例会部会
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「第184回例会」報告

例会部会長 枝窪 肇: 5月号

 日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、3月に開催された第184回例会についてレポートいたします。

【データ】
開催日: 2014年3月28日(金)19:00~20:30
テーマ: ソフトウェア開発に関する「プロジェクトマネジメントの落とし穴」
 ~契約リスクマネジメントの徹底~
講師: CPMソリューション株式会社 高橋 靖史 様
講師略歴及び講演概要:
    こちら のリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
 赤字を出すプロジェクトは数多く、また、いつまでたっても無くならないのが現状ですが、これはマネジメントに何か不足しているものがあるはずだと講師は考えました。
 そこで、この不足を補う手段の一つとして契約リスクマネジメントの実施が必要と考え、経営革新の一環として取り組まれました。
 以下に今回のご講演の概要をまとめます。

【講演概要】
契約リスクマネジメント:
 プロジェクトには社内外の多くの人が関わります。プロジェクトで問題が発生したときに、多くの場合、担当のSEだとかPMOだとかの特定の誰かが頑張ろうとしますが、それではうまくいきません。契約をする人、SE部門、PMOが連携し、また、お客様にも役割をきっちりと担っていただくことが重要です。もしも問題がうまく解決しない時には、お客様とSIerのトップ同志がきちんと話をすることが大切であり、こうすれば問題が大きくならないのです。
 契約リスクマネジメントとは、PMリスクの回避を目的として、契約リスク未然防止の視点から、経営トップ、システム部門、PMO、営業、契約サポート部門が組織一体となって行うリスクマネジメントです。

説明義務と協力義務の必要性:
 ハードウェアやサービスの業種では、仕様はメーカーやサービスベンダーが決定するのに対し、SI(ソフトウェア開発)の業種ではお客様が仕様を決定します。ですから、SI業界ではお客様の対応が大きなインパクトを与えるという特徴があります。
 SIerは協働モノづくりのための作業手順、ルール、不測事態発生時の対応等を予めお客様に説明する義務があり、またお客様にはSIerの作業に協力する義務が生じます。
 お客様の協力義務の不履行はソフトウェア開発の阻害要因となります。

「SIerの説明義務」の重要ポイント
 SIerがお客様に対して十分な説明をしなくてはいけないポイントは以下の3つです。
作業手順・不測事態対応:
  ① 作業内容・作業分担 ② 契約の形態 ③ 客先責任で追加費用が生じる場合の取り決め ④ 協議不一致の場合の取り決め ⑤ 検収ルール (これら①~⑤の頭文字をとって「サケツキ検収」と覚える)などがあります。
プロジェクト運営ルール:
  変更管理とエスカレーションルール(まとまらないときにはトップ同士で何をするかを決めておく)
お客様の協力義務:
  お客様に協力を依頼する事項について意識合わせを実施(これを説明できていないケースが多い)

「お客様の協力義務」の重要ポイント
 プロジェクトの各フェーズでお客様が協力しなくてはいけないポイントは以下のとおりです。
開発作業着手前:
  プロジェクト目的の明確化
要件定義、外部設計工程:
  指示・要求事項の円滑なとりまとめ・確定、機能の優先付けと絞り込みへの誠実な協力
内部設計、プログラム製造、単体テスト、内部結合テスト工程:
  受入検査仕様書の作成と受入検査基準(検収条件)の迅速な連絡
外部結合テスト、総合テスト工程:
  総合テスト仕様書等の準備、テストデータの準備
全行程を通じて:
  社内調整の円滑かつ迅速な実行、作業分担の着実な実行、お客様自身の意思決定事項やお客様でないと解決できない事項への迅速な対応

国保判決とPM義務
 国保判決とは、SIerのPM義務違反と注文主の協力義務違反が原因で、規模が膨らみ、納期延長かつシステムが完成できず開発中止となったプロジェクトについての訴訟の判決で、初めてPM義務に関する明確な見解が示された判決です。その後、スルガ銀行IBM裁判の第一審と控訴審で支持されたことで、SIerのPM義務に対する見解が判例見解として定着しました。
 これにより、SIerとお客様の双方に責任がある場合は、6:4の割合でSIerの方の責任が重くなることとなりました。
 国保判決では、具体的なPM義務違反として以下の3つの類型を示しています。
類型 1 開発手順、手法、作業工程の遵守:
  提案書において提示した開発手順や開発手法、作業工程等に従って開発を進める義務を負う
類型 2 進捗状況管理、開発作業阻害要因への適切な対処:
  常に進捗状況を管理し、開発作業を阻害する要因の発見に努め、これに適切対処すべき義務を負う
類型 3 注文者の作為・不作為によって開発作業が阻害されないよう注文者に働きかけを行う
  SIerは注文者のシステム開発の関わりについても、適切に管理し、システム開発に関して専門的知識を有しない注文者によって開発作業を阻害される行為がされることのないよう注文者に働きかける義務を負う
類型 3-1 注文者が意思決定を行うべき事項に対し、機嫌・課題及び意思決定が行われない場合の支障を示す
類型 3-2 変更管理ルール
 類型3-2で示した変更管理ルールについて、変更管理上の留意点として特に重要なのは、お客様の過剰要求が追加要求かどうかをタイムリー(一週間以内)に判断してお客様に説明しないといけないということです。これを実施するためには、提案時の見積り前提条件を明確にしておかなければなりません。

契約リスクマネジメント実行指針
 過去の判例でPM義務違反によりSIerの責任が客先よりも重くなったことにより、PM義務違反にならないようなプロジェクト遂行をするための契約リスクマネジメントの必要性が発生しました。
契約リスクマネジメントの実行指針は以下のとおりです。
  PM義務の行動基準を現場に分かり易い形で展開
  プロジェクト状況のタイムリーな把握の仕組み構築
  契約基本方針の確立ならびにその遵守と例外対応に向けた横連携強化
  組織マネジメントの徹底

作業中断の意思決定
 どんなに契約リスクマネジメントを実践し、契約段階やPM段階でリスク軽減に努めても、お客様との協議が整わず、状態を継続すると甚大な損害が想定されることもあります。
 お客様の協力義務違反などお客様側に非があるときには、最悪の場合、作業の中断や解約をしたほうが傷口が浅くて済むことがあります。
 不幸にして生じた赤字プロジェクトの拡大を防ぐための意思決定を行うこともとても重要です。

まとめ
 契約リスクマネジメント視点における赤字プロジェクト撲滅・軽減の要点は以下のとおりです。
 まず、説明責任を果たし、契約やプロジェクト運営ルールの正しい締結を行う。
 次に、開発阻害要因の把握とPM義務の着実な実行を行う。
 その為、プロジェクトの最新動向を情報共有できる仕組みを構築し、場合により、問題案件について、要件定義・外部設計段階で中断、解約の意思決定を行う。

【感想】
 これまで耳にしたことがないPM義務についての理解が深まったとともに、ひとたび訴訟に発展してしまったら、このPM義務違反が想像以上に影響力を及ぼすということがわかりました。お客様への協力依頼やトップも含めた社内体制の構築など、契約時に盛り込むべき内容を見直すきっかけをいただき、大変有意義な時間となりました。

 以上が今回の例会の概要です。今回のご講演資料は、協会ホームページの「PMAJライブラリ(例会・関西例会)」のページにアップロードされていますのでご参照いただければと思います。

 最後に、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集しています。参加ご希望の方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。

以上

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