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ディベートの勧め

PMBOK研修部会 加藤 亨 [プロフィール] :8月号

 先日、面白い話を聞いた。米国人講師の英語学習のセミナーを受講した時のことである。彼は言う。「我々米国人は、小さいころから『結⇒承⇒結⇒結』で話すように鍛えられている。」と。
 言うまでもなくこれは、日本が一般的に良い文章としている『起⇒承⇒転⇒結』のアナロジーとしての表現であり、実際に、『結⇒承⇒結⇒結』という教えが米国にあるわけではないであろう。しかし、雰囲気は出ている。要は、最初に結論を述べ、あとはその結論を証明する論理展開や根拠となる事例を述べ、改めて結論を繰返しなさい、と言うことであろう。そう言えば、TIMEなどの英語の雑誌を読む時は、パラグラフの最初の文章に注目して読んでいくと理解しやすいという話を聞いたこともある。
 一方、『起⇒承⇒転⇒結』は、いまさら説明する必要もないかもしれないが、物事の起こりから語り始め(起)、経緯を説明したところで(承)、別の価値観や事例と対比させ(転)、その対比から得られた結論で締めくくる(結)、と言う展開である。
 典型的な例として紹介されるのが、「京都三条いとやの娘(起) 姉は16妹は14(承) 諸国大名弓矢で殺す(転) いとやの娘は目で殺す(結)」というフレーズであり、聞いたことがある人も多いと思う。
 ここで、どちらの文体が優れているかと言う議論をするつもりはない。ただ、『結⇒承⇒結⇒結』という論理展開を叩き込まれて育った欧米人が、『起⇒承⇒転⇒結』という論理展開で話す日本人の話を聞いた時に、何を感じるのだろうかと言うことが気になった。
 『起⇒承⇒転⇒結』という論理展開において、本当に言いたいことは最初には無い。最後まで聞いてもらえなければ、本当に言いたいことは相手には伝わらない。『結⇒承⇒結⇒結』という論理展開においては、最初こそが重要であり、最初の結論に興味を持てなければ、あとは聞く必要が無い。また、最初の部分に興味を持ったとしても、それに続く論理展開で期待するのは、最初の結論を証明するロジックであり、根拠となる資料や事例である。違う価値観が提示されると言うことは想像もしていないだろう。
 国際コミュニケーションにおいて、日本人がなかなか受け入れられない、あるいはなかなか仲間を作れない要因の一つはこの辺にあるのかもしれない。
 何か良い方法は無いかと思っていたら、これまた英語のセミナーで習ったディベートを思い出した。
 ディベートは、一時期「言葉のボクシング」などと紹介されて、いかにも相手をやり込める話術のように理解している人もいるかもしれないが、実際には、論理的思考を鍛えたり、多面的な分析力を身につけたり、オーラルコミュニケーション(話し言葉によるコミュニケーション)能力を高めたりするための教育手段として実践されている。
  ディベートを行うためには、以下の構成要素が必要だと言われている。
 ・ 論題
 ・ 肯定側/否定側
 ・ 審判(観客)
 そして、ディベートで説得するのは、相手側では無く、第三者としての審判(観客)である。
 また、ディベートは通常、あくまでも話し言葉だけで行われる。図表を示したりすることは無い。話し言葉には「語られるとすぐに消えて行く」と言う特性がある。したがって、話し言葉の場合は、最初に結論を述べ、それを補強するロジックをデータと結び付けて簡潔に語る必要がある。ことの起こりから話し始めて経緯を説明し、結論で終わる話し方では、印象が弱く、さらに結論がなぜ正しいのかの証明がなされない。これでは、審判(観客)は説得されない。
 ディベートで必要になるのは、第三者である審判(観客)に対して、自分の主張と相手の主張がどのように異なり、なぜ、自分の主張の方にメリットがあるのかを、証拠資料を交えて、明確に説明する論理的な説明力である。当然、相手側がどのように反論してくるかも事前に分析して、それに対応するロジックも準備しておく必要がある。その意味で、物事を多面的にみる訓練にもなると言われている。
 さらに、ディベートは一方の意見だけを主張するだけではなく、相手側の意見を冷静に聞き、ポイントを押さえて反論しなければならないので、人の意見を聞く訓練にもなる。そして、両者の意見を比較することは、ものごとには、必ず良い面もあれば悪い面もあるということを理解することにつながり、物事の本質をとらえる訓練にもつながる。
 自分の意見の正しさを人前で主張することは、「和をもって貴しとなす」日本人には最初は抵抗があるかもしれない。しかし、グローバル時代を迎えて、そんなことも言ってはいられないだろう。むしろ、国際社会の中で、堂々と自分の主張を発言できるコミュニケーション力が求められているのではないだろうか。
 ところで、プロジェクトマネジメントは、プロセス間のトレードオフを、いかにバランスを取りながらプロジェクトを遂行するかが重要であると言われている。一つの意思決定は、あるマネジメント領域にはプラスになるが、ある領域においてはマイナスになるということが常に発生する。品質とコストのトレードオフは典型的な例であろう。このトレードオフを冷静に分析し、プロジェクトの目的に対してどちらが有効かを論理的に測り、意思決定を下すことがプロジェクトマネージャ(PM)の大きな役割と言っても過言ではない。まさに、日々、ディベートを行っているような世界である。
 さらに、ディベートを通して、オーラルコミュニケーション能力を鍛えることは、ステークホルダーマネジメントを効果的に進める上でも有効であり、グローバルな環境でプロジェクトマネジメントを実践するPMとしては、習得しておくべきスキルではないだろうか。
 グローバルな競争環境で勝ち抜いていかなければならない日本のPM、PM候補生諸君。ディベートと言う論理的思考、オーラルコミュニケーション能力習得の手段を、一度経験してみてはいかがだろうか。

(参考資料)
英語ディベート実践マニュアル(松本 茂著)バベル・プレス発行
日本社会人ディベート連盟ホームページ  リンクはこちら

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