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「私たちのP2M」とは何か、考えてみませんか (2)
−世界はどのように変わっているのかー

PMAJ理事 東京P2M研究会代表 渡辺 貢成 PMS:5月号

皆さん、「私たちのP2M」とは何か、考えてみませんか(1)を大胆に発表しましたら、早速ご質問を頂きました。ありがとうございます。これでこそ、「私たちのP2M」ですね。このコーナーは「私たちのP2M」ですから、討議大歓迎です。早速ご案内します。

1.ご質問とその回答
質問:今月のオンラインジャーナル「私たちのP2M」に記載されているPMBOKとP2Mの違いの図表について少し私見を述べさせていただきます。

「仕様の確定」はPMBOKの範囲外との図表になっていますが、PMBOK第4版では、ステークホルダーの特定や要求事項を収集・特定等が含まれています。要求事項が明確になった後仕様が確定すると思われますから、「仕様の確定」はPMBOKの範囲内と考えますが、どうでしょうか?

回答:
ご質問はこの図に関連します。図中PMBOKは「システムモデル」に位置づけられています。PMBOKの中に仕様の確定がないのはおかしいというご質問です。
ご主旨の「仕様の確定」がなされないと、設計を始めることができませんので、ご指摘の意味ではPMBOKに「仕様の確定」が含まれます。
実はこの図で、「仕様の確定」を正しく定義していなかったことに誤解を生みました。
この図で「スキームモデル」は発注者が自らが望んでいるプロジェクトの構想計画を確定し、そしてベンダーにプロジェクト仕様書を渡すことが、従来から行われている手法であることを申し上げたかったのです。わが社は「何をすることで競争に打ち勝っていくのか」を決めたものが構想計画だからです。IT業界では長い間この習慣が途絶えていたようですが、2006年にIPAから「超上流からIT化する勘どころ」が発行され、発注者の職務として示唆されています。ここで「仕様の確定」も定義を正しくする必要がありました。
要件定義・仕様とテストの関係 図からお分かりいただけるように、要件定義でも@ビジネス要求、Aユーザー(業務)要求、Bシステム要求があります。特に重要なのがビジネス要求です。ビジネス要求は経営陣(含む経営企画室)が考えるもので、ベンダーが業務現場や、ITシステム部門の方々にヒアリングしても求めることは無理と思います。

この回答の中で最も重要なことは「超上流を正しく実施する」ことです。これは米国ではMBA資格者の役割でPMP資格者の範囲外です。

2. 世の中はどのように変わっているのか
本項が2回目のテーマの話です。
日本製品が占める国際的シェア 図を見てください。日本製品が占める国際的シェアの下落です。
新聞を見ていますと日本は「製造業=技術」を標榜しています。この図の対象はRDAMメモリ、液晶パネル、DVDプレヤー、太陽光発電、カーナビです。
実は日本は今でもこの分野で世界一の技術力を持っています。技術力がありながら、売れないとは情けないと思いませんか。何故でしょうか?このところがわからないと手の打ちようがありません。
ここが重要です。1999年に通産省が新しいPM創出を望んだのは、対中国対策で、価値の創出が最も望まれていました。当時は中国が現代ほど力を発揮するとは考えていなかったのですが、中国の台頭に備えるためのPMとして、従来なかったオーナーのためのPMを創ろうという基本構想をまとめました。PMBOKの「how to」に対し、「what to」のPMを目指しました。これがプログラムマネジメントです。世の中の複雑性、多様性、不確実性が増える中で、グローバル化という拡張性が高い、社会で役に立つPMです。
そして、10年たってみるとその要求どおりになりました。しかし、残念ながら未だにグロ−バル社会の現実を理解している人々が多くないというのが現実です。

そこで今回は近年の歴史の流れを図式化しました。

イノベーションモデルのイノベーション

図は妹尾堅一郎著「技術力で勝る日本が、なぜ事業でまけるのか」を中心に種々追加したものですが、図の特徴を話します。
(1) 第3期大企業による画期的発明駆動型
  第2期の画期的発明の後は、大企業が切磋琢磨して産業そのものを伸ばした時で、この時期の勝者は日本でした。米国は「技術力で勝るのに、なぜ事業(製造業)負けるのか」を経験したわけです。原因を日本ではQC活動と改善と評価していますが、最大の功労者はデミングです。米国が負けたのは「品質とコストはトレードオフの関係にある」というテーラーの科学的管理法を支持し続けてきたことによります。テーラー全盛期の米国でデミングは全く評価されず、60歳で日本に来ました。20年掛けて日本の製造業を世界一に仕上げました。品質は検査で決まるとしたテーラー方式に対し、品質は製造プロセスの中でつくり上げていく方式をとったデミング方式は不良品が減少し、品質の向上はコストダウンにリンクしました。日本企業の集団思考とデミングの統計的品質管理法の相性がよく大成功を収めました。
(2) マルコム・ボルトリッジ賞以降の米国
  1985年米国は日本に勝つための方策としてヤング・レポートを発表し、モノの品質保証から、経営の品質保証に切り替えました。これは80歳になったデミングが日本に勝つ戦略として、モノで勝負しても勝てないが、幸い日本の経営者のレベルは高くないから、これからは経営者の戦略で勝つことを推奨し、マルコム・ボルトリッジ賞が創設されました。ここから米国のグローバル展開が始まります。米国のグローバル展開は冷戦に勝利し、ソ連という競争相手がいなくなった中での壮大なグローバル戦略が実施されました。
第一はマルクスが昔指摘していた資本主義の帝国主義化への歩みを進めたこと。金融の動きがそれを示しています。グローバル化とは国の規制をかいくぐることができるからです。結局は行き着くところまで行ってしまいました。
第二がアナログ世界からからデジタル世界への戦略的転換です。
このデジタル的戦略が日本の製造業に大きな影響を与えることになっていると、皆さんは気がついているでしょうか。日本は国内の目先の相手とばかり勝負をしている間に、冒頭に述べた、「技術に勝って、ビジネスで負ける」負のロードマップを歩み続けることになりました。

次回はアナログ時代の戦略とデジタル時代の戦略の話をします。P2M創出の目的がここにあるからです。

以上
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