P2M研究会
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P2M研究の方法 - P2M study method-

イーストタスク(株) 代表 渡部 寿春:8月号

 P2Mをプロジェクトや事業活動に活用するには、理論知識と実践力が必要になる。P2Mガイドブックでは、実践力を「体系的知識」、「実践経験」、「姿勢・資質・倫理観」の総合能力とし、評価基準として10のタクソノミーを提唱している。しかし、この実践力を日常の生活で養うには何をすればよいのだろ?日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)では、P2M資格認定制度を設け、P2M実践者向けに目標を設定している。PMSまでは、P2Mの全般の理論知識を習得することとし、PMR以上で実践力と実務経験を認定する。P2M実践者にとって、PMS以降の実践力を養う方法はガイドブックには記載がない。この実践力養成の方法について考察する。

 P2Mの一つの特徴としてプログラムマネジメントがある。これは、価値を記述するミッションプロファイリング、プログラムと複数のプロジェクトの関係を構造化するアーキテクチャーマネジメント、アクションの選択方針を記述する戦略マネジメント、そして、評価基準を定めるアセスメントマネジメントにより構成される。プログラムマネジメントと一般的なプロジェクトマネジメントで異なる点は、外的な環境を認識し分析した上でプロジェクト活動に反映する「経済・社会」を理解する知性が必要となる点である。一般的なプロジェクトマネジメントは、明確な目的と目標が定まっていることを前提に、品質、コスト、期間を達成することが主要な活動となる。これは技術や能力、或いは組織と言った企業内部の管理活動である。一方P2Mでは、外的影響を受けることを前提に、外的変化に応じてプロジェクト活動をコントロールすることで、変化の中でも本来の価値を達成するための柔構造をプログラムマネジメントで提唱している。このことから、P2Mで必要になる実践力の一つは、外的環境を把握し分析した上でプロジェクト活動に応用する能力であると言える。この能力開発の一つとして日経TESTのコンセプトが有効と思われる。

 日経TESTは、正式名称を「日経経済知力テスト」といい、「Test of Economic Sense and Thinking」の訳をTESTの頭文字で表す。日本経済新聞社が、2008年から全国一斉テストを年2回実施している。その特徴は、現実の経済状況から基礎知識、実践知識、視野の広さ、知識を知恵にする力、知恵を活用する力の5種類に分け、客観的な指標で評価する点である。4肢択一が100問出題される形式で1000点満点である。スコアに拘らずとも、メディアによる情報を丹念に分析し、普段のプロジェクト活動と結び付けて考えることは、P2M実践者にとって必須の生活習慣と言えるだろう。ただ、国内メディアに限定した場合、現代のグローバル環境を認識するには限界がある。英国の週刊誌'The Economist'はグローバルな視点で世界の変化を洞察するのに適切な記事を提供する。又、米国の月刊誌'Harvard Business Review'は経営理論のトレンドを提供する。これらの標準的なテキストは、国内のメディアとは違う視点からアングロサクソン的ニュアンスで表現するため、日本人が陥り易い内向き姿勢を矯正するだろう。そして、丹念に解釈することが国際環境を理解する能力を養う。しかし、思考力だけでは実践力として十分でない。プロジェクトは、複数のステークホルダーとコミュニケーションを行う場であり、単独で行う活動ではないため、普段の職場組織を越えた社会的なコミュニケーションが必要である。

 PMAJは、P2Mの資格認定制度と共に実践者のために交流の場を提供している。毎月の例会や研究会など各種イベントは、ボランティア活動により企業組織を超えて研鑽を行う場である。企業は、人材育成で研修や通信教育を提供しているが、自主性や普遍的な能力を養うには、企業内の利害関係が障害になることも多い。所属組織や業界を超えた場で、イベントに参加ことや研究論文を作成することも重要だ。論文の作成も理論研究に偏ることなく、歴史的事業をP2M的に解釈する事例研究や、ビジネスモデルの提案やプログラム構想計画を行う演習も能力のバランスを図る上で有効である。

 実践力を養成する方法としてP2Mの資格制度、主要テキストによる経済知力の開発、更にPMAJでの活動について述べたが、技術分野のプロジェクトを対象にするのであれ ば、技術力も欠かすことは出来ない。技術力も教育機関や資格制度で知識を養うことは可 能だが、実践力について言えば、日々のプロジェクト業務で経験により身に付いたもので無ければ成らない。変化の早い技術分野であっても、リスクや価値を見極める能力は、根気と思考錯誤を要する創造の経験無くしてはあり得ないのだ。P2Mの実践力を養う上で目標となる一例が、放送大学教養学部の科目「イノベーション経営'05」で示されている。「テクノプロデューサー」である。‘コンセプト創造・戦略構築・総合調整’を実行する新しいタイプの「技術家」だ。P2M実践者にとって、ラディカルイノベーションにおいても世界をリードするとの気概を持つことが実践力を養う原動力となるだろう。

<参考文献>
放送大学教材、「イノベーション経営'05」、放送大学教育振興会、2005
日本経済新聞社編、「論点解説日経TEST」、日本経済新聞出版社、2008
2011. Product Innovation. Harvard Business Review. June: pp. 63-111.
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