「アドベンチャーには人を育てる不思議な力がある」ことに気づき、教育に導入したのはKurt Hahn博士(1886-1974)のOBS(アウトワード・バウンドスクール)です。日本でも1953年に朝日キャンプが生駒山キャンプセンターを開設し、その後、多くの教育キャンプ場が開設されています。
なぜ冒険:アドベンチャーに人を育てる力があるのでしょうか。人は身に危険が迫ってきたとき、仲間同士が助け合い協力しあうという本能的な行動をとります。人類が誕生した頃から、集団で狩を行い、困難を乗り越えて生き延びてきた結果です。ところが、現代生活、特に都会生活では、本来人が持つ「協力しあう力」がさび付いてしまい、ほとんど機能していません。
そこで、アドベンチャーにより、擬似的に身の危険を感ずれば、さびついていた「協力しあう力」が目をさますはずです。危険でなくとも、協力が必要な場面を作れば、「協力しあう力」が発揮され、強化されます。このような考え方から「冒険学習」が開発されています。
この考え方は、非常に興味深いものです。チームビルディングは、理性や思考によって作られるのではなく、大脳皮質よりもっと深い部分、前頭葉や扁桃体が関係していることを示しています。プロジェクトでは、職場では、仲良く、協力することが必要なことは、誰でも理解していますが、実際、うまく行かないのも納得できます。
具体的に「冒険学習」は、どんなことを行うのでしょうか。先月(10月)にリーダーシップ・アドベンチャー研修を行っているリコーヒューマンクリエイツ株式会社の高橋社長の計らいで、リコー東松山研修センターを使った「冒険学習」を体験する機会を得ました。
研修対象は、携帯のOS開発を行っているプロジェクトのメンバー約50名で、2回に分け1泊2日で行いました。1日目をリーダーシップ・アドベンチャー研修に充て、2日目を自己開示型の研修としました。
先ず驚いたのは、この研修に対する参加者の期待が大きかったことです。 一般的にITプロジェクトのメンバー全員を対象として、研修を計画しても、参加者は予定の60%も来れば大成功ですが、今回は体調不良の1名を除いて、全員が参加しました。
リーダーシップアドベンチャーは、ローエレメントコースとハイエレメントコースに別れており、設備も2系統あります。今回は、ローエレメントコースを使って行われました。指導は専門のトレーニングを受けたトレーナが担当し、安全面は十分配慮されています。
上の写真は、10名で行う「ムカデ競争」です。太い木材にロープが付いているだけの簡単な構造で、とてものコントロールできるとは思えません。最初に乗った時、1秒もしないで先頭が倒れました。
それでも、試行錯誤の結果、次第に動き始め、掛け声が自然に出て、どんどん速くなって行き、ちゃんとゴールできました。
下の写真は、「ニトロクロッシング」と呼ばれるもので、5mほど離れたところから、写真のような小さな踏み台へロープを使って飛び移ります。何と14人もの人が、この小さな台に飛び移ります。とても出来そうにないと思うのですが、これも不思議なことに、自然と協力し合って、達成できます。
プロジェクトにおける役割とは関係なく、シャッフルしてグループ編成を行ったのですが、自然と協力し合う行動が見られますし、リーダーシップ行動も見られました。短時間で、ちゃんと、チームとして機能しています。
写真で紹介したもの以外ににも、困難な課題に対して、自然と協力し合い、達成することができました。トレーナさんから聞いたのですが、見ず知らずの人が集まっても、多少の差はあるが同様に達成できるそうです。
さびついていた「協力し合う力」が、アドベンチャーの環境において引き出されることは明らかです。次は、「協力し合う力」がそれ以降において、どのくらい持続できるのか、あるいは、どのようにすれば持続、強化出来るのかについて考えましょう。
松尾谷 徹