例会部会
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「第183回例会」報告

PMAJ例会部会 原 宣男: 4月号

開催日: 2014年2月28日(金)19:00~20:30
テーマ: 「プロジェクトマネジメントにコーチングを生かす」
 ~薩摩藩の教育にみる質問の効果~
講師: 横河電機株式会社 山内 香里 様
講師略歴及び講演概要:
    こちら のリンク先の例会案内をご覧ください。

【はじめに】
 講師は入社以来、システムエンジニアあるいはプロジェクトリーダとして、国内、海外のプロジェクトを経験されていますが、ある時、自己啓発としてコーチングを学ばれ、その知識を生かして、現在コーチとしても活動されています。
 本日は、プロジェクトマネジメントに有効なコーチングの手法のひとつである「効果的な質問」についてご紹介頂きました。

【講演概要】
 以下、実際に講演された内容を要約して以下に記載致します。
 尚、適宜、講演資料をご参照願います。

コーチングとミラクルクエスチョン
 ここに参加されている方はプロジェクトマネジメントを実践しておられ、その資格を持っている方が多いと思います。私は何年もプロジェクトマネジメントをやっていますが、プロジェクトマネジメントの資格はありません。どこの会社も同じだと思いますが、資格を取得するには結構費用がかかりますので、上司に言っても予算が無いとか、なかなか許可を得られませんでした。従って、コーチングについては自己啓発として個人的にやりはじめました。
 さて、皆様に質問します。
 「もしPMの資格を10年前に取っていたら、今どんな風に変わっていましたか。」
 コーチングは質問をするコミュニケーションです。その人にどのような質問をすればよいか考えていくのです。質問したのに答えてくれないとか、質問に質問で返された時は、質問自体に何か悪いところがあるのです。
 効果的な質問は、本人に気づきを与え、本人が腑に落ちれば、本人の思考が変わり、本人の行動が変わります。プロジェクトマネジメントも同様だと思います。
 最初に勉強を始めた時から10年くらいコーチングをやってきました。はじめのうちは、質問の効果がわかりませんでしたので、もっと上に行けば何かが違うだろうと資格取得を目指しました。資格試験で結果をスーパーバイザーに尋ねたところ、10点中2点だと言われ、8回目で4点、9回目にやっと5点をとれました。その後の試験をどうしようと思っていたら、たまたまミラクルクエスチョンに行き当たりました。それがコーチングでは有名な質問「もし~だったら」です。

PMに求められているもの (スライド2)
 スライド2の質問を、身近なPMおよびPMらしき人、5人に聞きました。ほとんどの方が人に関係することだと言いました。逆にQCD(品質、コスト、納期)について触れた人はいませんでした。人に動いてもらえるようにすることは、コーチングと同じです。つまりコーチングが役に立つということです。

郷中教育 (スライド3)
 歴史家が語る歴史からの教えを磯田道史氏の本から知ることができます。薩摩藩の武士階級子弟の教育法である「郷中教育(ごじゅうきょういく)」が特徴的です。これはスライド3に示したように集団活動を行うものです。ちなみに薩摩地方では現在でも「二才(にせ)どん」という言葉が残っています。

薩摩の名士達の出身地 (スライド4)
 薩摩の歴史の有名人である、西郷隆盛、大久保利通、東郷平八郎、山本権兵衛、大山巌は、500m四方の地域、現在の鹿児島県鹿児島市加治屋町の出身でした。なぜこれほどの有名人が皆この狭い地域から輩出したかというと、この地域には独特の教育システムがあったからで、それは「詮議(せんぎ)」と呼ばれるものでした。

詮議 (スライド5)
 「詮議」とは判断力を養う技術です。現在、「詮議」という言葉は罪人を取り調べることに使われますが、ここでは質問に対し如何に考えるかということです。
 では、皆さん考えてみましょう。
友達が金持ちから盗んだ金を、貧乏なあなたにやると言いました。
どうしたらいいですか?
自分の親が不治の病に罹っています。ちょうど一人分の薬しか手元にない時、殿様も同じ不治の病で、その薬が欲しいと言われました。薬は藩内では他に手に入らないそうです。どうしたらいいですか?
 自分の立場や相手の立場を考えること。これは当時も考えたと思いますが、これに正解はありません。こういうことが起きた時にどれがベストかを考えること。それが詮議です。当時は、殿様は家来を養っているという考え方で皆が育ってきている為、現代の皆さんとは答が違うかもしれません。
 狭いエリアから這い出した今の日本では、こういう風に物事を考えることが少なくなっていますが、海外では色々と考える機会が与えられています。中でもハーバード大学の「白熱教育」が有名です。柳田邦男氏は、日本人は判断力が低いと言っています。日本人はレーダーが弱い、最悪の事態を考えることをやめてしまったと言っています。例えば、森元首相のフィギアスケートに関する失言ですが、次に何が起きるかを考えていないことに問題があるのではと思います。

