投稿コーナー
先号   次号

「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
~グローバルにPJを進める力~

井上 多恵子 [プロフィール] :9月号

 8月26日付日経新聞1面の「企業再生を考える」に、日産がルノーという異文化を受け入れたことで、真の世界企業になれたと書かれている。また、経営危機に直面するシャープが台湾のホンハイ精密工業との資本業務提携を成功させるためには、双方が異文化を受け入れ世界企業になる必要があるとも記載されている。
 日本企業のグローバル化が待ったなしで進んでいく中、「グローバルにPJを進める力」がますます求められるようになる。グローバルに人材育成をする部署に4月に異動し、グローバルなPJにどっぷり関与している立場から、「グローバルにPJを進める力」について、今回は考えてみたい。
 私が現在関わっているグローバルなPJは2つだ。1つは、グローバルに実施している社員意識調査。もう1つは、シンガポールとインドで来月実施する研修だ。社員意識調査は今年で3年目になる。私は今年の準備をする段PJ階から関わってきているが、グローバルにPJをやると仕事量がぐっと増えるということが、気づいた第1点だ。以前もこのジャーナルで書いたが、時差の関係上、こちらが休んでいる間に動いている地域があるわけで、朝出社すると、彼らが送付してきたメールが届いている。電話会議等をアレンジする場合も、夜遅くになることが多い。もちろんプラスの面もある。現在のように、やってもやっても仕事が終わらない状況の場合は、平日の昼間は職場や国内で関係する人たちとの打ち合わせに使い、夕方以降海外の人たちとのやり取りをする、ということができる。
 日本では英語力の強化が問題視されており、私は日本だけが世界より遅れているのか、と長い間思ってきた。が、実はそうではないことが、今回のPJを通じてわかった。英語だけでは困るという国や部署が複数あり、質問票や付随するメッセージ等を諸言語に翻訳する、という作業が発生している。最初の段階で設問やメッセージの全てが決まればいいが、途中で急遽追加されることが決まると、翻訳者を探してアサインする、というタスクが発生する。今回はちょうど夏休み時期にかかったので、大変だった。数週間単位で休みを取る海外担当者がいるからだ。
 考え方が異なる国々の担当者間を対象に、共通した調査を実施しようとすると、意見の調整にも時間がかかる。それでも、今は仕事の進め方は随分楽になったと思う。メールに加え、オンラインチャットやオンラインで簡単にビデオ会議ができるからだ。社内のインフラを使ってオンラインで簡単にビデオ会議ができる方法を、実はつい最近まで知らなかった。これからは、大量にメールを送ったり、ビデオ会議ができる部屋を探したりする手間が省かれる。
 PJの進め方についても、お国柄が表れる。当初決めたスケジュールを変更する可能性についての意見を関係部署に打診した際、ビジネスライクに進める北欧からは、直球の返事が帰ってきた。変更によって生じるマイナスの影響が、ストレートに辛辣な表現で、箇条書きで列挙されていた。多少なりとも表現を丸めようという意識は全く感じられない。一方で、アジア地域の担当者からは、もう少し情に訴えるメールが届いた。
 異文化コミュニケーションを強みとする私にとっては、学ぶことも多い。例えば、複数の地域が作成した、社員意識調査について告知するポスター。お国柄が表現されている。言葉の定義にこだわりを見せる北米地域。低コンテキスト文化の特徴が表れているのだろう。びしっとスケジュールを立てて、それに従って着々と進める、そして、長期の休みを取るために、不在期間中の引き継ぎを進める北欧の文化。最近では、せっかくの機会なので、メールの英語表現も参考にしようとしている。特に北米の人が送付してくるメールは、いかに簡潔にわかりやすく伝えるか、という点で多いに参考になる。2年前に共著で出版した本が今度電子書籍として出版されることになったが、電子書籍であれば、出版までのハードルが低くなるので、「実践ビジネス英文メール」(仮称)で電子書籍を出すことを目指すことにした。目標があれば、超残業の日々もポジティブに捉えることができる。実際、この目標を立ててからは、処理が面倒なメールを読むことを楽しめることができるようになった。
 シンガポールとインドで実施する研修の準備にあたっても、国内の調整に加え、海外とのやり取りが多い。シンガポールとのやり取りでは、シンガポール人だけでなく、シンガポールオフィスで働くイギリス人やインド人とのやり取りが発生している。活況を呈しているシンガポールに魅了され、そこで働くことを選択した人々だ。来月号のこのジャーナルを書く時期はちょうど、インドにいる。新興国市場として期待を集めるインド社会を観察し、インド人と密に接して気づいた点などを含めた「インド最新情報」をお届けしたいと思う。
ページトップに戻る