本人が職場でどのように働いているか」を説明したときに使った図です。日本の職場はグリーン・エリア(場)があって、社員は自分たちが仕入れた情報は皆にお披露し、全員が必要な情報を共有しているから命令がなくても皆が動けました。そして皆が話し合うので、コンセンサスが得られ、暗黙知/暗黙知で新商品の開発は早くできました。
B. それって、すごいことですね。外人はどんな評価をしたのでしょうね。
A. 日本人は異質だ。われわれの社会ではありえないと言っていたね。
B. では米国の会社ではどのようなスタイルで仕事をしているのですか。

異文化間でのビジネス・組織行動能力 (3/8)

A. この図は平均的な米国企業の業務遂行のスタイルでね。米国企業では仕事の与え方にあいまい性がないんだな。そこで仕事の範囲が明確に決め「権限と責任」が明確になっているのが特徴だ。
B. 具体的にはどういうことですか。
A. 部長は課長に書類で「君の仕事はこれこれで、いつまでに何々を仕上げなければならない。何ができたら合格で昇格できるが、この程度では昇格できない」と書かれている。そして評価基準が明確に示されている。これはジョブ・ディスクリプションという。課長も同じやり方で部下に指示する。
新しい仕事をさせる場合は、上司はマニュアルを読ませて理解しているかどうかを判断してから実行させる。
B. 評価はどのようにするのでしょうか。
A. 成果主義だから、採点を厳しくつける。3ヶ月に一度面接をして、努力不足だとか注意を与えるようだ。ここで話し合いが行われるので、納得度が高いようだ。気に入らなければやめればいいから評価もしやすい。
B. われわれから見ると、何かやりがいに欠ける気がしますね。
A. しかし、君たちは夜飲んで不満を言っているではないか。君たちは上司からどのような評価を受けているか知っているのか。
B. 評価の件は知りませんが、しかしこの話を聞いていると「企業は人なり」が正しいと思いますね。

A. では、別の質問をするよ。
今なぜ、日本企業は四苦八苦しているのかね。有能な組織を持っていながら経営がさえないのは何が原因かね。
B. それは簡単ですよ。「企業は人なり」です。日本企業に名社長が少なくなり、無難にすごす先送り社長が多くなったせいだと思いますよ。
A. この問題は身近な問題だから、来月に別な角度から議論しよう。

以上
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