コーチングとは (スライド6)
 コーチングとは、効果的な質問により、本人に気づかせ、腑に落とさせ、思考を変え、行動を変えさせることです。その人の物事や行動や言語にとらわれず、その人の価値観に焦点をあてることです。
 コーチングの「質問」はいろいろなパターンがありますが、「承認」とは、「こういうことだね。」ということです。また、「フィードバック」とはそのまま返すことです。「フィードバック」と「質問」は働きかける力で、「承認」と「傾聴」は受け入れる力です。これらのバランスが大事であり、それがコーチングの技術です。

コーチングの概念図 (スライド7)
 皆さんはあまり良く知らない大きなショッピングセンターに行った時、まずどこに行きますか。まず地図のあるところに行きますね。そして次に何をしますか。地図上で現在地を見ますね。そして目的地を見つけ、そこまでのルートを見ますね。こうすることで、短い時間で目的地まで辿り着けます。コーチングも同じで、最初に現在の状況を明らかにするのが大事です。リソースや、やさしいか、力強いか等の要素も把握しておきます。
 次に、目標を立て、現在とのギャップを埋めていくのです。線を引いて目標に向かっていくのですが、ミラクルクエスチョンを行って、目標に達した時に何をやりたいかを明らかにしておきます。そうすると早く目標に到達します。脳は頭の中でシミュレーションすると、もう自分の中で経験していると認識してしまうのです。ひとつの例ですが、具志堅さんは、大会の前に大けがをして入院された際、病院のベッドで試合を想像していたので、すぐに復帰できたといいます。目標をあらかじめ見せることが、その人にとって大事なことです。先の目標やビジョン、価値観、目的に焦点を当てると効果的です。

うまくいくのはどっち? (スライド8)
 皆さんスライド8のAとBで、どちらがうまくいくと思いますか?
 Bが「もしできるとしたら、どういう処置が必要だと思う?」というミラクルクエスチョンです。Bは部下が自分から言ったので、失敗した場合は部下の責任になります。つまりBは部下にコミットメントさせているのです。従って、部下は一生懸命言ったことを実現しようとし、うまくいくのです。逆にAの場合は、失敗したら上司の責任ということで、部下は責任を免れることが出来、うまくいかないかもしれません。

うまくいくのはどっち? (スライド9)
 ではスライド9のAとBのどちらがうまくいくと思いますか?
 もう、おわかりですよね。

質問の力 (スライド10)
 プロジェクトのビジョンなど先の目標を見せると、途中の目標が見えやすくなります。
 通常マイルストンを置きますが、先の目標があるとマイルストンが明確になります。
 上司から依頼されてEXCEL表を作った時の話ですが、最初に必要とされる表の最終形を伝えてくれていれば、もっと効果的に作れたのにと思うことがありました。
 最終目標を見せると人は近道を通りますが、その際、ものすごく力を発揮するのです。
 薩摩藩の詮議のように質問を繰り返すことが大事です。未来を創造させる質問が良い質問です。

<聴講者からの質問>
 自発的に目標を考えさせることと目標を示してしまうことは矛盾していませんか?
<回答>
 目標がはっきり決まっているものと、目標がはっきり決まっていないものがあり、誘導してはいけませんが、目標が決まっていれば誘導にはなりません。途中の道が決まっていないのに、道を決めてしまうのは誘導です。

職場で質問を使ってみるとしたら (スライド11)
 スライド11の質問に対する回答を3分間考えてみてください。
 (3分後)
 では、隣の人と回答について、はずかしくない範囲で話してみてください。
 自分のことを相手に話してみてどうでしたか? 同じ悩みをもっていたとか。
 本日言ったことは、皆様は、きっと実行されると思います。
 良い質問とは、部下にコミットさせることと、先の目標を描かせることで、目標に近づけさせることです。

まとめ
 本日の内容をまとめると以下の通りです。
最悪のことを考えない日本人
薩摩藩の教育
   判断力を付ける。小さいころから身に着けさせる。
コーチング
   質問、傾聴、承認、フィードバック
   コーチングの概念。目標の後ろにあるBeingに注目。
質問
   行動、意識を変化させる。
   未来を想像させる質問「もし~だったら」

皆様、是非、本日お話した質問を使ってみてください。きっとお役に立つと思います。

【感想】
 コーチングで効果的な質問をして部下を動かすことや、目標のさらに先にある目標を定めることで手前の目標を容易に達成させるという点については、すぐにでも実践できる事項で、参加者にとってはとても有益な話であったと思います。
 プロジェクトマネジメントにすぐに使えるコーチングのポイントについて、歴史の事実を交えてご説明頂いた講演者の山内様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

以上

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